第27話 交渉決裂!?
とりあえず。
あの、守護獣かもしれない人は、あたしがお嬢さまの身代わりを務めている間は、現れないようなので、極力お嬢さまのフリをし続けることにした。
ただ、一応の警戒をしておいた方がいいということで、必ず誰かが警護につくことになった。
その上で殿下は、守護獣について、もう少し詳しく調べてくださるともおっしゃってくれた。
皆さま、ミサキさまに攻略されないだけでも大変なのに、あたしのことにまで手を煩わせてしまった。
ホント、申し訳ない。
こうなったら、皆さまの髪を梳いて、部屋じゅうをピッカピカに磨いて、ああ、アウリウスさまのお袖のボタン取れかかってる。ちゃんと留め直してあげたい。えっと、針と糸…、針と糸……。
「だから落ち着けって!」
あたしの感謝の気持ちは、アッサリと止められてしまった。
「あの、ローゼリィさま」
午後のティータイム、あたしに声をかけてきたのは、なんとミサキさま。
こちらも、なにか思いつめたような必死な顔をなさっていた。
「少し、お話しをさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
両手を組んでのお願いスタイル。
おまけに、すがるような目線。
これ、拒むことは出来ないのでは?
というか、あたしにいったい、何の用なんだろ。
「ええ。では、あちらの四阿で、いかがですか?」
庭に出てしまえば、他の令嬢たちに聞かれる心配も減る。
護衛についてくれていたアウリウスさまと三人で、四阿に向かう。
この学園、貴族さまのために用意されたものだけあって、どこでティータイムを迎えようと、給仕の方が必ずその用意をしてくれる。特にこれを飲みたい、食べたいという希望さえなければの話だけど、それでも必ずお茶がお菓子とセットで用意されるんだから、スゴいと思う。あたしみたいな侍女が接待しなくても、なんとかなるようになっているのだ。
だから今も、あたしたちが四阿に向かっただけで、当然のように給仕さんによって、お茶セットが用意された。アウリウスさまは、護衛で一緒に召し上がらないことを給仕さんたちは重々承知で、用意された茶器はあたしとミサキさまのぶんだけ。ケーキスタンドには、今日のおススメお菓子と小さなケーキがカワイク載せられている。
「あの、ローゼリィさま……」
給仕さんたちがいなくなったのと同時に、ミサキさまが口を開いた。
けど、ハッキリ言わない。チラチラとアウリウスさまとあたしに視線を動かす。
ああ。
「アウリウスさま、少しだけ席を外していただけませんか?」
多分、そういうことなのだろう。あたしたち二人だけで、話しがしたい。
察して、アウリウスさまにお願いする。
「わかりました」
特に不満を漏らすでもなく、アウリウスさまが離れる。護衛のためにいるのだから、そう遠くへは行かないはずだ。もしかすると、気づかれない位置で、例えば茂みなんかに潜みながら話を聞くつもりなのかもしれない。(少し、怖い)
アウリウスさまの姿が見えなくなって、二人っきりになっても、ミサキさまは何も言い出さなかった。
十を数えても、二十を数えても、五十、六十……、百を過ぎて、ガマンが限界に達した。
「あの、ミサキさま? お話があるのではなくて?」
言いたいことがあるなら、ちゃっちゃと言って欲しい。話しやすいように、アウリウスさまにも席を外していただいたのに。待っているのは、ムダにドキドキして、精神的にも悪いし。
「あの、こんなこと、ローゼリィさまにお尋ねしてもよろしいのか、迷ったのですが……」
だから、何よ。
また、しばらくの間。
「……『蒼き瞳のアンジェリカ』」
「えっ?」
「『君の瞳に恋してる』」
「ええっ?」
「やはり、ご存知なのですね。ローゼリィさま」
気づかれた? お嬢さまがこの世界のことをご存知だってことを!
「なっ、なんのことかしらっ?」
あわてるな。動揺するな、自分。
「とぼけなくても結構よ。あなたもわたしと同じ『転生者』なのでしょう?」
――てんせいしゃ?
「よくあるテンプレ展開よね。ヒロインと悪役令嬢が一緒にゲーム世界に転生しているってうヤツ」
ナンノコトデスカ?
ミサキさまは、勝手に話を続けていく。
「この場合、悪役令嬢が主役になって、ヒロインが悪役化したりするけど、わたし、そんなことをするつもりはないの」
は、はあ……。
少しも理解できないまま、言われるままでいるしかない。
「正規ルートにのっとって、このまま進めていくけど、ローゼリィ、あなたを断罪するつもりはないわ」
敬語が消えた。「さま」はどこ行った。
「だから、お願い。セルヴェスティだけは、わたしに返して」
「返してって……」
そんなこと言われても。
「あれは、わたしの守護獣よ。あれがいないと、わたしは聖女として認められないの。あなたには必要のない存在でしょ? 彼を攻略したいというのなら、一度わたしの元に戻して、それから話を進めてほしいの」
「いや、その……」
返せるものなら、返したいんですけどね。
「攻略したい気持ちはわかるわ。わたしだって、三周目ぐらいで攻略したし。でも、今はダメなのよ。わたしが推しを攻略するためには、彼の存在が必要なの」
三周目。推し。
なんのことやら、サッパリ。
「あ、あの、ミサキさま、落ち着いてください」
あたしには理解出来ないことだらけで、ついていけないんです。
「お返しするもなにも、あたしがあの方をどうにかしたってわけじゃなくって、勝手に目の前に現れたんです」
これ本当。これ真実。
「それに、あの、おっしゃってる意味がよく理解出来ないのですが」
もう少しわかるように説明してください。
「なに? ここまで来て、しらばっくれるつもり?」
ミサキさまが、フンッと鼻を鳴らした。
「いいわ。そっちがそのつもりなら、わたしにだって考えがあるわ」
派手な音とともに、ミサキさまが立ち上がる。
「あの、ちょっ、待って……」
「この世界の主役はわたしなの。そのあたりをよぉく考えておくことね」
第二十七話です。
ミサキ、ぶっこわれ。そして、バレた。
よくある、「悪役令嬢モノ」の展開を見せてきた!? どうなんだ!?
でも悪役令嬢が悪役令嬢じゃないんだよね。この場合。リュリだし。
そういや、「ミサキ」の名前は、2000年代に多かった女の子の名づけから採用したんだけど。……だんごのまわりで「みさきちゃん」、一人しかいないのよな。ホント、首位独走名前だったの!? 「桜」にいたっては0なんだが。
これからもよろしくお願いします。




