レジスタントスターチ
本日、2話目の投稿です。
「なんで、吸収されないの」
1日馬車の揺られ、約半年ぶりに新ダンジョンへ足を運んだ。
「カン、カン」「これ持って行け」「トン、トン」「追加の板まだか」「バン、バン」
新ダンジョン周辺は見違えるほど、発展していた。
前は新ダンジョンの入口近くに詰め所があっただけなのに、今は建築ラッシュ。作業着や繋ぎの服を着た職人達が、あちらこちらで声を挙げ、腕を動かし作業している。
職人のための簡易の宿泊施設が多数建設され、それに伴い、料理屋、居酒屋、雑貨屋などの販売所から、鍛冶屋、木材加工屋などの業務系まで、いろいろな建物が軒を連ねる場所になっていた。
私、ヨハン、エリナ姉、バレンシア侯爵令嬢、ストーム副騎士団長、騎士団員達はその発展ぶりに驚きを隠せない。
「お久しぶりです。辺境伯領でお世話になったバイオレットです。みなさま、ようこそおいで下さいました。まずは、今日の宿にご案内します」
新ダンジョンには、マーギン商会の輸入輸出担当キャリアウーマン風のバイオレットさんが居た。
「お久しぶり。バイオレットさん、よろしくね」
事前にバイオレットさんが居る事をマーギン商会から知らされていたエリナ姉は余裕だ。
「新ダンジョン周辺、めっちゃ発展したね。どうして?」
私は、辺りを見回しながら、バイオレットさんに質問すると、
「新ダンジョン1階層が水の階層から花畑の階層になり、国が1階層をパーティーや、結婚式もできる社交の場への改良計画と、その周辺地域を避暑地化してこうという計画が同時に進行しています。我がマーギン商会も出資、開発を担当させていただいています」
バイオレットさんが営業スマイルで説明してくれた。
「新ダンジョン周辺より、1階層内の発展が著しいので、驚きますよ楽しみにしてくださいね」
宿への道すがら、説明してくれるバイオレットさんは、何だか楽しそうだ。
簡易の宿に案内され、荷物を置いた後、さっそく新ダンジョン1階層へ行ってみた。
1階層への入口は開け放たれ、人の出入りが激しい。
大きい荷物も、長い荷物も、人が一人通れる普通の大きさの扉から、人力で運ぶしかなく、入口はごった返している。
1階層へ入るまでに並び、やっと入った一階層は、バイオレットさんが言うように、様変わりしていた。
「あそこの棟が、事務所兼倉庫です」
一面のお花畑だったのに、1階層扉の右横に、レンガ作りの大きくて立派な家が1棟建っている。
違うダンジョンから土を運び、レンガに加工。ダンジョンに吸収されないようにして建てたらしい。
レンガ造りの棟にそって作られたレンガの道を歩いて奥に進むと、床が白いタイルの直径50mほどの広場があり、その上に真っ黒い大きなグランドピアノ、白いクロスを敷いたテーブルとイスが10脚ほどあり、中央には祭壇。祭壇の中央に祈りをささげる銀の女神様像と、祭壇の周辺に色とりどりの花のアーチ。長い白い布が風になびいている空間があった。
その浮世離れした空間に、ほへーと、口を開けて見ていると、
「あれは、すべてカンガルーの魔物から採れた戦利品です。ダンジョン産なので吸収されません。ここはパーティー会場になる予定です。宿泊施設ができ次第、完成パーティーが開かれます」
バイオレットさんが説明してくれた。
「マーギン商会が所有する土地は、この建物から左側の土地です」
バイオレットさんが示してくれた土地は、見渡す限り小さな花畑の土地。広すぎて境界線が見えない。
「どうぞ、ついて来て下さい」
バイオレットさんについて、花畑を少し歩くと、小さな小屋と農具、広大な畑が姿を現した。
畑には何も植えられていない。
「キスグ、持ってきた作物を出して、この畑に植えてほしいの」
エリナ姉の指示のもと、ダンジョンの土で作った作物を根ごと、新ダンジョンに持ってきた。
その、作物を吐き出した。
「エリナ姉、ダンジョン産じゃない物は、1日動かさなかったら、ダンジョンに吸収されちゃうよ。植物は根があるから動かせないし、育てられないよ」
疑問に思いながら、みんなで手分けして、ダンジョンの畑に持ってきた作物を植えていく。
「私の仮説が正しかったら、作物は吸収さえれないはずよ。明日をお楽しみに」
エリナ姉は、作物の植え替えを確認してから、ルンルンで宿へ帰っていった。
次の日、作物を植えて24時間後。
私達は、再度新ダンジョン1階層の作物を植えた畑に来ている。
「なんで、ダンジョンに吸収されたないの」
皆、目の前の光景が信じられない、作物はダンジョンに吸収されてなかった、なんなら昨日より葉や、芽が元気になってる気がする。
「やったわ。成功よ。キスグ、トマトを噛んでみて」
エリナ姉は、テンション高く、私にトマトを差し出した。
私はトマトを噛んでみた”ダンジョン産のトマト(甘い)”と表示された。
あれ、前は”ダンジョンの土で作ったトマト(甘い)”と表示されたのに、ダンジョン産になってる!。
エリナ姉に報告すると、
「うふふ。そうなの、ダンジョンの砂が半分以上混合された陶器も、ダンジョンの鉄が半分以上混合された剣も、ダンジョンに吸収されないのよ。だったらダンジョンの土から栄養をもらって育った苗は、ダンジョンに吸収されないんじゃないかと思ったのよ。よかったわ、成功して、うふふ」
上機嫌に説明するエリナ姉にバレンシア侯爵令嬢が
「まて、まて、うふふじゃないぞ。とんでもないことじゃぞこれは。ダンジョンで育つ新種のトマトを作ったという事じゃぞ。他の野菜もこの方法を使えば、ダンジョンで育つネギ、ダンジョンで育つジャガイモなどなど、新種野菜続々じゃ。
それだけじゃないぞ、ここのダンジョンは湿度も温度も一定。水もどこからか一定に沸きあがる。気候変動はなしじゃ、ダンジョン産は魔素で育つと聞く。肥料を撒かんでもいい…。」
そこまで話して、バレンシア侯爵令嬢はふと顔をあげ、広大な畑と、その向こうの境界線が見えない花畑を見つめた。
私達もバレンシア侯爵令嬢の目線の先を見た。
これはとんでもないことが起こる。目に見えてる空間すべてを畑にできる。バクシューレツ国だけじゃない、ダンジョンを持つ国にとってこれは一大事。この1階層ほど好条件のダンジョンはなくても、似たような気候のダンジョン階層はあるはず、そこでダンジョン産の野菜を栽培できたら、悪天候による食料危機や、戦争や災害による被害も関係なく、安定した供給を実現できる。
今までの、常識を根本からかえる発見だよ。
「エリナ様。おめでとうございます。引き続きマーギン商会、全力でバックアップさせていただきます」
バイオレットさんが深々と頭を下げた。
次は、紛争編です。重い話ではありません。




