空中模擬戦・七日目 ――守る者を、落とせ
前書き
七日目の朝、
空は昨日よりも低かった。
雲が近い。
触れそうな距離に、重く垂れ下がっている。
アンリは、全員を見渡してから短く言った。
「今日は“勝ち方”を選ばせる」
その一言で、
誰もが嫌な予感を覚えた。
◆ ルール提示
アンリの杖が振られる。
空中に、**光の標**が一つ浮かんだ。
人の形をしているが、顔はない。
「護衛対象じゃ」
セルグレン
「守る……んですよね?」
アンリ
「違う」
一拍。
「落とせ」
全員が息を呑む。
ジージー
「……え?」
アンリ
「守るべき存在を、
“あえて”落とす判断ができるかを見る」
ミナ
「……ひどい」
アンリ
「戦場は、もっとひどい」
⸻
◆ 開始:護る癖が邪魔になる
開始と同時に、
護衛対象がゆっくり移動を始めた。
同時に――
昨日の魔導人形よりも素早い攻撃体が四体出現。
セルグレン
「囲め!!
俺が前に――」
盾を構え、前へ。
だが、その瞬間。
護衛対象が、
逆方向へ流される。
ジージー
「セル!後ろ!」
遅い。
一体の攻撃体が、
護衛対象の“足元”へ衝撃波。
浮力が乱れる。
「落ちる……!」
セルグレン
「守る!!」
反射的に、
盾で受けに行く。
――結果。
二人とも、落ちかけた。
アンリ
「それじゃ」
冷たい声。
「共倒れじゃ」
⸻
◆ リゲロ:最初に割り切る
リゲロは、歯を食いしばった。
(守れない場面がある……
それは、知ってる)
闇を、細く伸ばす。
護衛対象の“進路”ではない。
攻撃体の背後。
「……落とす」
闇が絡み、
一体が落下。
だが――
その間に、護衛対象がさらに下がる。
ジージー
「間に合わない……!」
⸻
◆ ミナ:選ばない、という選択
ミナは、動かなかった。
眷属たちも、
一歩引いた位置。
アンリ
「どうした、不幽霊」
ミナ
「……どっちも取れない」
「なら」
視線が、護衛対象へ。
「落とす」
眷属が動く。
剣士尸鬼が、
護衛対象の横へ回り込み――
あえて、
触れた。
わずかな接触。
だが、
それで十分だった。
護衛対象が、
落ちる。
セルグレン
「ミナ……!?」
ミナ
「……守れないなら、
落とした方が、被害は少ない」
アンリ
「正解じゃ」
⸻
◆ ジージー:最後まで迷う
ジージーは、動けなかった。
(落とす……?)
(それって……)
護衛対象が、
今度はジージーの近くへ。
攻撃体が、
三方向から迫る。
セルグレン
「ジージー!
判断しろ!!」
リゲロ
「守ると死ぬぞ!!」
(分かってる……!)
でも、
手が動かない。
アンリ
「選べ」
冷たい声。
「守るか、
落とすか」
一瞬。
ジージーは――
護衛対象の下へ回った。
「……ごめん」
《ウィンドカッター》。
真下から、
風を当てる。
護衛対象は、
一気に落下。
同時に、
攻撃体の一撃が空を切る。
――間一髪。
ジージー
「……落としました」
声が、震えていた。
アンリ
「それで良い」
⸻
◆ 終了
全員が、
静かに地上へ降りる。
空気が、重い。
セルグレン
「……守るって、
なんだろうな」
リゲロ
「全部守るのは、無理だ」
ミナ
「だから、選ぶ」
ジージーは、拳を握った。
(守れなかった)
(でも……)
アンリが、最後に言った。
「七日目は、ここまで」
「覚えておけ」
「守るとは、
救える数を選ぶことじゃ」
⸻
後書き
夜。
ジージーは、眠れなかった。
空を落とす感触が、
まだ手に残っている。
それでも――
逃げなかった。
七日目。
“空中戦”は、
戦術ではなく、覚悟を問う段階に入った。




