表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/62

依頼者の所へ

 夜。いつものようにローブをまとい、人目につかないよう移動して依頼者のいる屋敷へと到着する。屋敷の中へと招かれると、今回の依頼者である若い女性がそこにはいた。


「あなたが?」


 フードを取った姿を見て、彼女は目を丸くしていた。エリーゼからするとよくあることなので、特に気にすることもない。


「そうだけど?」


「そう……。いえ、何でもない」


 どうせエリーゼが若いとか、顔が幼いとかだろう。意外ではあったようだが、彼女は気を取り直して言った。


「申し遅れました。私が今回の依頼をしたティアナ・コーデリアです」


「エリーゼだよ。よろしく」


 彼女に部屋まで案内され席に着く。


「それで、今回のターゲットは?」


 ある程度は依頼内容に書かれていたが、詳細を知るためにも依頼者本人から確認する。


「私の婚約者、ケイン・オズワードです」


 ターゲットである彼の写真を見せられる。そこには、優しそうな顔の好青年がそこには映っている。


 これがターゲット……。相変わらずどのターゲットも写真写りだけはいいね。まぁ、写真は喋んないしね……。


 自分に依頼をしてくるくらいだ。彼には何か問題があるのだろう。そんな考えで彼女の説明に耳を傾ける。


「彼の学園での評価は優等生そのもの。成績優秀で周囲にも優しく、容姿も端麗で女性からも人気がある」


「でも、それだけじゃないんだよね?」


「はい……。彼の問題は、お金を勝手に浪費することです」


 あー、よくあるやつね。


「彼はどうやら見栄を張る癖があるようで、必要もないのに豪勢なパーティを何度も開催して、自分の欲求を満たしているのです。一度や二度程度なら私も婚約者として彼を支えるつもりでしたが、彼の場合は多すぎるのです。私たちの家にはそんなお金があるわけでもないのに……」


「もちろん彼には言ったんだよね?」


「はい。お金がなくなるからやめて欲しいとお願いしました。だけど、彼はやめることなく未だに続けています。そして、将来のために貯めておいたお金にまで手を付け、挙句は領地のためにと残してあるお金にまで……。あれは領民が汗水垂らして稼いだお金。領民のために使おうと大事にしていたのに……」


 自分の承認欲求を満たしたいために、お金を浪費する。それを言っても治らないから、彼とは別れたい……と。


「このまま彼と一緒にいると、領民のためのお金がどんどん消えていってしまう……。だから、もう彼とは一緒にいられない……」


「なるほど、ね」


 状況は理解できた。


「依頼者の要望だし、依頼を受けることは特に問題ない。その理由も婚約破棄する原因のワースト上位だしね」


「だったら……」


「だけど、本当に大丈夫?」


「何がですか?」


「なんか気乗りしないように見えるから」


 彼女の顔は、依頼者によくある怒りや悔しさといった表情ではなく、どこか寂しそうな表情をしていたからだ。それは、口では望むものの、心の中ではまだ悩んでいるようにも感じられた。


「……そうかもしれません。彼とは長い付き合いですし、彼に情があるのも事実です。私に優しくしてくれますし、彼といる時間は悪いものではなかったですから……」


 彼女は胸の内を吐露する。


「親が決めた結婚だったとはいえ、私は恵まれていた方だと思います。他の方だと、愛もなくお互い苦痛でも一緒にならなければいけない場合もあります。何もなければ私もこんなことはしたくないと思っています。だけど、このままでは全て駄目になってしまう……」


「だから仕方なくと?」


「そうですね……。彼を止められなかった私にも問題があるかもしれませんが、どうしようもないことです。今の私にできるのは、領民のために彼と別れることだけ……」


 彼女は儚げな表情でそう告げた。


「だから、改めて依頼させてください。私は彼、ケイン・オズワードとの婚約破棄を望みます」


 彼女は決意を込めて言った。ならば、エリーゼとしてはそれに応えるだけだろう。


「わかった。依頼を受けるよ」


「よろしくお願いします」


 エリーゼは椅子から立ち上がる。立ち去ろうとするその姿に、彼女はゆっくりと頭を下げた。



 エリーゼはすぐに準備に取り掛かる。ケインとティアナが入学する学園、レンブラント貴族学園。ここへの入学手続きをする。


 そこらへんは上手いこと伝手を使って手早く済ませた。おかげで数日後から開始できる。


 次は潜入するのにどういった人物がいいか考える。今回はこれでいこうと机に並べられた写真の中から一枚を取り出す。


 ヘレン・ジルヴァン侯爵令嬢。かなり裕福な家の娘で、気弱な性格のため男性とは恋愛をしたことがない。そんな彼女は、初めて自分を助けてくれる男性に出会い、一目惚れしてしまう。そういった設定。自分では『ないな』と思いつつも、一番使えそうなのだから仕方ない。今回はこれでいくことを決めた。


 後は彼女の姿になりきるための変装道具を色々用意するだけ。幸いヘレンの髪は銀色で短いため、そんなに手間はかからないだろう。



 そして、数日後。制服に身を包んだエリーゼはレンブラント貴族学園に来ていた。姿は当然、ヘレン・ジルヴァンとしてだ。


 相変わらず周りはいち令嬢のことなど誰も気にしておらず、こちらを気にする素振りは誰もしない。――逆に、こちらのことを知っている人がいても困るわけだが。


 いつもの如く、校舎内に入り教師とともにターゲットのいる教室へと向かう。教室に入り見回すと、貴公子然としたケインの姿を確認できた。これが今回のターゲットだと、エリーゼはその脳裏に刻んだ。


 自己紹介を済まし席に着くことになったが、生憎ケインの傍は埋まっていた。こればかりはどうしようもないため、仕方ないと割り切る。席の一つ二つでやることは変わらないので、この後どうするかが大事である。


 今回はどうやって切っ掛けを作っていこうか。エリーゼは作戦を考えるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ