第八話 ネコロンチーノ
「三太~! ごはんだよ」
それはお父さんが亡くなる一年前の出来事だった、ある日三太はお父さんに呼ばれた。お父さんは大阪の生まれだが、調理学校の時からずっと東京にいるので関東の言葉で喋る。
「今日は三太の誕生日だからな。特製の誕生日ご飯作ったからね」
嬉しそうに話すお父さんを見ると三太も嬉しくなって喉をゴロゴロと鳴らす。
「段ボール箱に捨てられていたのを拾ってきたから正確な歳はわからないけど、ニ十歳前半くらいかなあ。長生きしてくれてありがとうな。おめでとう」
最近は体の調子がいいのか、お父さんの声に張りがある、娘のあかりも就職して、肩の荷が少し下りたことも関係しているのかもしれない。毎年三太の誕生日にはちょっと豪華なご飯が用意されていたが、今年は新作を作っていたようだ。
ちなみに年齢に関しては三太も正確には把握していないが、おそらくお父さんの言う通りニ十歳前半くらいだと思っている。本来は二十歳の時に人間ならば成人式、猫の場合は成猫式とでもいうのであろうか、どっちにしても出席はしていないが。
「今日のご飯は栄養満点でええよう~」
お父さんのダジャレが出た。いつも人前では冗談なんて、ましてやダジャレなんて全く言わないのに、三太と二人きりの時だけはなぜかダジャレをいうお父さんであった。本当はそういうの言いたいけど、人に聞かれるのは恥ずかしいらしい。
「新メニューの開発中についでに思いついたんだけどね。猫も食べられるパスタなんて面白いかもと思って。まあ実際には市販でそうゆうのもあるらしいんだけど、僕のはひと味、いやふた味は違うからね」
猫の三太にぺらぺらと説明をしていくお父さん。この頃の三太はとっくに言葉を理解できるようになっているが、お父さんの前では喋らないというのがあかりとの約束なので、普通の猫のように首をかしげてお父さんを見上げている。
なんでもいいから早くくれないかにゃ、と思いつつも三太はじっと話を聞いているがまだ話は続く。
「まずは麺だ。一応猫も小麦粉を消化できるらしいけど、両が多いと消化できないので魚のすり身を少量の小麦粉と卵白でつないで麺にしたんだ。魚肉ソーセージとか蒲鉾に近いかな。それに馬肉のジャーキーを刻んだものを絡めたからね。ウマ過ぎて、ネコむなよ」
三太は思わず「だからそれはもういいから、はやく出して」と突っ込みそうになる。
「で、最後のとどめが鰹節。削りたてだからね」
そう言って鰹節をかけながら、やっと特製の誕生日ご飯を三太の目の前に置いた。
猫なので麺はすすれないから三太は鰹節ごとがぶりと麺にかぶりつく。
「わ! うまいにゃ!」
思わず三太から声が出る。
「えっつ? 今『うまいにゃ!』って言わなかった?」
驚くお父さんに三太はあわてて言い直す。
「う、うにゃ~」
「ああ空耳か。とうとう家の猫もネットの動画みたいに喋りだしたかと思ったよ」
お父さんは、ほっと胸を撫でおろす。
あぶなかったにゃ。三太は心の中で思いながら、食べ進めた。これはうまい、うま過ぎる。三太は声に出さないよう気を付けながら食べ進める。
バクバク食べる三太をお父さんは満足そうに見ている。
「これ、猫ちゃん専用にテイクアウトメニューにしようかな。名前はそうだなあ、にゃぽりたん、いやこれどっかで聞いたことあるな。全然赤くもないし、強いて言うなら見た目はペペロンチーノに近いかな?」
お父さんは腕組みをしながら、たくさんの名前を頭の中に思い浮かべる。
「にゃコロンチーノ、ペペロンにゃーの、違うな。ネコ……ネコ。あっ!」
何か思いついたように大きな声を出したお父さんを三太が思わず食事を一時中断して見上げる。
「ネコロンチーノ! そう、ネコロンチーノと名付けよう! どうだい? 三太!」
三太はご飯の方に顔を戻し、
「それはないにゃ」
と小さくつぶやき食事を続けた。結局お父さんのレストランでこのメニューが日の目を見ることはなかった。やはりダジャレを三太以外に聞かれるのが恥ずかしかったらしい。
この三年後ネコロンチーノは形を変えてお店に出ることになったが、このことを三太はあかりには内緒にしている。なんでもお父さんの名誉を守るためだとか。
続く




