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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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黙する街の心臓〈前篇〉 ――ラドーン地下、音を喰うもの

◆オープニング ― 黒い呼び声


 地下深く。

 石の喉奥で、ひとつの心臓が眠っていた。


 脈ではない。

 音だ。


 ひと拍ごとに、石壁が震え、沈黙を飲み込む。


 そこへ――声が落ちた。


「起きて。

 あなたの“拍”を、もう一度聞かせて」


 それは囁き。

 だが、切っ先のように鋭い。


 心臓が、どろりと黒い音を吐き出す。


 石の外殻がひび割れ、

 獣の耳を象った残骸がガラリと落ちた。


 ――耳石共鳴獣。

 災厄の“音喰い”が、ゆっくりと目を開けた。


「そう、暴れなさい。

 音を喰らい、街を“黙殺”して」


 女性のような影が、愉悦に震える。



 石を削ったような灰色の街だった。


 ラドーン。


 核都ラドーンとは別に、炉の技術だけを受け継いだ工房都市。昼なのに薄暗く、路地には洗濯物も子どもの声もなく、ただ足音だけが冷たく響いている。


「……静かすぎない?」


 ジージーは小さくつぶやき、肩に掛けた杖――眷属器《響命棒》を握り直した。海風に晒された木のような手触りの柄が、わずかに脈を打っている気がする。


 セルグレンが前に出る。聖光バックラーを胸の前に構え、いつものように周囲を一瞥した。


「人はいる。窓の隙、カーテンの揺れ……ただ、声が出せないんだろう」


「声が……出せない?」


 ジージーは、通りの隅で膝を抱える子どもに目を留めた。母親らしき女性が必死に口を動かしている。けれど、音が出ていない。喉は震え、息もしているのに。


 ミナがふわりと浮かび上がる。半透明のスカートが微かな光を散らしながら、二人を覗き込んだ。


「……喉に“鎖”が巻きついてるねぇ。音だけ盗まれてる。声を上げようとするほど、締め付けられてる感じ」


 幽霊になった彼女にしか見えない“縛り”があるらしい。


「冗談じゃねぇな」


 リゲロが舌打ちした。ボロマントの下から覗く眼光は、いつも以上に鋭い。


「共鳴炉の不具合じゃない。誰かが、意図的にやってる匂いがする」


「だから、依頼が来たわけか」


 セルグレンが短く頷く。


 大賢者団――ヘリオポラからこの街に派遣されている高位魔術師たちからの緊急要請。


 『炉の心臓部に異常あり。沈黙が街を蝕んでいる。至急調査・対処に協力せよ』


 そのくせ、手紙の末尾には余計な一文も添えられていた。


 『なお、以前の“杖の選定騒ぎ”については不問とする』


 思い出して、ジージーはむっと頬を膨らませる。


(不問って何よ……! こっちは選ばれただけなのに!)


 そのジージーの頬の膨らみを見て、ミナがクスリと笑った。


「まぁまぁ。あの人たちが頼ってきたって時点で、ちょっとは立場逆転してるじゃない?」


「そうだぞ」


 セルグレンが真顔で続ける。


「向こうは街を守る義務がある。だが今、前に立てるのは俺たちだ」


「ずいぶん偉そうに言うなぁ、お前も」


 リゲロが肩をすくめつつ、すでに足は路地の奥へ向かっていた。


「話は地下で聞ける。共鳴炉の真上に“耳”があるはずだ」


 ジージーは改めて杖を握り直した。


 勇者の眷属器。


 自分を選んだ、この棍――いや、“相棒”と共に。


 沈黙した街の中心へ。



「遅かったな、“勇者”」


 地下へと降りる螺旋階段の入口で、待ち構えていたのは大賢者団だった。


 一際立派な帽子をかぶった最長老が、あからさまに眉をひそめる。


「勝手に神器を持ち出した不届き者に、街の命運を任せねばならんとは……嘆かわしい」


「ちょっと。任せてって頼んだの、そっちじゃないですか?」


 ジージーはむっと睨み返し、小柄な体で最長老の前に立つ。


 杖が、ぴたりと彼女の指に吸い付いた。眷属器《響命棒》が、持ち主の感情に呼応する。


「ラドーンの人たちの声、取り戻したいんでしょう? ぐだぐだ言ってる時間がもったいない」


「……生意気な」


 別の賢者が舌打ちしかけたとき、セルグレンが一歩前に出た。


「舌戦はあとでいくらでもどうぞ。今は情報が先です。共鳴炉の状況は?」


 その切り替えの速さに、最長老がほんの僅かだけ眉を和らげる。


「炉そのものは稼働中だ。だが、音の流れが逆転しかけておる。街の音を外へ流すはずが――街から音を“抜き取って”炉へ送り込んでいるらしい」


「炉が、街の声を喰ってるってこと?」


 ミナが首を傾げる。


「本来そんな制御はできん。……だが、何者かが“耳”をいじった形跡がある」


 最長老は階段の奥を指さした。


「地下第二層。共鳴炉の“耳石”へ繋がる大空洞がある。そこが、今回の異変の発生源だ」


「耳石……?」


 ジージーが小さくつぶやいた瞬間、眷属器が指先でビリ、と震えた。


 杖が、何かを覚えているように。


(――耳石共鳴獣)


 言葉なき記憶が、脳裏を過ぎった気がした。


「……行こう」


 ジージーは小さく息を吐き、階段の陰へ足を踏み入れた。


「付き添いは最小限にする」


 リゲロが振り返る。


「俺たち4人と、眷属。あとは避難路の確保だけ頼む」


「む、無茶を言う……!」


 賢者のひとりが慌てるが、ミナがひらひらと手を振った。


「大丈夫、大丈夫。うるさい人が増えると、耳の悪い連中が起きちゃうんで」


「誰のことだ!?」


「さぁ?」


 からかうようなミナの笑みを背に、大賢者たちは渋々引き下がった。


 その中で、最長老だけが小さく呟く。


「……しくじるでないぞ、“杖の勇者”」


 ジージーは振り返らなかった。


 聞こえなかったことにした。



 地下は、想像以上に静かだった。


 松明もランプもない。代わりに、壁面に埋め込まれた石管の中を青白い光が流れている。水でも火でもない、ただ“振動”だけが可視化されたような光。


「……音の通り道か」


 セルグレンが低く呟く。


 リゲロが石床に掌を当て、目を閉じた。


「足音、反響しねぇな。普通、この広さならもっと響くのに」


「音がどっかに連れていかれてるねぇ」


 ミナが耳を澄ませる。


「上の人たちの声も、歩く音も、ぜーんぶ地下の奥へ落ちてってる」


「じゃあ、その“落ちる先”をぶっ叩けばいいってこと」


 ジージーは杖の柄を人差し指でコツコツ叩いた。


 カン……カン……


 ――鳴らない。


「……音が、出ない」


 自分の耳がおかしくなったのかと錯覚するほど、杖の音は空気に溶けて消えた。


 眷属器《響命棒》だけが、掌の中でかすかに震えている。


(相棒も、嫌がってる。ってことは――)


「ここ全体が“耳”なんだよ、多分」


 ぽつり、とジージーが言う。


「出した音、全部ぜんぶ、どっかが聞いてる」


「その“どっか”に辿り着けばいい」


 セルグレンが頷く。


「だが、喋るな。声がいちばんいい餌だ」


「りょーかい。じゃ、骨たちも静かにね?」


 ミナが振り向き、背後に控えていた骸骨兵たちに笑いかける。


 呼び出しておいたスカルナイトが、ギシギシと頭を掻いた。


「しかし、我ら骨は歩くだけでカラカラと……」


「今日は“しのび足モード”でいって」


「そんなモードがありましたかな……」


「今、できた!」


「……心得ました」


 ぎこちなく、しかし全力で静かに歩き出す骸骨兵たち。


 その様子に、リゲロが小さく吹き出した。


「静かな骨って、余計に怖ぇな……」


 それでも、誰も笑い声を出さない。


 笑い声ごと――喰われかねないからだ。



 階段を降りきると、世界が変わった。


 広い。


 天井が見えないほど高い大空洞。壁面は黒い石で、そこに耳のような窪みがいくつも穿たれている。薄い光の筋が、耳から耳へと網目のように繋がっていた。


「ここが……“耳”の間か」


 セルグレンが小さく息を呑む。


 ジージーは無意識に喉の奥を押さえた。言葉を出したくない。息を飲む音すら、呑み込まれそうで。


 ミナが囁く。


「声や足音だけじゃない……心臓の鼓動まで、下に落ちてる」


「気味の悪い場所だな」


 リゲロが周囲を見回す。


「獣の臭いはしねぇが……」


「いるよ」


 ミナが遮った。


 彼女の視線の先――大空洞の中央。


 そこに、巨大な“塊”があった。


 一瞬、それが岩なのか建造物なのか区別がつかなかった。


 耳だった。


 石でできた、巨大な耳。


 地面に膝をつき、頭を伏せるようにして、壁に身を押し付けている。ほとんどが石に埋もれているのに、露出した部分からでも、その形が異様なまでに精密だとわかった。


「……耳石共鳴獣みみいし・きょうめいじゅう


 ミナが、ぽつりと言った。


 言葉にした瞬間、眷属器がビリ、と震える。


 ジージーの指に、棍がぴたりと張り付いた。


「知ってるの?」


「名前だけね。昔の書庫で見た。共鳴炉の試作過程で生まれた、“失敗作”。音を増幅するはずが……音そのものを喰うようになった、って」


 ミナの声が少しだけ震えている。


「封印されてるって……書いてあったんだけどなぁ」


「封印、ね」


 リゲロが目を細める。


 耳石共鳴獣の背後――石床に、かすかなひび割れが走っている。そこから、赤黒い光が漏れ出していた。


 封印は――もう、割れかけている。


「近づくな」


 セルグレンが低く告げる。


「音を出した瞬間、あれの“餌”になる。スキルも魔法も極力禁止だ。物理でいく」


「物理って言っても……」


 ジージーは眷属器を見下ろした。


 杖が、静かに震えている。


 怖れているのではない。


 騒いでいる。


(……戦える、ってこと?)


 指先の震えを握り締めるように、ジージーは深呼吸をした。


「じゃあ、静かに近づこう。音を――“こっちから”渡すタイミングまでは」



 彼らは、言葉を捨てた。


 手振り、視線、短い息遣いだけで合図を送り合いながら、耳石共鳴獣の周囲を大きく円を描くように展開していく。


 スカルナイトとワイトは、さらに外側で待機だ。骸骨たちですら、今は慎重に足を運んでいる。


 獣は、動かない。


 巨耳を壁に押し当てたまま、ひたすら“聞いている”。街の音を。人の声を。子どもたちの笑い声を。泣き声を。さっき見た母親と子の、出せなかった叫びを。


 ジージーは奥歯を噛み締めた。


(返してもらうからね)


 その感情が伝わったのか、眷属器が一瞬だけ熱を帯びた。


 ――そのとき、だった。


 “音”が落ちた。


 ジージーの喉奥から零れた、小さな「ひっ」。


 緊張が、一瞬だけ抜けた隙。


 それだけで――十分すぎた。



 獣が跳ねた。


 石の巨体とは思えない速度だった。


 さっきまで地面と一体化していた“耳”が、ばきばきと音を立てて起き上がる。耳の裏側から石の脚が生え、壁にめり込んでいた頭部が、ぐにゃりとねじれてこちらを向いた。


 耳の穴が――目に見えた。


 空洞が、じっとジージーを見ている。


 喰い物を見つけた獣の目で。


「来る!!」


 リゲロが叫んだ――その叫び自体が、獣の餌になった。


 耳石共鳴獣が跳躍する。


 床を叩く音はほとんどない。ただ、その動きの“結果”だけが襲いかかる。空気が押しつぶされ、ジージーの体が勝手に後ろへ弾かれた。


「っが――!」


 肺から空気が全部こぼれる。


「ジージー!!」


 セルグレンが飛び込むように前に出て、聖光バックラーを構えた。


 ドゴォォンッ!!


 盾に見えない衝撃波が叩きつけられた。金属ではなく、骨を殴られたような低い音が、セルグレンの腕を通じてジージーの胸まで響く。


「ぐ、ぅぅっ……!」


 セルグレンが膝をついた。盾が軋み、表面に亀裂が走る。


「影を走らせる!」


 リゲロが手を地面に叩きつけた。影が、黒い水のように広がって耳石共鳴獣の脚へ絡みつく。


 しかし――


 耳が、ぴくりと動いた。


 影が、ちぎれた。


 音もなく。


 次の瞬間、リゲロの体が横にすっ飛んでいた。


 壁に叩きつけられ、肺の空気を全部奪われたような顔で崩れ落ちる。


「り、リゲロ!」


 呼ぼうとしたジージーの喉に、ミナの冷たい指が触れた。


「ダメ。叫んだら、一緒に持っていかれる」


 幽霊の声は、耳石には届かない。


 だからこそ、彼女だけは平然と喋れる。


「音は“向こう”に優位。こっちは不利どころの話じゃない」


 耳石共鳴獣が、耳をこちらに傾けた。


 音の出る場所を探している。


 彼らの鼓動を。


 肺の震えを。


 血が巡る音を。


「……音、そのものを止めるのは無理だね」


 ミナが、ふっと笑った。


「でもさ。音の“通り道”を変えるくらいなら、できるかも」


「通り道……?」


 ジージーは、歯を食いしばりながら立ち上がった。


 膝が震えている。


 それでも、眷属器は手から離れない。


 耳石共鳴獣が、再び跳躍した。


 今度の標的は――スカルナイトだ。


「ひィえええええ!!」


 骸骨の悲鳴が、見えない手に引きずられるように耳石へ飲み込まれていく。スカルナイトの顎がぶらんと外れ、足が勝手に獣の方へ引き寄せられた。


「冗談言ってる場合じゃないってば!」


 ミナが叫び、指先から黒い炎を放つ。


「眷属進化――《冥界レイス》!!」


 スカルナイトの影がひとつ、黒い霧となって耳石共鳴獣の背へ纏わりつく。霊体は、物理的な衝撃を与えない。ただ、“音の流れ”を乱す。


 耳が、ほんの僅かに傾いた。


 その瞬間だけ――獣の意識が、ジージーから逸れた。


(今だ)


 ジージーは、自分の胸に左手を当てる。


 心臓の鼓動を感じる。


 トン。トン。トン。


 音を止めるんじゃない。


 音を――導く。


 杖の石突きで、床を一度だけ叩いた。


 トン。


 わざと、大きく。


 耳石共鳴獣の耳孔が、びくりと動く。


 空洞の視線が、こちらを向いた。


「……こっちだよ」


 声は出さない。


 唇だけが形を作る。


 音は、杖の中で鳴る。


 眷属器《響命棒》の芯が、共鳴した。


 棍の内部を走る見えない管が、心臓の鼓動と同じリズムで震えだす。


 ドン……ドン……ドン……


 その拍は、空気ではなく地面の中へ落ちる。石の繊維を通って、耳石共鳴獣の足元へ直接伝わる。


 耳が、床を向いた。


 床の中の“音”を喰おうとしたのだ。


「今!!」


 ミナが叫ぶ。


 叫び声は耳石には届かない。


 だが、仲間には届いた。


 セルグレンが、残った力を全部腕に込めて盾を構えた。


聖盾術スタン・バッシュッ!!」


 光を纏ったバックラーが、耳石共鳴獣の横っ面――耳の外殻を殴りつける。石の殻に細かな亀裂が走った。


 リゲロは壁を蹴って跳び上がり、影を槍の形に固める。


「影牙・二連……!」


 振るう一撃。耳の付け根を斬り裂く。


 ミナのレイスが、耳孔へ潜り込む。


「中から音、かき回しておいで!」


 霊の咆哮が獣の内部で炸裂した。


 耳石共鳴獣が、初めて“悲鳴”のような振動を発する。


 ジージーは、その震えにあわせて――もう一度、床を踏んだ。


 トン。


 “終わりの一拍”。


 響命棒が光を帯び、棍の先端から透明な衝撃波が走る。


 キィィィンッ!!


 耳の殻が――砕けた。


 共鳴獣の巨体が、膝から崩れ落ちる。耳孔から黒い煙が噴き出し、床へ吸い込まれていった。


 静寂。


 誰もすぐには、声を出さなかった。


 息だけが、震えている。


「……終わった、か?」


 セルグレンのかすれた声が、ようやく空間に浮かんだ。


 リゲロが肩で息をしながら、頷く。


「耳は死んだ。少なくとも、これ以上、街の声は持っていかれねぇ」


「やった……?」


 ジージーが呟いた、その瞬間。


 ――ドンッ!!


 足元から、すさまじい衝撃が突き上げてきた。


「きゃっ!?」


 ミナが宙で弾かれ、スカルナイトたちがバランスを崩して倒れ込む。


 石壁の青い光が、一瞬にして赤に変わった。


 耳石共鳴獣の背後――さきほどまでひび割れていた封印陣が、完全に砕け散る。


 そこから、赤黒い“音”の奔流が噴き出した。


 音には色がないはずなのに、見える。


 圧縮された衝撃波そのものが、光として奔っている。


「なんだ、これ……!」


 ジージーは、咄嗟に杖を地面へ突き立てた。


 響命棒の芯が、勝手に共鳴を始める。


 抑え込むどころではない。


(ちがう。これ――)


 セルグレンが叫んだ。


「共鳴炉が、目覚めかけている!!」


 赤黒い光の奔流の奥で、何かが動いた。


 岩盤と鉄骨の塊が、ゆっくりと体を起こしていく。街の基礎を成していた構造そのものが、一匹の“何か”へと変貌しつつあった。


 喉の奥で、低い振動が鳴る。


 鼓膜ではなく、胃の底が揺れるような低音。


 街全体が、その一拍ごとにきしんだ。


「共鳴竜……」


 ミナが震える声で呟いた。


「災害級、《エコードラグ》……!」


 その名が口にされた瞬間、眷属器《響命棒》が、ジージーの掌で熱くなった。


 震えは、もう恐怖ではない。


 戦いの拍だ。


 ジージーは、喉の奥にこびりついた恐怖を飲み込み、顔を上げる。


(逃げる? ――そんな選択肢、ない)


 ラドーンの人たちの声が、背中にのしかかる。


 笑えなかった子ども。


 叫べなかった母親。


 見上げるほど巨大な共鳴竜が、喉奥の核を光らせた。


 街を砕く一声が、今まさに放たれようとしている。


「ジージー!」


 セルグレンの叫びが、耳に届く。


 リゲロの影が、彼女の足元に寄り添う。


 ミナの眷属たちが、背後に並ぶ。


 杖が、低く鳴った。


 ――ドン。


 ジージーは、唇だけで呟いた。


「行こう。みんなの“声”……取り返しに」


 災害級の咆哮が放たれる、その刹那。


 地下の空間は、赤黒い光と振動に飲み込まれた。


 そして、どこかから――銀の笑い声が、落ちてきた。


「ふふ……さすがね、“勇者”」


 姿はまだ、闇の向こう。


 その声だけが、街の震えと同じくらい、はっきりと響いていた。


(つづく)

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