第24話 避けられない!? 「強制力」発動!!
あああ。どうしよう。
殿下とミサキさまのダンスに目が釘付けになる。
殿下、やっぱりお上手。ああ、そのターン、あたしとなさったときより、もっとステキですっ!
クルクル回るお二人から目が離せない。あたしとは格段に違うミサキさまのダンス。格の違いを見せつけられているようで、あのときこうしておけばよかった、ああやって動けばよかったと、一人反省会を開く。
ああやって上手く踊れたら、殿下はもちろん、あたしももっと輝けたのに。あたしが輝けたら、お嬢さまへの称賛ももっと集まったのに。
ミサキさまへ、憧れと、羨望と、嫉妬。それらの混じりあった視線を送ってしまう。
「……リュリ、踊るぞ」
唐突に、アウリウスさまに腕を取られた。
「え? ええっ?」
なにが、いったい、どうしたの?
訳も分からないまま、強引に広間の真ん中に連れ出された。
「足はどれだけ踏んでも蹴っても構わん」
言うなり、グイッと引っ張られ、ダンスが始まる。音楽の途中からだけど、そのリズムに器用に乗って踊りだす。
(あわわわっ、どうしちゃったんですかっ?)
アウリウスさまが笑ってるよ。普段なら絶対見せてくれない、珍しすぎる笑顔。その口角、上がることもあったんですね。
「お前も笑え」
うえっ? もしかして、これも仕事というか、義務なの?
「最大限、楽しそうに振る舞え。今夜の主役を、あの女に取られるわけにはいかんからな」
なるほど。お嬢さまのお立場を考えてのダンスだったんですね。
わかりました。アウリウスさまよりも口角を上にあげて、笑ってみせますっ!
「殿下より、立派に踊ってやる」
えっ?
腕を少し引っ張られ、よろけた拍子に足を踏みつける。
(―――うっぎゃあああっ!)
またっ! また振り回されたっ!
足の甲に乗せられたまま、グルンと一回転。
その勢いに、ブワッとドレスの裾が大きく広がる。
殿下と踊った時とは違った意味でドキドキする。
腰をガッシリ掴まれているから、転倒する、吹っ飛ばされる心配はない。勢いよく回るので、近くで踊っている方にぶつかるかと思ったけど、それもたくみによけられて、心配いらない。そして何より、ここまで勢いよく動いているのに、音楽からまったく外れない。
剣術や体術。それらには、リズムと言うか呼吸のようなものが必要で、その間の取り方、拍子の取り方が上手ければうまいほど、達人の域に達することが出来るのだと聞いたことがある。アウリウスさまのダンスも、その才能がいかんなく発揮されてるんだろう。
あたしをふり回すだけの体力も、じゅうぶんにお持ちだし。
クルクルというより、グルグル回るアウリウスさまとのダンスは、殿下とミサキさまにも接近する。
すれ違いざまに、殿下が一瞬呆れてから、軽く笑ってみせた。アウリウスさまの意図を、感じ取ってくださったのかもしれない。
殿下たちよりも華やかに、殿下たちよりも魅力的に。
注目されるのは、殿下たちではなく、あたしとアウリウスさま。
そのことに緊張しないわけではないけど、あたしが微妙に硬くなると、アウリウスさまにブンッとふり回される。
もしかして、この思いっきりグルンッ、いきなりグリンッは、あたしを緊張させないようにやってるの? ふり回されてる間、緊張だのなんだのやってる余裕は全くないし。
もちろん、殿下たちより目立つためにやってるんだろうけど。そういう気づかいも混じってるんじゃないのかな。
「なんだ。笑うだけの余裕が出てきたか?」
やっぱりと思うと同時に、自分が自然に笑っていたことに気づかされる。
「そのまま笑って、ダンスを楽しめ」
ダンスが派手なことは変わらない。けど、心なしか、アウリウスさまもうれしそうに踊っていらっしゃるような気がする。
演技じゃなくて、本心からのアウリウスさまの笑顔。いつもと違うその表情は、とても魅力的で、爽やかで、とっても貴重だった。
三曲目を踊り終えると、さすがに息が上がってくる。というか、楽しいからって、あれだけふり回されれば、誰だって疲れる。
幸いというか、四曲目は踊らなくていいようなので、壁際に移動する。
殿下も、次は、ミサキさまではない別の令嬢と踊りに行かれた。婚約者でもないミサキさまと二曲続けては踊れない。ミサキさまも、聖女と踊る栄誉ととかなんとか誘われて、殿下以外の男性と踊っているし。
これなら、安心かな。
殿下とミサキさまが踊るなんて、なんの「いべんと」かって思ったけど、どうやらそういうことには発展しないらしい。殿下以外ではアウリウスさまに「いべんと」が起きる危険があったけど、今のアウリウスさま、「オレに話しかけるんじゃねえ」的な空気を発していて、誰も近づかない。せっかくカッコいい服装をされているのに、壁際で直立不動。なんか、ちょっともったいない。
多分、殿下の身辺警護も兼ねてるんだと思う。さっきからずっと殿下の動向を目で追ってるし。
って思うと、さっきあたしと踊ったのは、、やっぱり特別だったのかもしれない。
「あの。少しお庭に出ていてもいいですか?」
ちょっと新鮮な空気を吸って落ち着きたい。
「構わないが、オレも一緒に行こう」
「え、いいですよ。アウリウスさまは殿下の護衛をなさっていてください」
離れたら、性分的に、絶対気にするだろうし。
「ちょっとの間だけですから」
すぐ戻ってくるつもりだから。
「……なら、ルッカとともに行け」
え? 過保護すぎですよ。
そう思ったけど、アウリウスさまは、サッサと決めて、ルッカさまを呼び止める。
「じゃあ、行きましょうか」
頼まれたルッカさまと一緒に、広間の外、庭園に足をのばす。
広間から続く階段を降りて庭園に出れば、そこはヒンヤリとした夜の空気に包まれていた。
庭園のなかは、ところどころで明かりが灯されていたけど、全体的に暗く、人目も少ない。整えられた茂みはバラの木だろうか。今は咲いていないけれど、初夏になればきっと、満開でステキな風景を作り出すんだろう。
「う~~~んっ」
そんな草木の匂いと夜の冷たい空気を目一杯吸い込む。少しだけ首を動かして緊張を解く。
「疲れた?」
「ええ。でも平気です。キチンと仕事はこなせましたから」
殿下の婚約者らしく振る舞って、一緒に踊る。それも二曲。完璧なステップではなかったけれど、殿下の助けもあって、なんとかこなすことが出来た。
ミサキさまが殿下のお相手にと現れたときはハラハラしたけど、アウリウスさまの機転のおかげで、お嬢さまは、ちゃんと注目を浴びられた。
別に、ミサキさまに張りあおうなんて思っていもいない。あちらは、この国に現れた偉大な聖女さまなんだし、張りあう理由もない。だけど、彼女のせいで、お嬢さまが不利になって、お立場が悪くなるのだけは避けたい。
殿下はお嬢さまのご婚約者だからムリだとしても、他の殿方とミサキさまがご恋愛されることだって、別に悪いとは思っていない。個人的には、「聖女と○○の恋!」なんていう物語でありそうな話は、興味もあるし、楽しそうだと感じている。ただ、その恋のせいで、お嬢さまが断罪され、幽閉だの処刑だの追放だの、物騒なことになるから反対するだけだ。
「どうやら、『いべんと』は起きなかったみたいですし。お嬢さまの面目も守れましたから。あたし、満足しているんです。それに……」
数歩だけ、ルッカさまより先に歩いて、ふり返る。
「楽しかったんですよ。舞踏会なんて、憧れの場所ですから」
普段のあたしなら絶対参加出来なかった舞踏会。女の子の夢ではあるけど、侍女には遠く手の届かない存在。ダンスはメチャクチャかもしれないけど、いつかステキな王子さまと踊ってみたい。そんな風に漠然と願っていた。
それを、お嬢さまのフリをしてとはいえ、叶えられたのだから、疲れよりも満足感と高揚感に包まれて、今のあたしはとっても気分がいい。
「リュリ……」
ルッカさまが、一瞬、大きく目を見開いた。
そして。
「よかったら、ボクとも一曲、踊らないか?」
………え?
第二十四話です。
アウリウスとのダンス。そして夜の庭でルッカとの会話。
そういうフワフワした空気があるのが舞踏会。楽しそうですな。
これからもよろしくお願いします。
(ここに書くネタがない……)




