海底からの贈り物 ― 青き魂の宝石
渦潮は、ようやく後ろへ遠ざかる。
夜明け前の空が、薄紫に変わっていった。
「ふぅ……ひとまず、抜けたみたいだな」
セルグレンは汗を袖で拭い、盾を下ろした。
船員たちも安堵の息をつく。
しかしジージーは、海面に目を向けたままだった。
(……何かが、沈んでいく)
渦潮の中心から、青く光るものが浮かんだ。
「ジージー、危ない!」
「平気。――行ってくる」
ジージーは短杖を背中へ回し、
軽く助走をつけて欄干の上へ跳ぶ。
ドボンッ
「ちょっ……!?」
「ジージーッ!!」
リゲロとセルグレンが叫ぶが、
水の中のジージーにはもう届かない。
◆海の静けさ
海は、外から見るよりずっと静かだった。
耳に響くのは、心臓の鼓動だけ。
(これ……宝石?)
ジージーの前に漂っていたのは
握りこぶしほどの 青い塊。
よく見ると、中で光が回転している。
(まるで……心臓みたい)
それを掴んだ瞬間――
ぽうっ
淡い光が、傷だらけの指をふわりと癒した。
「これ、回復……?」
『アクアオーブだよ』
ミナの声が、水の中に響いた。
『海の精霊が力の残滓を溜めたもの。
水と癒しの力が強い宝石。
――とても珍しい』
(……届けたい)
すぐに浮上する。
ザバーンッ!
「ジージー!バカかお前は!!」
「だ、大丈夫だから!」
船に引き上げられ、ジージーは
濡れた前髪を払いながら宝石を掲げた。
「これ、使えるよね?」
セルグレンは目を細め、
リゲロはニヤリと笑った。
「三人娘が喜ぶな」
「だな。ポーションだってもっと強くなる」
「……うん」
(無事を、少しでも届けられる)
ジージーの胸に、温かいものが灯る。
◆そして――海産物も忘れない!
「宝石だけじゃねぇよ!」
リゲロが先ほど倒した魔物を指差した。
「海兵鬼の肉は干したら保存食になる。
塩分とたんぱく質豊富。
三人娘には最高の“冒険食材”だ」
「骨と鱗も、きっと錬金で使える」
セルグレンが淡々と補足する。
「……よし。全部“届けよう”」
「任せな!俺が捌いてきてやる!!」
リゲロはナイフを構え、
船員に捌き場を借りに走った。
◆共有鞄に、想いを詰めて
ジージーたちは
宝石と、魚肉の乾物と、鱗と骨をすべて
共有鞄へ入れていく。
ミナが呟いた。
「届く時の顔……きっとすごいよ」
「多分、マリーヌが一番大はしゃぎだな」
「ルーシーは宝石見て“これ加工できる!”ってなって、
テドラは“美味しいね!”って全部食べちゃうかも」
ジージーはふっと笑った。
「それがいい」
◆静かなる通知音
鞄が小さく光った。
アイテム転送完了
たったそれだけの光信号なのに――
ジージーは胸がいっぱいになった。
(……繋がってる)
海の果てにいても。
目の前にいなくても。
⸻
◆エンディング
それぞれの朝
船は穏やかな風を受け、
青い水平線の向こうへ進む。
「次は……どんな島があるんだろ」
「海図にねぇ場所もある。
“未知”だらけよ」
リゲロが笑う。
セルグレンは空を見上げた。
「だがまずは――生きて次へ行く」
「うん。行こ」
ミナが指先を触れるように囁く。
『……あなたの拍は、ちゃんと前を向いてる』
海の宝石が、
ポケットの中でひっそり光った。
⸻
◆次回予告
『翡翠の海路 ― 大陸の門、アフナ砂漠へ』
荒れ狂う海を越え、
たどり着くは、緑の砂漠の都。
そして――
“魔王軍に加担する魔女”の影が、
ジージーたちの行く先を歪ませてゆく。




