5話 ポーションがぶ飲み大会
翌朝、俺たちは宿屋を出る前に、受付にいた女主人に呼び止められた。
「昨夜はよく眠れたかい? それとも、眠る暇なんてなかったかい?」
「とってもよく眠れたわ! ツカサは全然眠れなかったみたいだけどね」
女主人のからかうような問いかけにハティは元気に答える。
「はぁ、お前のせいでもあるんだけどな」
思わずため息が出た。
ハティと向かい合って眠るという状況に耐えられなかった俺は、結局床で寝ることにした。
硬い床の上では寝付くことができず、眠れないまま朝を迎えたので寝不足だ。
自分の作ったシチュエーションに首を絞められるとは情けない。
「今日のポーションがぶ飲み大会で絶対に賞金百万デルを手に入れるわよ! そんな死にかけの顔なんかしてないで、シャキッとしなさい!」
「ああ、たとえ寝不足だろうと賞金は勝ち取るぞ!」
「あんたたちやる気があるのはいいことだけど、無理だけはしちゃいけないよ? 命あっての物種だからね」
そんな忠告するほど危険な大会なのか?
たかだかポーションを飲むだけなのにグラムも女主人も心配しすぎだ。
「大丈夫、俺、体の頑丈さには自信あるから!」
俺たちは意気揚々と大会の会場となっている広場へと向かった。
♢♢♢
広場には既にたくさんの人が集まっていた。
人々の視線の先には椅子と机がセットになったものが一列も並んでいる。
思ったよりも観客が多く、規模の大きな大会みたいだ。
俺たちは人ごみをかき分けて進み、出場者登録をしていたグラムを見つけた。
「よお、グラム! この大会って新人冒険者でけが出る大会かと思ってたけど、グラムも大会に出るんだな」
「ああ、俺たち先輩冒険者も、後輩たちにいいとこ見せなきゃいけないからな。それよりも……」
グラムは俺の耳元に顔を近づけ、手で自分の口元がハティから見えないようにした。
「昨夜はどうだったんだ? せっかくお膳立てしてやったんだ、俺としてもどうなったのか知りたいってもんだ」
「何にもできなかったよ、ただ寝顔を見たくらいだ」
「おいおい冗談だろ、せめて胸くらい触ったとか?」
「手も足も出なかったんだ、俺だってこんなこと初めてだよ。悔しくて夜も眠れなかった」
寝不足なのは硬い床のせいだけど、ここはかっこいい理由にしておこう。
ハティが寝ていなかったのなら、胸を触るくらいの紳士的なスキンシップに俺が臆することはなかっただろう。
寝顔は反則だ、ちょっかいを掛けようという気分も薄れてしまった。
「お前も苦労したみたいだな。だが、今日の大会ではお前に情けをかけることはできないぞ。俺も準優勝の賞金百万デルを狙ってるからな!」
「優勝は狙ってないのか? 準優勝で百万デルなら、優勝したらもっといっぱいお金がもらえるんだろ?」
「まぁ、どう……だろうな、優勝を狙うのもいいかも……な」
誰よりも高みに上り詰めたものこそが、優勝を勝ち取れるのだ。
賞金だって一番多いに決まってる。
グラムが優勝を目指さないなら、俺が勝ち取る!
「ねぇ、二人でこそこそ何話してるのよ。面白い話なら、私も混ぜて欲しいんだけど」
「大した話じゃないさ、大会頑張ろうなって話してただけだ。俺たちも登録しちまおうぜ」
俺たちも含め、登録者の人数は十数人ほど。
まずは全員参加で予選が行われて、その予選を勝ち抜いた五名による決勝戦が行われる。
他の席はもう埋まっており、俺たちが残っていた隣同士の席に腰を下ろしたことですべての出場者がそろった。
「ついに今年も! ポーションがぶ飲み大会の季節がやって来た! 勇敢なる冒険者諸君よ、まずは、怖気づかずに挑戦してくれたその心意気をたたえるぞぉ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
司会と思わしき男の冒険者の言葉に呼応して、観客たちも大きな歓声を上げた。
こんなに盛り上がる大会なのか!
「大会のためにポーションを提供してくれたのは、毎度おなじみ! 天才錬金術師のエコルルだぁ!」
司会に促されるように、一人の少女が選手一同の前に歩み出た。
水色の髪を後ろで二つ結びにした、まだあどけなさの抜けきらない可愛らしい少女。
エコルルは出場者を見回し、小さく息を吸った。
「私は錬金術師として、ポーションマスターを目指して日夜ポーションづくりを頑張っています! 今回用意した回復ポーションも、徹夜中に飲めば眠気を覚ましてくれる自信作ですよ! 皆さん、いっぱい味わっていってくださいね!」
エコルルはそう言うと、にっこり笑った。
可愛い! 純粋そうな可愛さが心に染み渡る!
しかも、眠気を吹き飛ばしてくれるポーションなんて、今の俺にぴったりだ。
「ツカサ、顔がニヤついてるわよ。もしかして、変態なうえにロリコンでもあるの!? 手の付けようがないわね!」
「安心してくれハティ。ちょっとエコルルの可愛らしさに、抱きしめたいな~と胸打たれただけだ。そして、俺は巨乳の女の子が好きだ。分かってもらえたか?」
「変態でロリコンなことを認めたわね」
ハティめ、そういう決めつけは良くないぞ。
「では、今からポーションを配る。 予選のルールはポーションをグラス三杯飲み切った選手から順に抜けていき、上位五人が決勝に進出できるぞ!」
俺の机にも、黄緑色の液体が注がれたグラスが置かれていく。
ポーションは普通のジュースとは違ってとろみがあるみたいだが、問題なく飲めるだろう。
すべての机の上にグラスが準備され、会場の緊張感が高まっているのがわかる。
「選手の皆、準備はいいな? 開始ぃぃぃぃぃぃ!!」
司会が声を張り上げて、予選の開始を宣言した。
俺はライバルたちがどんな動きをするのかチェックするためにすぐに周りに注意を向ける。
だが、誰もグラスに手を付けようとしない。
それどころか、怯えたように体をガタガタ揺らして震えてるやつもいる。
「早く飲まなきゃ決勝に進めないのに、なんで誰も飲もうとしないのかしらね。誰かが飲みだすのを待ってるみたいだわ」
ハティも選手間に漂う怪しい雰囲気に気づいたようだ。
俺がグラスを握ったまま飲めないでいると、ひょこひょことエコルルが歩み寄って来た。
「ポーションを飲むのは初めてですか? おいしいし、体にもいいんですよ。 こんな素晴らしいものを飲まない手はありません! さぁさぁ、飲んじゃってください!!」
押しが強い。
よっぽど自分の作ったポーションに自信があるみたいだ。
「俺の名前はツカサだ。エコルルが応援してくれたら飲める気がするんだけどな~」
「ツカサは応援が必要なんですね、分かりました!」
隣でハティが呆れた顔をしているが気にしないでおこう。
エコルルは俺のグラスを両手でつかみ、一気に俺の口元に押し付けた。
「うぐうぐうぐぐ!!」
言葉で応援して欲しかったのだが、物理的に応援されてしまった。
口の中にポーション流れてきて……んんんんんんんんんっ?!
「まっっっっっっっっず!!」
俺が噴き出したポーションがエコルルの顔面に直撃した。




