表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/62

ファーストコンタクト

 まずは人物分析ということで、数日間はケインの人となりを観察していた。その結果、得られた情報からエリーゼは彼のことを次のように理解する。


 まずは優等生であること。これは依頼者ティアナからの情報通りで、彼は学園内で優秀な人物であった。そして、他人に優しく、困っている人を放っておけない。表でいい人ぶるような人物は大体こんな感じなので、エリーゼとしてはわかりやすくて助かる。


 もう一つは、女性に対してモテたい・褒められたいといった願望が強いところ。彼の承認欲求は他の貴族に対してのものと考えていたが、どうやらそれだけではなく、男性としての願望・欲望は人並みにあるようだ。


 しかし、他の女子はケインのことをカッコいいと思うけど、恐れ多くて近づけない。そんな風に扱っているせいで、彼としては自身の欲を発散することができていないようだ。なら、エリーゼのすることは簡単だ。女として彼の承認欲求を満たしながら、彼を支える。そんな一歩引いた立ち位置に収まれるよう仕掛けるだけだ。



 学園で受ける授業の一つに、王国の歴史を学ぶ王国史というのもがあった。この授業は普段の教室ではなく別の教室で行われるため、授業のために移動する必要がある。その際に、座る席は自由である。


 エリーゼは教室に入りケインの姿を探す。やがてすぐに見つかり、幸いにも今回は隣に誰もいないことを確認。彼女はそれとなくケインの近くへと着席する。その状態で待っていると、やがて教師が入ってきて授業が開始された。


「教科書の93ページを――」


 授業を進めていく中、教科書を見るように教師から言われる。


 ――よし、このタイミング。


 エリーゼは鞄の中を探し、教科書が見当たらないことを確認。すぐさま困った表情を作る。そして、周囲に対して本がなくて困ってますとわかるように、戸惑った仕草を見せる。あからさまに見せつける。


「よかったら、一緒に見るかい?」


 すると、横から誰かに声をかけられる。この場所に座ったのは意図的なため、横に誰がいるかなんて見なくてもわかる。声の方を向けば、教科書を指し示しているケインの姿があった。


 よし、釣れた。


「あ……、ケイン様……。よ、よろしいのでしょうか?」


「ああ。ヘレン嬢がよければだけどね」


「わ、私は大丈夫です……」


 ケインが近寄ってきて、教科書を見せてくれる。お互いに肩が触れるかどうかの距離。恋愛をしたことのないヘレン嬢にとって、ここは初めて男性である彼を意識する場面。


 自然な素振りで彼の横顔を眺める。


「ん? 僕の横顔に何かついているのかい?」


「い、いえ……」


 彼の顔を見ていたことに気づき、恥ずかしそうに視線を教科書に戻す。


 ――どうよ、この完璧な流れ。


 ケインには、きっと恋愛にウブな女性としての印象をつけられただろう。その証拠に横目で彼を少し見れば、微笑ましそうな顔をしていた。


 授業は何事もなく進んでいく。


「あっ……」


 教科書をめくろうとして、ケインと肩が触れることがあった。彼の顔を見れば優しそうに微笑んでいて、直視することができずにすぐ顔をそらす。


 また、時折彼を意識してますアピールとして、チラチラと彼の横顔を見ていた。その内の何度かは、彼と視線が合う。その度に恥ずかしそうに視線を教科書に戻す、といった作業を繰り返した。



「よし、ここまで」


 授業の終了を告げる鐘の音とともに、教師が終わりの言葉を告げる。周りは授業から解放されて、教室から出ていく者や残って友人と話をする者たちがいた。


 それはケインも同様で、教科書などを片づけて教室から出ようとしていた。


「あ、あの……」


「ん? なんだい?」


 そんな中、エリーゼは彼を引き留める。


「き、今日はありがとうございました」


「なに、気にすることはないさ。僕以外でも皆同じことをしただろうからね」


「い、いえ。そんなことありません。ケイン様みたいな優しい人、私にとって初めてです」


 どんだけ箱入り娘で人生経験少ないんだよ、と内心で言葉を口にしながら一人でツッコミをする。


「ふふ。まぁ、君にそう思ってもらえたならよかった」


 と彼は、褒められて満更でもないようだった。


「困ったことがあれば、また僕を頼るといいさ。じゃあ」


 そう言って、華麗に去っていく。


「ケイン様……」


 それを憧れの目で見つめるヘレン。彼の姿が見えなくなるまで、それは続いていた。なお、すでに周囲から人は消えている。


 誰にも見られてないとわかるや否や、エリーゼは表情を気だるげなものへと変化させた。


 とりあえず、これで初期の好感度稼ぎは十分かな。


 成果としては上々だったが、脳内ピンクの人物を演じているせいで少し疲れていた。


 まぁ、早く終わらすためにも頑張ろっと。もっと接触を繰り返して、さらに好感度を上げるぞー。


 エリーゼは心の中で一人叫ぶのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ