4話 部屋は一つしかない
俺は屈強な冒険者に人通りの少ないギルドの裏へ連れて行かれた。
ハティはもちろんついてきていない。
俺と向き合っている冒険者がぎろりと俺をにらんだ。
新人である俺に対して、先輩冒険者による洗礼を行おうとでもいうのだろうか?
「わざわざついてきてもらって悪いな、新人。確かツカサと呼ばれていたな? 俺はグラムだ。お前にどうしても言っておかなくちゃいけないことがある」
「俺、お金なんてまったくもってないぞ! 信じてくれないなら証明するよ!」
俺は何度も繰り返しジャンプして、衣服から硬貨の音がしないことを示した。
「何もカツアゲしようってわけじゃねぇさ。可愛い後輩にしょうもないいびりをするつもりはない」
「あれ、違うのか。じゃあなんで俺をこんなところに連れてきたんだ?」
「それはだな、えーっと、あー、その……な……」
威圧感を放っていたグラムが急に縮こまってしまった。
「言いづらいことなのか? もしかして、本当に愛の告白で俺に一目ぼれしたとか?! 俺は可愛い女の子しか募集してないぞ。巨乳であればなおよし」
「違うに決まってるだろ! 俺が言いたいのはもっと重要なことなんだ。場合によっては死ぬかもしれないほどの」
おい、すごく不穏な言葉が混じってるぞ。
……気になるな。
グラムはしばらく悩んでいるそぶりを見せていたが、覚悟を決めたようにすっきりとした顔で俺を見た。
「お前には明日この街で開かれるポーションがぶ飲み大会に参加してもらいたい」
♢♢♢
「ポーションがぶ飲み大会? それに出てくれないかって言われたわけ?」
ハティは昨日この街に来たと言っていたので、大会についてはまだ知らなかったようだ。
「ああ、グラムが言うには準優勝すると賞金百万デルがもらえるらしい。一攫千金のチャンスなんだ」
「百万デルですって!? それだけあれば当分の生活は安心ね」
この世界のお金の単位『デル』は一デルが一円ほどの価値である。
ポーションがぶ飲み大会は俺たちが今いる街、マッシュで年に一回開かれる恒例行事らしい。
参加者の多くは新人の冒険者であり、冒険者としての根性を試す大会とも言われているとグラムから聞いた。
「俺一人で参加するよりも、二人で参加した方が賞金をゲットしやすいからハティも参加してくれよ」
「任せときなさい、私がいれば百人力よ! ポーションなんて甘いジュースみたいなもの、ゴクゴクいけるわ!」
ポーションは俺のイメージ通り、液状の飲み物みたいだな。
ジュースと同じようなものなら、今までポーションを飲んだことがない俺でもいい勝負ができるかもしれない。
「引っかかるのは、グラムが死ぬかもって言ってたことなんだよな。使われるポーションは回復ポーションのはずだけど」
「気にしなくていいわよ、人を回復させるはずのポーションで人が死ぬなんてありえないでしょ。私たちは、明日に備えるためにも、今日宿屋に泊まるためのお金を手に入れましょうよ」
「グラムが優しくってさ、金がないって言ったら、俺とハティのために今日の分の宿屋を手配してくれたんだ」
グラムは見た目のいかつさに反して、気前のいい頼れる先輩冒険者だ。
感謝しなくちゃな。
陽が落ちてから、俺たちはグラムの教えてくれた宿屋へと向かった。
♢♢♢
宿屋へと着いた俺たちは、元気な女主人に迎えられた。
「いらっしゃい、あんたたちがグラムの言ってた新人冒険者たちだね。若いってのはいいもんだ、明日に向けてゆっくり休んでくといいよ。まぁ、休むかどうかはあんたたち次第だけどね」
そう言って、女主人は一室分の部屋の鍵をくれた。
この宿屋には一室につき、一つしかベッドがない。
「あれ、鍵が一つしかないんだけど。私たちは二人いるから、二つ必要よ」
「おかしいね、グラムからはあの二人には一部屋だけでいいって言われたんだけどね」
「同じ部屋で寝るしかないってことか、これは仕方ないよな、うん、仕方ない」
ありがとうグラム!
どれだけ感謝しても、足りないくらいだ!
「冗談でしょ! こんな変態と同じ部屋で一夜過ごすとかありえないわよ! モンスターの群れの中心で寝た方がまだましなくらい!」
「おいおい、それは言いすぎだろ。不可抗力なんだ、俺にどうにかできるもんじゃない。グラムってば困ったことしやがるぜ」
嘘である。
これは俺とグラムとの間で交わされた密約による必然の結果!
俺とハティが大会に出る代わりに、グラムが一部屋分だけ手配する。
無茶苦茶な理由で異世界に来たんだ、少しくらいいい思いをしてもいいだろ。
決して、やましい気持ちがあるわけじゃない。いや、正直ある。
「受付でいがみ合ってても仕方ないだろ、話の続きは部屋でしよう」
「言っておくけど、私に手を出そうものなら宿屋ごと破壊するつもりで魔法を打つからね」
「俺はその程度じゃ死なないぞ、筋トレに励んだ日々が今の俺を支えてくれる」
「借金まで耐えられるかしらねぇ」
こいつ、社会的に殺すつもりか!
俺たちは部屋へと向かった。
ハティは部屋の扉を開けると、すぐさまベッドに飛び込んだ。
「おいハティ、ベッド全部は占領するなよ。俺だってベッドで寝たいんだから」
「……」
返事がない。
ハティの体に一切の動きもない。
もう寝たのか? そんなわけないよな、早すぎるだろ。
「可能性があるとしたら……」
まさか誘われているのだろうか。
受付ではなんだかんだ文句を言っていたが、実際はまんざらでもなかったとか?
……そうじゃなかった時が怖いので、期待をするのはやめておこう。
「俺もベッドで寝るからな。ちゃんと宣言したぞ」
俺はハティが横を向いて寝ているベッドの余りのスペースに体を滑り込ませた。
ハティとは向かい合わせに眠る形になる。
顔が見えたことでわかった、こいつ寝てやがる。
今日一日色々あって疲れがたまっていたのだろう。
「はぁ、俺も寝るか」
気持ちよさそうに眠っているハティを見ると、こちらまで眠たくなってきた。
目をつぶって、睡魔に身を任せる。
意識が遠のいて……
「んっ……」
「!?」
ハティが小さく声を漏らしたので目を開けると、ほんの数センチ先にハティの顔があった。
寝転がりを打とうとしたのだろう。
近くで見ると、やっぱりかわいいのだと再認識するな。
「……」
くそぅ、なんだよこのシチュエーション! 眠れねぇ!




