第26話 何がいったい、どういうこと!?
翌日。
学園に登校するなり、殿下の部屋に呼び出された。
そこにいたのは、殿下、アウリウスさま、ルッカさま、そしてレヴィル先生。
皆さま、それぞれに険しい顔をしていらっしゃった。
もちろん、呼び出されたあたしも、ヘラヘラなんてしていられない。
「昨夜のことなんだが」
殿下の切り出した話題に、ゴクリとつばを呑み込む。
「庭園での一件は、参加者たちに詳しくは知られていない。一応、会場に忍び込んだ不審者が、ローゼリィに不貞を働こうとしていた。それをルッカとアウリウスが阻止した。そういう話になっている」
「はい」
すべてが真実ではないけど、まったくのウソでもない。
実際、あの男は不審者に間違いないし、ルッカさまたちに助けられたのも、本当のことだ。
「事の顛末は、ルッカから報告してもらったが、リュリ。きみの口から、あらためていろいろと聞きたいんだが、いいかな」
「あ、はい」
殿下の言葉に身が引き締まる。
「リュリ、きみはあの男と初対面なんだよね」
「はい。初めて会ったと思います」
あんな容姿の人、あたしの記憶のなかに存在しない。
「『我の乙女』とか言っていたらしいが」
「でも、知らない人です」
「『稀有な力に惹きつけられた』というのは?」
「あたしの方が聞きたいぐらいです」
稀有な力ってなによ。あたしはそんなもの知らない。
誰かと間違えてるんじゃないのかな。それこそ……、そうね。偉大な聖女、ミサキさま、とか。
「あっ……!」
「どうした?」
「あの殿下っ、あのとき、ミサキさまが呟いていたんですっ! 消えた男の方を見て、『セルヴェスティ』って」
「セルヴェスティ?」
オウム返しな質問に、頷いてみせる。
「では、あの男は『守護獣・セルヴェスティ』なのか」
守護獣だもん。人の姿にぐらいなれるかもしれない。
もしそうなら、あの容姿も、ルッカさまを弾き飛ばした力も、闇に溶けるように消した姿も、なんとなく納得できる。
けど、納得できない部分も残る。
「我の乙女」ってなに?
守護獣の乙女って言ったら、ミサキさまでしょ?
何をどう間違えたって、あたしのことじゃない。
「リュリ。きみのことで、レヴィル先生が気になることがあるとおっしゃるんだが」
あたしのことで?
「リュリ。お前の魔力のことだ」
首をかしげるあたしに、先生が一歩前へ出た。
「お前の素性は殿下から伺った。捨て子ということで、親がわからない以上、魔力を持っている可能性を秘めていることは、特段におかしいことではない」
「はい」
両親の片方が貴族であった場合。わずかであっても、子が魔力を持っていてもおかしくはない。庶民のなかにも、そういう理由で魔力を持っている人はいる。ただ、庶民同士で代を重ねていくと、魔力のある血が薄まっていき、ほとんど使えなくなっていくという。だから、魔力=貴族の証となるこの世界の常識として、魔力保持のため、貴族は同じ貴族としか子孫を残さない。魔力ナシの庶民を伴侶に向かえるのは、よっぽどの大恋愛でもない限り行われない。
「俺が気になっているのは、別のことだ。リュリ、お前は魔法を使う時、精霊と話しをすると言っていたな」
「え? あ、はい」
「どんな話しをするんだ?」
「えっとですね。そこにいる精霊さんを見つけて……。精霊さんのやりたいことを訊ねます」
この間の風の精霊シルヴィとの会話を思い出す。
「で、どこまでならやってもいいよ、とか、これをお願いできないかなって交渉します。納得してくれたなら、そのまま力を使わせてもらって……って。何か、おかしいですか?」
皆の視線が集まりすぎて、少し痛い。あたし、何かおかしなことを言ったのかな。先生だけじゃない。殿下たちも驚いたような顔をしている。
「リュリ。この世界の魔法は、精霊の力を使って発動させるが、僕たちは、そもそも精霊の声を聴いたことがないんだ」
「ええっ?」
殿下の言葉に、あたしがビックリした。他の方々を見回すが、皆さま、殿下の言葉にウンウンと頷いてみせる。
「魔法は、この自然界に存在する精霊たちに、呼びかけその力を使役するものです。彼らの存在を感じ取り、その力を操り、己のものとして使う。交渉などは存在せず、一方的に精霊の力を引き出すだけだ」
「じゃ、じゃあ、あたしの魔法の使い方は、間違っているんですか?」
先生の説明にうろたえる。
「いや、間違っているとは言えない。古い文献には、それが出来たという偉大な魔導士の存在も記されている。間違いではない。間違いではないんだが……」
「リュリの『稀有な力』って、その魔法の使い方にあるんですかね?」
ルッカさまが訊ねる。
「いや、それだけではないだろう。いにしえの魔導士と同じ力を有しようとするなら、上位貴族の血を濃くしていけば生みだせないこともない」
その場合、血が濃くなりすぎて別の危険もはらむので、推奨されないがと、先生がつけ加えた。
「それよりも、気になるのが神殿での一件だ。リュリは、ハープの音に合わせて歌ったと、聞いているが」
「あ、はい。本当です。ハープの音を聞いていたら気持ちよくなってきて、知らないうちに歌いだしていて……」
完全に無意識だった。歌っていたことも、後で指摘されないと気づかなかったぐらいに。
「そしたら、グイングインと勝手に植物が育ってしまって。花も咲き乱れちゃったんです」
季節を全部無視した草花。鬱蒼と茂っちゃった木々。
「何を歌ったんだ?」
「おそらくですけど……。女神を讃える歌……。いつも神殿で歌われているやつです」
そんな特別な歌じゃない。よくある、誰にでも歌えるやつ。
「植物を成長させる魔法……。存在しないわけではないが、使える人物はかなり珍しい存在になるだろう」
ええっ? そっ、そうなんですか?
「それと、成長させた後も、お前が倒れていないことも気になる。普段、魔法を使ったら、魔力切れでぶっ倒れていただろう?」
そういえばそうだ。あの後、あたしは倒れていない。あれだけのことをしでかしたにも関わらず、である。
「ハープの弾き手の魔力も相まっているからとも言えるが。そもそも歌で魔法が使えるなど、そんな方法、俺は知らない」
先生も知らないの!?
「これは、あくまで仮定でしかないが。リュリ。お前には、普通の魔力と違った、別の力があるのかもしれない」
魔力とは違うって?
「植物を一気に成長させたその力。それがなんなのか解明出来るといいんだが」
もしかすると、それが守護獣をも引き寄せているんだろうか。
先生にもわからないものは、持ち主であるあたしにもわからない。
ただ、自分だけがみんなと違う、異質なものと言われたようで、少し怖い。
あたしは、ただのリュリ。お嬢さまの侍女で、今は身代わりを務めてるだけのリュリ。それじゃあ、いけないんだろうか。
少し震えた肩の上で、セルヴェがピクリと身じろぎした。
第二十六話です。
リュリの魔力と生まれについて。
魔法関係の設定は、あくまでフワッとユルめなので、ツッコまれると苦しいのですが。
基本、魔法の使える人は、そこにある精霊(!?)を使役するだけです。特に声を聞き、会話をしません。だから、リュリと殿下たちでは使い方が違うんです。
どちらかというと、その他大勢に紛れていたほうが安心するリュリなので、ハズレにされて不安になってます。多分、この辺の性分は生い立ちも関係してるんじゃないかな。皆と違う生まれだから、皆といっしょがいい。普通に溶け込むことで、変わった目で見られなくなるんじゃないかっていう。
その辺の機微も書いていきたいのだけど、…難しいですね。
これからもよろしくお願いします。




