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セイレーン王国

「し……死ぬ……」


 エリーゼは倒れていた。体に与えられる刺激は時折大きいものがあったが、彼女は必死で耐えていた。


 再び刺激がやってくる。こんなことがすでに何度も繰り返されている。エリーゼは必死に願っていた。この地獄が早く終わらないかと。


 そしてまた、彼女に大きな刺激が与えられる。今度は大きな石でも踏んだのか、一瞬エリーゼの体が宙に浮いた。


 現在、彼女は馬車で移動中だった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 いざセイレーン王国へと行くことになった時、運が悪くすでに乗合馬車は行ってしまった後だった。そんな時、偶然そこへ向かう荷馬車が通りかかり、ありがたいことに乗せてもらえることになった。そこまではよかったのだ。


 馬車に揺られながら周りの風景を楽しもうとしても、畑・畑・畑・山・山・畑・山と何の代わり映えのしない風景しかなかった。少しくらいなら物珍しいものとして楽しめたが、それも何日も続くとなるとうんざりである。――そう、エリーゼは退屈で死にそうだった。


 しまいには荷台に倒れ込み、早く着くことを願うようになる。そのせいで、馬車が悪路を進んだ時には体の至る所をぶつけることになっていた。



「やっと着いた……」


 体をぶつけながらも、暇と悪戦苦闘した毎日。その数日間を耐え、ようやく依頼者のいるセイレーン王国の王都リリアへと到着した。


「まずは宿かぁ……」


 何もしていないにも関わらず心身共にすでにヘトヘトだったが、拠点の確保は必須である。いつもと違い温かいお家へはすぐに帰れる距離にはないから仕方がない。幸いにも空いている宿はすぐに見つかり、宿泊手続きも問題なく済ますことができた。


「夜まで時間あるしこれからどうしようかな……」


 依頼人と会う約束をしているが、約束の時間である夜まではかなりあるので、それまでの時間をどう過ごすか悩む。すでにヘトヘトではあるため、宿で時間まで寝ていてもよかった。――のだが、依頼を受ければ自由な時間がなくなるだろうし、せっかくなら今のうちに王都を見ておこうと思ったのだ。


「さて、まずは……」


「あれ? もしかして、エリーゼか?」


 どこから見て回ろうかと考えていると、自分へと声をかける人物がいた。誰かと思って顔を向ければ、そこには見知った顔があった。


「あれ、キリカじゃん。どうしてここにいるの?」


 数日前に別れを告げた友人だった。


「この国に私の親戚が住んでてな。だから、長期休暇になるとよく家族で来てるんだ」


「へぇ、そうだったんだ」


 彼女の実家は国内だったはずなので、ここにいるのは意外ではあったがその理由に納得した。


「お前こそどうしてここにいるんだよ?」


「私? ……えーっと、観光かな?」


「なんだよ。なら言ってくれればよかったのに」


「あはは……」


 仕事のために来たなど友人に言えるはずもない。


「何なら私がこの王都を案内してやろうか?」


「え、いいの?」


「丁度暇でぶらぶらしていたところだしな」


「じゃあお願いしようかな」


「おう、まかせろ」


 ということで、案内はキリカに任せることにした。



 何度も来てると言うだけあって、キリカはこの王都のことをよく知っていた。有名な観光場所――は通りすがりの道中で軽く説明するぐらいで、大体が美味しいスイーツのお店を紹介してくれた。ここは雑誌で紹介されていた場所とか、ここは行列が1時間並ぶほどのお店だとか、後は穴場の場所とか。今まで暇と戦っていた上、さらに長時間並びたくはなかったので、そんなに時間がかからない場所で買うに留めていた。



「疲れたー」


「エリーゼがそう言うのは珍しいな」


 王都中を歩き回り疲れたエリーゼは、大通りから外れた場所にある広場で休憩していた。


「今日馬車に乗って来たばかりなんだよ。おかげで観光する前からヘトヘトだったし」


「それは、まぁ。大変だったな」


 椅子に座りながら体を休めるエリーゼ。体を休めながらも首だけで周りを見ていた。


「そういえば、こっちには何があるの?」


 指差すのはどこか寂れて陰鬱とした雰囲気を醸し出している細い道。賑やかな大通りとは反対側にあるため、エリーゼたちがまだ行っていない方向だ。


「そっちはあまりおすすめできないな……」


「なに? どういうこと?」


 キリカがそう言うのも珍しい。いつも「しゃーないな」となんだかんだで連れて行ってくれるのに。


「そっちにあるのはスラム街。治安もあまりよくないし、私たちみたいなのが行くと身ぐるみはがされるぞ」


「身ぐるみはがされるって……」


「あとあるのは孤児院くらいか。お前が望むようなものはないからやめておけ」


「ふーん」


 この国に詳しいキリカが言うのだから、大人しく従っていた方がいいだろう。


 にしても、スラム街に孤児院か……。


 周りを見た限りでは裕福そうな国に見えたが、光ある所には影がある。結局、どこの国も似たようなものなんだと理解した。


「そういえば、国からスラム街の住民や孤児院の子供たちのために補助金が出る話が上がってたな」


「そうなの?」


「といっても、話が出てから結構時間が経ってて何も変わってないし、結局どうなのかは知らないけどな」


「へぇー」


 エリーゼは大して興味なさそうにしている。


「それでこの後どうする?」


「んー……そうだね……」


 空を見れば赤く染まってきている。あまり夢中になりすぎて、依頼者との約束時間に遅れるなどあっては本末転倒だ。エリーゼはここらへんで観光を切り上げることを決めた。


「そろそろ宿に戻ろうかな」


「宿に泊まってるのか。良かったら私のとこ来るか?」


「いいよ。キリカの家じゃなくて親戚の家でしょ? さすがにお邪魔できないし」


 それに、依頼のため変装して帰ってくる。この仕事のことは明かしていないし、秘密を知られないようにする観点からもやめておいた方がいいだろう。


「そうか。まぁ、何か困ったことがあれば連絡しろよ」


「うん。その時は頼らせてもらうよ」


 少し休んで元気になったエリーゼは、よいしょっと立ち上がりキリカと大通りへと歩き出す。


「それじゃあ、私こっちだから」


「おう、またな」


 キリカと別れ、宿へと戻っていく。部屋に戻ったエリーゼは、食事や入浴などを手早く済まし依頼者と会う準備を進めていく。それらが終わった頃には、すでに日は沈んで約束の時間が近づいていた。


 さーて、今回はどんな依頼なのかな……。


 フードを被って目立たないように宿を出たエリーゼは、約束している依頼者の元へと向かうのだった。

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