王都の外
イクスとの約束を取り付けた次の休日。日も登り切り、約束した昼過ぎとなる。エリーゼは約束した王都の門の前で、イクスが来るのを待っていた。
ちゃんと来るかなぁ……。
せっかく休日を潰してまで来たのだ。上手くいく方がいいのは決まっている。けれど少し、ちょびっとばかり、このまま王都に繰り出したいとも思っていたので、来なくてもいいかと思ってもいた。
約束の時間から少しして、一台の馬車が近くへとやってくる。そして、こちらの近くへと止まったかと思うと、中から男性が下りてきた。待ち人であるイクスだ。
彼の表情を見れば、笑みは浮かべているものの、楽しそうな顔じゃないことはわかる。女性を一人にするのが忍びないと思ってのことだろう。エリーゼとしてもそういった同情を狙って強引に取り付けた約束だったので、計画通りともいえる。
「来てくれないとどうしようかと思いました」
「さすがに女性を一人待たせたままにはできないからね」
と予想通りの答えをいただく。
「今日は付き合ってくれると考えていいのですね?」
「ここに来た以上は付き合うよ。仕事のことはもう忘れるさ」
「そう。よかった」
「じゃあ行こうか」
彼はエリーゼに馬車へ乗るよう促す。エリーゼとしてもこれを狙って馬車を用意しなかったので、当然拒むことはない。御者に行き先を告げてからエリーゼが馬車に乗り込むと、続くようにイクスも乗り込んだ。
二人が乗り込んだのを確認して、馬車は進みだした。
王都から少し離れれば、辺りには緑の絨毯が広がっている。その中を裂くようにしてできた道を馬車は進む。
二人は移動の間も言葉を交わす。エリーゼからすると時間は少しも無駄にすることはできないし、したくない。一刻も早く依頼を終わらして、甘いもので脳を癒してあげたいからだ。
談笑自体は和やかに進む。お互いに笑い合ったりしながらと、周りが見れば仲の良さは一目瞭然だろう。けれど、エリーゼとしては楽観視していない。これが表面上のものであることも考えている。
こうして少しでもポイントを稼ごうと会話を続けていると、馬車の進む速度がゆっくりと落ちてくる。暫くすると馬車が完全に止まったので、ようやく目的地に着いたのだとわかる。
二人は扉を開け、馬車から降りる。そして、その光景を見たイクスは息を呑む。
周囲一帯に広がる花畑。赤紫色の花が途切れることなく、ずっと遠くまで広がっている。その美しい光景を見ていると、どこかの物語に迷い込んだかのようにも感じられるだろう。
この花はチュリアという名で、普通の人なら知っている。この時期に咲いていることは誰でも知っているだろうし、王都内でも個人で育てている人もいる。そこまで珍しい花でもない。
けれど、野生でこれだけの数が一斉に見ることができるのは、この場所くらいだろう。人の手が入っていないこの場所で見れるのは、ただただ壮観だ。
お気に入りの場所だったんだけど仕方ない。依頼優先。使える物は何でも使うがモットーだし。
この場所を知るものが増えてしまったのは残念だが、これで彼との仲が進展するのなら悪くはない。エリーゼはそう納得した。
一方で、一言も話さなくなったイクスを放置しておくのはもったいない。わざわざここに連れてきたのだから、彼の心を掴むいい機会だ。
「どうですか? とても綺麗でしょう?」
そこでようやく傍にエリーゼがいることを思い出したようで、呆然とした様子から立ち直った。
「ああ、確かに君の言うとおりだ」
「私のお気に入りの場所なの。イクスにも共有してあげたいと思って」
「その気持ちはわかる。私も驚いて声も出なかったからな」
「よかった、気に入ってもらえて」
むしろ、これでイマイチとか言われたら腹が立つけどね。
自分のお気に入りの場所を貶されたら、さすがに許せない。けれど、彼はそんなことも言わず、ただ感嘆している。エリーゼとしてもご満悦だ。
「少し、お茶でもしませんか?」
彼に近くにある木陰を示しながら提案する。
「そうだな」
「では」
木陰に向かい、シートを広げて腰を落ち着ける。持ってきていた小型のティーセットを取り出し、お茶の準備をした。
そして、二人はお茶をしながら会話に興じる。この場所を見つけた経緯だったり、よくこの場所に来るのか。それから学園のことだったり、彼についてのことだったり。思った以上に会話は弾んだので、ここに連れてきたのは成功だったと言える。
これでさすがに大丈夫でしょ。
最初はあまり乗り気ではなかった彼も、今の表情を見ると悪くないように思える。なので、エリーゼはそう判断した。
楽しい?時間はあっという間に過ぎていくもので、気付けば日も落ちようとしていた。エリーゼが片づけている中、彼は花畑の方を立ち尽くして見ていた。その後姿は、どこか哀愁が漂っていた。
「……一緒に見たかったな」
何か言っていたようだが、距離が離れていたため聞き取れなかった。
「イクスさん、終わりました」
「ああ、わかった」
先ほどまでの姿はどこへやら、そこには笑みを浮かべた彼の姿があった。
二人で馬車に乗り込み、王都への帰路につく。暫くして何事もなく王都に着くと、エリーゼは馬車から降りる。
送っていくとも言われたが、家まで来られると困るためエリーゼは遠慮を申し出た。
「今日はありがとう。久しぶりに楽しいと思える一日だった」
「いえ、そんな。少しでもイクスさんの気分転換にでもなればと思っただけです」
「そうか。……そうだな、いい気分転換になった」
それは何よりだ。
「よければ、また誘ってもいいですか?」
「……あぁ」
イクスから許可が出る。
「それでは私は行く。また学園で」
「はい」
扉を閉め、彼の乗る馬車は去っていく。エリーゼは一人その場に立っている。
うーん、どうなんだろ……。感触としていいような、悪いような……。
連れて行った時の彼の反応は悪いものではなかったが、さっき誘った時の反応が少し気になっている。
少なくとも悪くは思われてないだろうし、まぁいっか。
なんとも言えない感じではあるが、エリーゼは気にしないことにした。




