第15話 イキナリ落っこちて来れば、何にだって驚く。
公園のなかは街と違って、歩く人も少ない。
緑の芝生の上で遊んでいる子どもたちを眺めながら歩き、あたしはルッカさまと並んで、ベンチに腰かけた。
本当なら、ルッカさまと一緒に座るなんて、恐れ多いのだけど、いいから座れと言われてしまえば、従うしかない。
ベンチは木陰に設置されており、目の前の人工池から吹き渡る風と相まって、涼しく爽やかな空気に満ち溢れていた。
「今日は、ありがとうございました、ルッカさま」
「気晴らしになったか?」
「はい、明日から、また頑張れそうな気がします」
それならいい。こちらをふり向くことなくルッカさまが言った。
こうしてノンビリするのって、どれぐらいぶりだろう。自分のために時間を使うなんて贅沢も、かなり久々だ。
街をたくさん歩いて、いろんなものをたくさん見て、聞いて、触れて。身体も心も驚き疲れたけど、その疲れは今の自分に心地よかった。
こんな休日を用意してくださった殿下と、ご一緒してくださったルッカさまには、どれだけ感謝しても足りない気がする。
ううん。感謝は行動で示さなきゃ。
この先、完ぺきにお嬢さまの身代わりを務めることで、お二人やアウリウスさま、レヴィル先生にもご迷惑をおかけしないようにしなければ。
ドレスのポケットから、お嬢さまのメモを取り出す。
ビッシリと書かれた、これらかのこと。
昨日、殿下が神殿側から言われたという、「お嬢さまとの婚約破棄」「ミサキさまとの結婚」というのは、これから起きる「いべんと」事件の一つなんだろうか。
「あ、れ……?」
メモを読む視線が、別のところで止まる。
「どうした?」
「あ、いえ。昨日、神殿でお会いした方のお名前が、ここに……」
問われて、その部分を指し示す。
「神殿関係者、オーウェンさま……」
青銀の珍しい色の長い髪。抜けるように白い肌。瞳も透き通った水のように澄んでいて、女性と見間違えそうなほど、繊細でキレイな。でも男性。
あの方も、「攻略対象者」だったなんて。
「オーウェンさま?」
ルッカさまが声を上げた。
「ご存知なのですか?」
「ああ。アウリウスさまのご兄弟だ」
「うええっ!」
まさかっ。全然似てらっしゃらないけど?
「母親が違うんだ。オーウェンさまは、アウリウスさまの兄君だが、生まれは半年ほどしか違わない」
異母兄弟……。
「聞いた話だと、オーウェンさまの母君は神殿関係者ではあるが、身分はなく、正式な妻ではなかったから、家の後継者として、正妻の子であるアウリウスさまが選ばれたらしい」
つまり、オーウェンさまは身分の低い女性に産ませた庶子で、アウリウスさまは、正妻の子、嫡子だってこと? 正妻の子、母親の身分の差から、兄弟でも弟が家督を継ぐことになった。そういうことなのかな。
「オーウェンさまは、幼いころから母君とともに神殿で暮らされていたから、学園の貴族とも縁が薄い。ボクも、名前程度しか存じ上げないんだ」
そっか。兄弟って言っても、一緒に暮らしていなかったんだ。
弟なのに、家督を継ぐことになった負い目。そんなものがアウリウスさまのなかにあるんだろうか。それであの時、あんな硬い、強張ったような表情だったのかな。
そういう兄弟の確執めいたものは、部外者のあたしにはわからないけれど。兄弟であるなら、仲良く過ごされてもいいのに。そう思うのは、あたしに家族がいないからだろうか。
「それよりも、まさか、お前がオーウェンさまにもお会いしているとは思わなかったぞ」
あたしが出会ったことを、アウリウスさまは報告しなかったらしい。
「このままいけば、もしかすると、この攻略対象者全員に会えるんじゃないのか?」
神殿で暮らしているという、なかなか会えそうになかったオーウェンさまにも会えたんだ。もしかすると、そんな偶然が起きるかもしれない。
残る二人は、ミサキさまの幼なじみ、ライネル。聖女の守護獣、セルヴェスティ……。
「いくらなんでも、それはさすがに無理なんじゃないでしょうか」
特に、守護獣。どんな生き物なのか想像つかないけど、これはさすがにミサキさまの前にしか現れない気がする。
「まあ…、守護獣は無理か」
「ですね。でも、守護獣って、いったいどんな生き物なんでしょうね」
見たことないからわからない。何となく想像したのは、白く輝く毛並みを持った、獅子のような獣。もちろん、人語を理解する。
そんな獣を従えて凛々しく立つミサキさま。
神々しく、神聖な存在に感じるけど……。
(あ、ダメダメ。彼女のせいでお嬢さまが窮地に立たされるんだもん)
ウットリなんてしていられないのよ。
「さて。そろそろ帰るか」
ルッカさまが立ち上がりかける。
「あ、はい」
あたしも立ち上がりかけ―――。
ボトッ。
「きゃああああっ!」
「どうしたっ?」
「イヤぁっ! なんか、頭にっ、やあっ! 痛っ!」
髪に引っかかったそれが、蠢く。
なになになになにっ!
毛虫っ? なにっ?
少なくとも毛虫よりはデカい。「キュルッ、キュルッ」と鳴き声もする。
なにこれ、ナニコレッ!
触ろうと頭に手を伸ばすけど、触るのは怖い。
「あっ!」
パニックになったあたしの手から、お嬢さまのメモ紙が舞い上がる。
「チッ!」
それに気づいたルッカさまが紙に向かって飛ぶけれど、その手は紙をかすめただけだった。
風に舞う紙。
ルッカさまが追いかけるけど。
チャプッ…。
まるで木の葉のように、メモ紙は池に舞い落ちた。
第十五話です。
公園デート……。
「きみの大陸の人口は何人!?」……でしたっけ。『アンジェリーク』。
そんなの、覚えてへんわいっ!! って言いたいけど、そうすると終了しちゃうんだよなあ。
前半は育成をお願いするけど、後半は家建てられすぎて困る(女王になっちゃう)から、妨害一辺倒だった気がする。今思うと、そんな妨害したくりのヤな女、よく守護聖さまは好きになってくれたもんだ。
ちなみに。だんごは一作目しかプレイしてません。二作目でヒロインが変わったせいで(名前はアンジェリークだけど)、浮気されてるような気になってプレイできませんでした。あんだけ私に愛を囁いてたのに!? 別の女を口説くの!? っていう気分になっちゃって…。『金色のコルダ』みたいな続編の作られ方ならよかったんだけどね。
これからもよろしくお願いします。




