6話 ポーション娘は妄想力が高い
俺が噴き出したポーションがかかり、エコルルの顔は黄緑色で覆われている。
「わ、悪い……」
「こんなに粘っこくて濃ゆいものを顔にかけるなんてどういうつもりですか。まさか、このまま私の体中をヌメヌメにして特殊なプレイを楽しむつもりとか?!」
「誤解を生む言い方はやめてくれ!」
この子、妄想力が爆発してるぞ。
エコルルは司会からタオルを受け取って、きれいに顔を拭いた。
俺の口の中には、今なお異質な感覚が残っている。
「なんだよこのポーション、まずい上に、舌が雷に打たれたかと思ったぞ」
「眠気覚ましに効果があるかと思って、隠し味に雷魔法を仕込んでおきました。これでどんな眠気も一発で吹き飛びますよ」
「眠気どころか命が吹き飛んじまうよ! 俺たちを殺す気か!?」
がぶ飲みとかいう次元じゃない。
一口飲むだけでも体が拒絶したのに、こんなものを三杯も飲み切れるだろうか。
「どうやら私たちは、とんでもない大会に参加しちゃったみたいね」
俺の様子を見守っていたハティが怯えた目でこちらを見ていた。
「気を付けろよ、ハティ。一口で稲妻に打たれたような衝撃だ」
「さっきまでのツカサの様子を見てれば十分に分かるわよ」
そう言うと、ハティはグラスを口元に運び、ポーションを飲んだ……ふりをした。
直後、ガタンッと音を立ててハティが椅子から転げ落ちる。
「おぉっとぉ! ここで早くも選手が一名倒れた! 最初のリタイアはハティ選手だ!!」
「ハティ、しっかりしろ! 大丈夫か?!」
慌てて倒れているハティの元に近づくと、目をつぶったままハティが小さく口を動かした。
「百万デルよろしく」
こいつ、人に任せて逃げやがった。
ハティは司会によって集められた係員に搬送されていった。
俺はあれほど安堵の表情を浮かべて搬送されるやつを見たことがない。
「またもや選手が脱落! これで二人目だ! ポーションに負けないように、選手たちは気合い入れろぉ!」
司会が新たな脱落者が出たことを告げる。
ハティに続いて、さらにもう一人脱落者が出たようだ。
ポーションに臆したのか、それとも果敢挑んだ末に散ったのか、どちらなのだろうか。
「このままじゃ俺も脱落するのは時間の問題だな。どうすれば勝ち残れるんだ。どうすれば……」
何をすれば生き残れるのか、集中して考え続けていた俺の思考は司会の言葉によって遮られた。
「今席に座っている五名が、決勝に進出だー! 決勝戦まで、各選手は体を休めておいてくれ!」
「えっ?」
気が付くと、周りには誰も座ってない席ばかりがある。
俺が考え込んでいる間に俺を含めた五人以外は皆リタイアしたようだ。
誰一人として、一杯も飲み切っていないまま予選が終わった。
――少しの待機時間の後、一列に並んだ五つの席に決勝に進出した選手達が座った。
俺の右隣にはグラムが、左隣にはファングが座っている。
ファングは俺と同期といってもいいような新人の冒険者なので、なんとなく親近感が湧いていた。
「ファングもここまで残ってたのか」
「ああ、俺自身も驚いたな。ポーションを一口飲んでふと気が付いたら、決勝に進んでいたんだ」
可哀想に、一口で意識を絶たれたのか。
ファングは今すぐに倒れてもおかしくないほど顔色が悪い。
敵にはならないな。
俺はグラムの方に顔を向ける。
「この大会おかしくないか!? 回復ポーションだなんて名ばかりの劇薬が出てきてるぞ」
「お前の言うとおりだ、エコルルの作るポーションはまともに運用できるものじゃあない。拷問のために買う者いると噂されるくらいの代物だ」
「そこいらの拷問道具よりも効くだろうな」
あんなものを飲まされるくらいなら、隠し事を洗いざらい白状する方がまだましだ。
「さぁ、待たせたな選手諸君。今から決勝戦を行う! ルールは単純、一番飲んだ奴が優勝だぁ!」
俺たちの前にはたくさんのグラスが置かれていく。
決勝はどれだけ生き残れるのかという甘い考えじゃダメみたいだな。
命がけで攻めなきゃ優勝は勝ち取れない。
「決勝戦、開始ぃぃぃぃぃぃ!」
司会の合図によって決勝戦が始まったが、予選と同様に誰もポーションを飲もうとしない。
全員が他の選手がどのくらい飲んだかを見てから動くつもりなのだろう。
俺としても、準優勝さえできれば最低限の狙いは達成できるので、とりあえずは様子見だ。
膠着状態が続く中、ファングが口を開いた。
「聞いてくれツカサ。俺、この大会が終わったら、女の子の冒険者をパーティーに誘ってみようと思う。秘境を巡ったり、モンスターと戦ったり、ダンジョンに潜ったり。辛いこともあるかもしれないけど、きっと楽しいだろうなぁ」
「その考え自体はいいけど、このタイミングで言うのはまずいんじゃないか!?」
「俺は飲むぞ! うぉぉぉぉぉぉぉーーーあばばばばばばばば」
ファングは立てたフラグをきっちり回収して倒れた。
俺はファングの飲んだ量を確認し、これなら越せると踏んだ。
後は残りの三人の量次第だ。
「なぁグラム、そういえば優勝したときはいくら賞金がもらえるんだ?」
「実はだな、優勝したときに手に入るのは賞金じゃない。それは――」
「私から優勝者への特別なプレゼントですよ」
グラムの言葉をエコルルが引き継いだ。
……特別なプレゼント?
「そのプレゼントってのは期待してもいいものなのかな」
「ツカサの胸いっぱいに詰まった希望にきっと応えられると思います」
「なるほど、そうかそうか。それを聞いて心が一気に燃え上がってきたぜ!」
下心が。




