第14話 休暇をいただきました。
「今日は学園に来なくてもいいよ。昨日、倒れたこともあるし、ゆっくりリュリとして休んで」
殿下の伝言を携えて、ルッカさまが、朝一番に屋敷を訪れた。
今日は体調不良ということで、学園をお休みできるように、殿下が手配してくださったらしい。
まあ、昨日、殿下のお部屋でお茶を飲んでブッ倒れたのは事実だし。ありがたく、素直に好意を受け入れる。
リュリとして過ごすのは、何日ぶりだろう。それも魔法で成長させていない、いつものあたしとして。
ムーンストーンのペンダントは、首にかけずに、ポケットにしまっておく。ドレスも、お嬢さまのお召しになるような絹製ではなく、木綿の質素な藍色のドレスだ。
「いつも通りのリュリだな」
着替えてお嬢さまの部屋を出ると、なぜかそこにルッカさまが立っていた。
「あの、ルッカさまは、学園にお戻りにならなくてよろしいのですか?」
伝言を持ってきただけだと思っていたのに。殿下の従者なのだから、そちらで仕事があるのではないのか。
「いや、今日は、お前が無茶しないか、見張るのが仕事だ。どうせお前のことだから、休めと言われても、素直に休まないだろうからな」
無茶って……。見張るって……。
ちょっと、あんまりじゃないですか?
まあ、休まないってことに関しては否定はしないけど。
「お嬢さまのお部屋を掃除したかったんですけど……」
「それは、休むことにならないだろう」
「じゃあ、繕い物をさせてください。先日から止まったままになっているものがあるんです」
「それも、休まないからダメだ」
靴磨き、洗濯、買い出し、料理の手伝い。全部ダメ。
リュリとして休めと言われても、やることがなければ、時間の潰しようがない。
うう。休むって、何をすればいいんですかぁ。やったことないから、わからないんですよぉ。
涙目になって訴える。
「お茶をする…、乗馬する…は無理そうだから。そうだな、部屋に籠ってゆっくり本でも読むか、気晴らしに街でも散策するか」
顎に手をやり、ルッカさまが思案する。それ、おそらくだけど、殿下の休日の過ごし方よね。
「あ、それなら、街で散策したいです」
部屋に籠ってジッとしているより、いくらかマシだと思う。
「そうだな、その方が気が晴れるか」
意外とアッサリとルッカさまが認めてくれた。
出かけると言っても、買い物じゃないし、お嬢さまのフリをしてじゃないから、特にやることもない。
ただ、意味もなく街を歩くだけ。
この季節、暑くもなく寒くもないからか、街には人が溢れている。
街角で音楽を演奏する人たち。威勢のいい物売りの声。お店でお茶と会話を楽しむ人たち。幸せそうな家族連れや、恋人たち。
そんな街の風景を眺めながら、ノンビリと歩いていく。
「迷子にならないようにな」
人ごみのなか、ルッカさまに手を握られた。
うわわわ。
一瞬赤くなりかけたけど、そのギュッとした乱暴なつかみ方に、おそらく他意はなくって、本気で迷子防止しか考えていないことに気づかされる。
(ホント、アウリウスさまといいルッカさまといい。完全にお子ちゃま扱いよね、あたし)
そりゃ、年下だし、チビだし。仕方ないとは思うけど、そこまで子ども扱いしなくてもとは思う。
ちょっとムッとしないわけではないけど、街のなかを歩いていくうちに、だんだんとそんなことは気にならなくなっていった。
だって。
(スゴい、楽しい……!)
街のショーウィンドウに飾られた色とりどりの品。鼻孔をくすぐるおいしそうな香り。聞きなれない音楽。人のざわめき。
それらすべてがキラキラして見えて、あたしは手をつかまれていることが気にならないぐらい、夢中になって眺めていた。
今まで街に出たことがないわけじゃないけど、それは買い物のおつかいとして出るだけで、こんな風に街を感じたことなんてなかった。
お店に並ぶドレスやレース、装飾品。あたしには手の届かない高価なものだって知ってるけど、それでも眺めるだけでウキウキしてくる。
(あ、これ、絶対お嬢さまに似合いそう)
そう思える品を見つけたときは、思わず口元が緩んじゃう。お嬢さまなら、どんな豪華な装飾品でもそれに見劣りすることなく、身に着けられるんだろうな。
(あ、あれ、何だろう)
ルッカさまに連れてこられた公園の入り口。食べ物を売っているようだけど、香りはない。けど、お客さんがたくさん集まっていた。
「なんだ、あれが食べたいのか?」
あたしの視線に気づいたルッカさまが問いかけた。
「え!? あ、いえ、あれはなんだろうなあって」
「ちょっと待ってろ」
ルッカさまに手を離される。
買いに行ってくれたみたいだけど。
(あ、申し訳ないことしちゃったかな)
興味を引かれただけで、そんな買ってほしいだなんて、大それたことを思ったわけじゃない。
「ほら、お前のぶんだ」
しばらくして戻ってきたルッカさまに、手のなかにあった一つを渡される。
手に持って間近にしても、あまり香りはしない。
(なんだろ、コレ)
ルッカさまがご自分のぶんを舐めていらしたので、同じようにペロッと舐めてみる。
(――――――っ!)
つっ、冷たいっ!
ナニコレ、雪を舐めたみたいっ!
「もしかして、初めてなのか?」
キュッと顔を縮めたあたしに、ルッカさまが問いかけた。声も出せずに、あたしはウンウンと頷く。
「そっか。それはアイスクリームというものだ」
あいすくりーむ。これが。
冷たくて、キュウッと身体が縮こまるほどなのに、それでいてほんのり甘い。
街を歩いて疲れを感じ始めた身体に、すごく気持ちいい。
お嬢さまから、とても美味しいのだと伺ってはいたけど。
「はやく食べないと溶けるからな。急げよ」
うわっ。それは困る。
そう思ってあわててかぶりつくけど、今度はギュウッと目をつむりたくなるぐらい冷たかった。
「はははっ。そんなにがっつくなって」
あ、からかってる。
笑うルッカさまに、ムッとしながらも、焦らず、溶けない程度に急いで食べる。
笑われたことは腹立つけど、それでも初めてのアイスクリームは、とてもおいしかった。
第十四話です。
……買い物デートからの、公園デート!?
いやいやいやいや。
でも、楽しそうです。初めてのそぞろ歩き、初めてのアイスクリーム。
侍女としてのリュリは、そういう楽しみ方をしたことなかっただろうからなあ。いつも、お嬢さま一番!!ってかんじだし。(だから、休めと言われても、具体的になにをすればいいのか、わかってない)
そういう子に、初めてを教えていくのって、ちょっとおもしろそうだな。新鮮な反応が見られそうで。役得だね、ルッカ。
これからもよろしくお願いします。




