お出かけのお誘い
次の日から、エリーゼの公然と放課後に訓練場へ向かう日々が始まった。今までのように隠れて様子を窺うことはせず、堂々と。人目を気にせず。
おかげで訓練場ではエリーゼが居座るのが日課となった。もちろんイクスを見ているだけだが、女子に見られていることもあって、男子たちは今まで以上に気合が入っていた。
男って単純だなー。
そんな風に思われているとも知らず、男たちは見られてもいないのに無駄に頑張っている。女子にいい所を見せよう、あわよくば自分にもチャンスがあるはず。そんなことを思っているかもしれないが、それが叶うことはない。悲しい現実だった。
エリーゼが毎日通っているおかげか、イクスとは大分打ち解けてきた。女性との関わりを避けていた彼も、エリーゼは友人として見ているのか普通に話している。
さて、彼に自分の存在を意識させることには成功した。ここからはさらに友人としての立ち位置を盤石にさせる必要がある。そのためにも切っ掛けとなるイベントを起こそうと思う。
何度目かわからない放課後の訓練場。すでに周囲に人影はおらず二人きりの状態だ。彼の鍛錬は終わっていて、後は片づけを残すだけ。そのわずかな時間が、最近彼と話をする時間だった。
「お疲れ様です」
もはや習慣となりつつある、鍛錬終わりの彼に飲み物を渡す。
「すまない、ありがとう」
近くにある長椅子に座りながら、エリーゼから飲み物を受け取る。彼は特に気にすることもなく、受け取った飲み物を口につける。
まったく……。警戒心が強いのも考え物だね。
彼と会った翌日から仕掛けていたのだが、彼はそう簡単に飲み物を受け取ってくれなかった。他人から、いや、恐らく女性から物を受け取ることに思うところがあったのだろう。けれど、辛抱強く毎日通うことで、ようやく彼もエリーゼに心を開き始めた。おかげで次のステップに進める。
「いつ見てもすごい腕前ですね」
「いや、まだまだだ」
と最近で何度したかわからないやり取りを交わす。
「そういえば、普段イクスさんって休日は何をされてるのですか?」
「急にどうしたんだ?」
「こう、毎日こうした鍛錬する姿を見ていると、普段何をしているのかが全然イメージできなくて……」
彼のプライベートを探っていく。
「大したことはしていない。休日は領主としての仕事を手伝ったり、学園の授業の復習をしたり……。あとは、空いた時間に鍛錬したりしている」
「えぇーっ! それだけなんですか!?」
「あとは、たまに婚約者に会いに行くくらいだ」
彼の口から婚約者の名前が出てくる。
「ヒルダさんでしたっけ?」
「そうだ」
「あの方婚約者なのに、ほんと全然イクスさんに会いに来たりしませんよね」
口をへの字にまげ、いかにも怒ってますといった態度をとる。
「彼女は悪くない。私が時間を取れないのが悪いのだ」
「ふーん……そうですか」
なるほど、なるほど。彼のヒルダへの印象はそんなに悪くないわけか。
「まぁいいです。それで、休日なのに自由な時間もなくて疲れないんですか?」
「一応時間はある……」
「鍛錬ですよね?」
「……まぁ、そうだが」
「そんなのは休みにならないですよ」
少し考えたのち、何かを閃いたような顔をする。
「そうだ! 今度の休日どこかに出かけませんか?」
「いや……仕事の手伝いとかが――」
「少しぐらい大丈夫ですって。それに、息抜きくらいしないと、その仕事も鍛錬もあまり効果があがりませんよ」
「そんなことは……」
ここまで言ってもまだ渋るイクス。
「よし! 王都の外へ出かけに行きましょう」
「え?」
「私いい場所知ってるんです。きっとイクスさんも気に入ると思いますよ」
「私はまだ何も言ってな――」
「休日の昼過ぎ、私は王都の門の前で待ってますから絶対来てくださいね。それじゃあ、失礼します」
有無を言わさず言いたいことを言いきり、さっさと訓練場を出ていく。
何か言わせると、色々理由をつけて断られそうだったし……。こうして強引に進めるに限る。
実際彼は何か言いたげな顔をしていたが、当然無視だ。こちらのプランを進めるためにも付き合ってもらわないと困る。これで、来なかったら来なかったで問題ではあるが……。
とりあえず進めた。オッケー、後は知らなーい。
来なかったらどうしようかなと思いつつも、その時は全力で王都巡りしようとエリーゼは考えていた。




