雲梯渓 — 山背の門、風鳴りの初陣
海霧が薄れた瞬間――視界が開けた。
「……すげぇ」
ジージーは言葉を失った。
白い断崖が何重にも重なり、空へ向かって噛みつくように伸びている。
まるで大地の骨がそのまま露出したような地形。
風が差し込むたび、どこからともなく低い音が鳴る。
ゴォォ……ン……
「鳴ってる、ニャ……山が」
ニーヤの黒い耳がぴくりと震える。
足元を見下ろせば、海がはるか下で白い泡。
見上げれば、逆光の中に巨大な翼――
何かがゆっくりと円を描いていた。
「……海でもなく、空でもなく。ここは境目だな」
リゲロが肩に手をかけ、登攀具の確認をする。
荷を背負い、風に押されながら前に進むと――
岩肌に埋め込まれた、古い石標が風にさらされて立っていた。
刻まれた文字は、海風で削れながらも読める。
『雲梯渓 ここより山背』
“風聴きは己を知れ/落ちる者は風を恨むな”
「……怖いこと書いてあるな」
「ふふ、まだ序の口ですわ」
と、シワジが腰の布を締め直しながら不敵に笑った。
未知の大陸の、最初の門――
そう思うと、ジージーの胸がじりじり熱くなる。
1)山背の登攀
風が横殴りだ。
岩壁は斜めに傾き、足場は細い棚のようになっている。
片方は断崖、もう片方はさらに高い断崖。
「落ちたら海。上も崖。はい死にルート」
「気安いこと言うな!」
セルグレンがロープを張りながら苦笑した。
ジージーは叫ぶ代わりに一歩一歩確かめる。
粉をかいた靴底が岩にかすかに噛む。
(怖い。……でも、前に進むのが俺の役目だ)
頭の中に、遠い孤児院の声が浮かぶ。
「戻ったら、また美味しいごはん作るからね!」
(帰る。ぜってぇ帰る)
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2)風魔の襲撃
ひゅう、と風が抜けた瞬間。
透明な影が、足下をスッと掠めた。
「なっ……!」
崖上から、薄い翼の生き物が滑空してきた。
身体は鳥に似ているが、くちばしがない。
風そのものが骨になったような姿。
「風魔か……! この土地の守り手よ」
シワジが布を振り、注意を引く。
リゲロが叫ぶ。
「ジージー!落とすな!あくまで追い払うだけでいい!」
「わかってる!!」
ジージーは杖を構えた。
「――光矢!」
放たれた光は最小限。
翼の縁だけをかすめ、風魔はスピンして離脱した。
セルグレンがすかさず叫ぶ。
「見たか!非致死の勇者だ!」
「今はやめて!!足震えるから!!」
ジージーは涙目で抗議した。
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3)夜営 — 風鳴りの中で
日が落ちる直前、断崖の中腹に少し開けた場所を見つけた。
岩を背にしてテントを張り、焚き火を囲む。
「うわ、火がすぐ揺らぐな……」
焚き火の火が、吸われるように横へ伸びる。
「ここ、風の通り道ニャ。夜は気配にも注意するニャ」
ニーヤは耳を澄まし、杖を抱いて座った。
ミナが、ふわりと隣に座る。
「ここ……“歌ってる”ね。
たくさんの声が、眠れないみたい……」
ジージーは視線を岩壁へ向ける。
崖の亀裂の奥――
微かに光る眼のようなものがあった気がした。
「……誰か、見てる?」
「この山には古い“誓い”がある。
侵す者は風が叩き落とす。
でも……信じる者は――風が運ぶ」
シワジは焚き火越しに笑った。
「どっちになるかは、明日の登り方次第ってとこですな」
風が一際強く吹いた。
海の潮の匂いと、乾いた石の匂いが混じり――
そして、遠くの空に大きな影が流れた。
鳥か? 龍か?
判然としない、巨大な飛翔体。
「……明日、楽しみだな」
ジージーは、小さく拳を握りしめた。
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◆後書き(簡)
雲梯渓に、ついに足を踏み入れました!
•地形の恐怖と美
•新大陸で初の魔物遭遇
•キャンプで募る不安と興奮
•無声の「大きな何か」の存在感…
次回はついに
崖上の古い街道から “空の民” と初接触!
新キャラももう一人登場します✨




