第二十二層 再臨
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階段を上がった瞬間、
空気が鳴った。
バチ、と。
乾いた音ではない。
大地の奥で、何か巨大なものが目を覚ました時の――低い放電音。
セルグレンが、反射的に盾を前に出す。
「……来るぞ」
リゲロは舌打ちした。
「いや、もう来てる」
ジージーは一歩、前に出た。
第二十層は、広かった。
だが“広い”というより――逃げ場がない。
天井は見えないほど高く、
床は黒く焼け焦げ、
あちこちに、かつて雷が貫いた痕が残っている。
ミナが、ぽつりと言った。
「……覚えてる」
ジージーも、覚えていた。
あの日。
初めて、力の差をはっきり突きつけられた相手。
――雷帝ワーヴ・ハイゼル。
◆
空が、歪んだ。
雲もないのに、雷鳴が走る。
次の瞬間、空間そのものが裂けるようにして、**“それ”**が現れた。
巨躯。
重装。
両肩から伸びる角状の装甲。
そして、握られた雷杖。
「……ほう」
低く、重い声。
ワーヴ・ハイゼル
「まだ生きていたか。
小さき者ども」
雷が、足元を走った。
ただ立っているだけで、魔力が大気を焦がす。
セルグレンの喉が鳴る。
「前より……圧が増してる」
リゲロ
「再戦ってのは、
大体こういうもんだよな……」
ジージーは、杖を握りしめた。
(でも――)
前とは違う。
浮遊魔法が、無意識に発動する。
足が、わずかに地面から離れた。
雷帝の視線が、ジージーに向く。
「……貴様」
一瞬、間があった。
「空に立つ術を覚えたか」
その声に、嘲りはない。
だが――評価でもない。
雷帝
「だが、それだけだ」
雷が、落ちた。
◆
世界が、白くなる。
雷撃は直線ではない。
逃げ場を“選ばせない”ように、網のように広がる。
「セル!!」
「分かっている!!」
聖盾が光を放ち、雷を受け止める。
だが衝撃で、セルグレンの身体が空中で弾かれた。
「ぐっ……!!」
リゲロが即座に動く。
「エアライン――!」
空中に走る不可視の“線”。
セルグレンはそこに足をかけ、体勢を立て直す。
雷帝が、低く笑った。
「連携は上達したな」
次の瞬間、雷帝の背後に雷輪が展開される。
ミナが叫ぶ。
「……来る!
全方位!!」
ジージーは、空中で杖を振り抜いた。
「《ダイヤモンドダスト》!!」
氷の輝粒が、雷と衝突する。
蒸発。
破砕。
だが、一瞬だけ雷の軌道が乱れた。
雷帝の目が、細くなる。
「……ほう」
評価が、ほんの一段上がった。
だが――
まだ、足りない。
◆
雷帝ワーヴ・ハイゼルは、宣告するように言った。
「教えてやろう。
再戦とは、希望を折る儀式だ」
雷が、再び集束する。
本気だ。
二十層は、逃げるための層ではない。
ジージーは、歯を食いしばった。
(今度は――
逃げない)
ここが、
空中戦修行の“成果”を問われる場所。
そして――
雷帝にとっては、
格の違いを思い出させるための戦場。
第二十層。
雷鳴が、完全に支配を始めた。




