ユニコーンの泉
◆森の奥・月光の水辺
森を切り裂くように、
水のせせらぎが響いてきた。
細い川が流れ、
その先に 開けた泉があった。
木々がまるで守るように囲い、
泉は夜空を丸く写している。
そこは 月の光が地上に降りる場所。
ジージーは思わず息を呑んだ。
「……きれい……」
水面の上には、
光の粒がゆっくりと舞っている。
ミナが小声で呟く。
「ここ……とても静か。
夜がきれいなところって、
だいたい強い存在がいるからね」
「強い…?」
その言葉が終わるより先に――
気配が、訪れた。
風が揺れる。
木々が震える。
泉の上空で、光が密度を増し……
白い影が姿を現した。
一本の 捻れた角
しなやかで力強い首、
雪のように白い鬣。
それは、歩くたび光を撒き散らす。
ユニコーン。
声は発さない。
ただ、瞳だけが語っていた。
——この森の奥へ行く資格を
持ち合わせているのか、と。
ジージーはゴクリと唾を呑んだ。
杖を両手で握り、胸の前に。
「ユニコーンさん。
わたしたち……
星鏡を探しています。
魔女の森に迷わず行けるように……!」
だが、ユニコーンは近付かない。
ただ、静かに見つめる。
セルグレンが小さく呟く。
「測っているんだ……
ジージーの“覚悟”を」
リゲロは影に溶けながら言う。
「試験みたいなものかもな」
ミナはジージーの横へふわりと浮いた。
「言葉じゃダメみたい。
心、見られてるよ」
ジージーは深く息を吸った。
——怖い。
でも、進まなきゃ。
そうしなきゃ、
あの湖畔にいる三人はもっと危険になる。
助けを待つ人だっている。
自分のためだけじゃない。
「怖いよ。
ほんとは、すっごく」
正直に言った。
「でもね――
わたし一人じゃ、怖くて無理でも。
ミナや、セルグレンや、リゲロが
一緒にいてくれるなら……
進めるんだ」
火照った目元を拭って、
ジージーは顔を上げた。
「だからお願い。
星鏡を……
森を抜けるための力を……」
ユニコーンは
ゆっくりと近付いてきた。
足取りには威厳と静寂。
その額の角が、
ジージーの杖に触れた。
キィィン……!
淡い銀光が泉に波紋を走らせる。
そして、ユニコーンの瞳が
ミナの方へ向く。
ミナはその視線を
静かに受け止めた。
「わたしには言葉、届かないけど……
でも、分かるよ。
守っていい?」
無言。
ただ、その瞳が
肯定を返した。
風が呼ぶ。
水が応える。
湖面から、
ひとつの鏡が浮かび上がる。
輪郭は丸く、
縁には星や月の紋様。
水滴のように透明で――
しかし硬い。
星鏡。
ジージーがそっと受け取ると同時に――
泉の奥、木々の闇から
濃い 黒い靄 が
這い出してきた。
セルグレンが即座に前へ。
「来るぞ……!」
リゲロが影へ潜る。
「試練はこれからか」
ミナが急にぴたりと止まる。
「……キライな匂い。
“星喰い”だ」
ユニコーンが
前脚を強く踏み鳴らす。
地面にひびが走って――
黒い靄から、
巨大な 影の獣 が立ち上がった。
牙の奥に、
星の光が吸い込まれていく。
——星を喰べるもの。
ジージーは一歩下がり、杖を構えた。
ミナが前へ出る。
「わたしが見る。
影がどこに“いる”のか」
さっき授かった光が、
ミナの胸元で淡く脈打つ。
ジージーは、
ミナの背中を見つめながら呟いた。
「ミナ……頼りにしてるよ」
ミナは少しだけ振り返って言う。
「……任せて。
わたしの一歩は、
みんなの明日を守るためにあるから」
次の瞬間――
影獣が一気に飛びかかる。
月光が瞬き、
加護が光り、
夜の森が震えた。
試練の始まりだった。




