艱難辛苦も振り払って
グラさんの身を盾に……いや全然間に合わない、停止させれば?いや駄目だもう刺さった後だ。
くっそどうにもならねえ、現実逃避に踊り出したいくらいよ。
血飛沫が飛び散る、見たくない現実に嫌でも引き戻される。
ツッコミ役で苦労の耐えない友人の、風穴の空いた胸に視線がすいこまれ……思考がドス黒くなる。
「……何……やってんだてめぇ!!」
「けむりん殿!」
「既に…!ですが欠損組織が多過ぎます…!」
「……どうだ、やりやすくなったかハリガネさんとやら、俺様が相手でも、最後には皆で友達になって仲良しこよしで大団円ってか?」
「そんなに簡単だと思うか?」
「さあ、どうするハリガネさん…まだやるんだろう暴食王…!!…すくんだ脚は奮い立っただろ?走れるなら、来いよ……!」
ああくそ、頭が割れる。
前もあったなこれ、記憶取り戻しかけた時?
頭のてっぺんから冷たい針が刺さって、心まで冷えてくる。
……根絶やしてやろうか、旧時代の遺物が。
「っ!!?」
「父…さん……?」
「はっはー!凄え殺気じゃねえか……お前の足元くらいにはいるかもなあいつ」
「誰かのための怒りなぞ……寝て冷めれば忘れるものですよ」
ごちゃごちゃ煩いな。
『汝……聞こえるか?』
聞こえてるよ、でも今は静かにしてて……グラさんにも悪態ついちゃいそうだからさ。
『汝……!』
黙っていろグラトニカ…私がやる。
『この……無礼者が…!』
ぐぼん!?……えぇ…?
「ぐ、グラさん…?そんな力いっぱいお腹叩いたら痛くない…の?」
『我は伴侶の跳ね返りであろうともある程度は許す、意見を許さぬ程の狭量ではない……だが…この暴食王グラトニカに黙れだと…?』
『誰に物を申しておる、愚か者が…!』
ぐほぅ…!い、いやあのグラさん…。
体力減るくらいの力でお腹叩いちゃダメ……ハリガネさん飛び出ちゃうから……強制離脱かましちゃうから……
『怒ってもよい、いじけてもよい、拗ねるところなど可愛げがある……だが、どんな場合であれ話くらいは聞け……』
『汝を停められるのは我だけであろう……無論、我を停めるのも……』
……うん、ごめんなさい魔王様。
『よい、落ち着いたのならば……戦え』
「……失敬、取り乱したね」
「……おいおい、さっきの方がまだ勝ち目あったぞ?正気で俺様に勝てると……本気で思ってんのか?」
「勝算ある戦いしかしないんじゃ魔王失格だろう?」
「ふふ…耳を貸さないように、ハリガネさん……怒りは身体を固くします……硬い体では踊れませんからね」
「ほら、身を委ねて……ゆっくり、脚を動かして……ささ、音楽」
どこ見て指さしてんの?
……え、何か音楽聴こえる、どっから!?何これどっから!?
「さあ……?」
「貴方がわからないのなら理解しようが無いんだけど…?」
「特別に教えて差し上げますよハリガネさん……貴方が今使おうとした力は…あまり良くない物です……この国において怒りと殺意はあまりにも強く、扱い難い……」
「踊りましょう……怒りなぞ忘れて……」
「目の前で友達の心臓ぶち抜かれて怒るなっての……?」
「はいそれが駄目です…よ」
「いったぁ!?」
えっ!?今引っぱたかれたよ普通に!?ていうか叩かれたのはグラさんの身体なのに私が痛かったよ!?
『うむ、我もだ……頬がヒリヒリする』
ええ…浸透する打撃ってやつ…?
「話を聞いていましたか、ハリガネさん…?」
「嘘だろ貴方に言われんのそれ…?」
「それに関しちゃ俺様も同情するわ」
「ルドラを張り倒したい、大いに結構です……でも怒っていてはそれは困難……不可能とも言えます…ね」
「……怒りに怒りで返してはいけないのですよ」
何だか、それを話すナタラジャさんはどこか寂しそうだった。
「……さあ、私と動きを合わせて……右、左……行きます…よ」
「っは、自分が戦えねえからって……そんな人形遊びが俺様に通じるか…!なめるなぁぁ!!」
すんげえ気迫……でも、不思議とリラックスしてる気がする……舞神の能力か?
「逝けや…『嵐呼ぶ号哭』!」
あの弓矢はやべぇ!?って……あれ?すり抜けた…?
「当たらないでしょう…?」
「踊りはいい……踊っていれば、全てが良い方向へ向かうのです」
「……もしかしてそれ真面目に言ってたの…?」
「私は…常に真面目です…よ?」
「……踊りはね、この国においては怒りと同じくらい特別な物なんです……皆がそれを忘れています……」
「踊りは……音に合わせて己を表現すると同時に魔を退けます……魔と言うのは何も悪しきものというわけではなく、自分にとっての障害を取り払うのです…よ」
「この世は…不都合だらけです……飢饉に、病…貧富の差や努力が無駄に終わること……他者の悪意によってどうしようもない結果を産むこともあります」
「悲しいじゃないですか……私は耐えられなかった…怒るしか無かったのです…よ」
「故に私は……あの大改革の時に後世に残したんです『降魔舞踏』を……闇を照らせる、怒りを払える…踊りの原形を」
「……あ、ハヌさんが使ってた技…また大改革か…」
「それは……終わった後に話しましょう…ね」
「あー……ブチ切れさせたままにしときゃあ、あの一撃で殺れたんだがな……クソが……このために国民の前まで出てきやがったな?」
……何かザワザワしてんな。
「……降魔舞踏って…?」
「ナタラジャ様のあの動きだろ……」
「まあでも確かに……実際あの凄え攻撃は当たらなかったし」
「いや僕らすら全然知らなかったんすけどね」
〔そんな便利な物なら何で失伝したんだぞ…?〕
「まさか……私の言葉がわかりにくかったんですか…ね?」
多分そうだろうよ。
……あそうか、これで今この国の全員が…踊りがどういうものか認知したんだ……
「……さあこれでまだ…勝負にはなりそうです…ね?」
「……腐っても神様だったんだねナタラジャさん」
「失敬…な」
「おいおいおいハリガネさんよ……ふざけてる余裕があんのか?友達が死んだばっかで…リラックスして踊れんのかよ」
「死なねえよ、今は後ろにうちのメイドと娘がいる…だから私は踊れる」
「やめろよそう言う不屈みたいなの……昔を思い出して上がっちまう」
「出し惜しみは無しだろ、決着付けようぜ」
額に目……踊りってあのやべぇレーザーも受け流せるのかな?
「ふふ……その場合この大地が消し炭になります…よ」
「……亀やん気合いで」
〔絶対に無理だぞ!?〕
どうしろってんだい!?喰らえば私消し炭、回避したらこの国消し炭、究極の二択だね!!
「撃たせない事が大切です…ね」
「神様はいつでも無茶を仰るねえ!」
「……ま、やるか」
「最速最短でぶち抜く、避けんなよルドラ」
「避けるだろ馬鹿か……聖人でも相手にしてるつもりか?」
「神ではあるだろ、神が人間の挑戦拒む訳にはいかねえんじゃねえか…?」
「……人間…か?」
「ごめんそれは私も流石に無理があるなと思った」
「……言いたいことは伝わるけどな…だからこそだ、認めてやるぞ虫ケラ魔王……俺様の全身全霊を持って破壊する、死体を礎に新世界を作ってやろうじゃねえか」
「ほざいてろ、ここからは既定路線の……お前ぶち抜いて、この国治して、皆で踊って大団円だ」
さ、行こうかグラさん。
『ああ…我が伴侶よ』
「『更に先へ』!」
今年もお世話になりましたー!!
引っ越したり色々あって何かと忙しい1年でしたわね!!
来年もよろしく!




