14話 エピローグ 帰る場所
警鐘が止んだ夜。
道場の戸は、半分だけ開いたままだった。
柚葉は土間に座って、干し芋の包みを握りしめていた。
握りすぎて、紙がしわくちゃだ。
外は静かすぎて、さっきまでの地鳴りが嘘みたいだった。
足音がした。草履が板を擦る、いつもの音。
ふらりと、玄斎が入ってくる。
――何もなかったみたいな顔で。
「……おじいちゃん」
柚葉は立ち上がる。
言いたいことが多すぎて、言葉がひとつも出てこない。
「……きのうの、あれ」
玄斎は縁側に腰を下ろし、目も開けずに言った。
「うむ」
それだけで、柚葉の喉が詰まった。
「……うむ、じゃない」
声が震えるのが嫌で、柚葉はわざと乱暴に言い直す。
「いや、もういい」
玄斎は何も言わない。
湯飲みの場所を探すみたいに、手だけが少し動く。
柚葉は台所へ向かい、鍋を出し、わざと大きな音を立てる。
「……ご飯、作る」
「うむ」
「味噌汁は?」
「うむ」
柚葉は包みを持ち上げる。
「じゃあ、この干し芋入れておくね」
「……」
「甘味のないと心が痩せるんでしょ」
「うむ」
「うむって言うな!」
鍋に味噌を溶かすと、湯気に、ほの甘い匂いが混じった。
一口すくって味を見る。
「……甘」
干し芋のせいだ。味噌汁なのに、妙にやさしい。
その瞬間、柚葉の肩から、力が抜けた。
警鐘も、地鳴りも、魔物も今はどこにもいないみたいだった。
玄斎は縁側に座ったまま、湯気の向こうでじっと鍋を見ている。
――帰ってきた。
それだけで、十分だった。




