3話 冒険者ギルドへ行こう
「なぁなぁ見てくれよハティ、服装を変えただけで一気に冒険者っぽくなったぞ!」
「はいはい、よかったわね。ツカサの装備を買ったせいで私のお金はもうゼロ。パン一つ買えやしないわ」
「あー、それはまずいな」
さすがにそろそろ服を着ないとまずいだろうということで近くにあった店に入り、冒険者としての装備を整えた。
といっても、ハティの持っていたお金では安物の布の装備一式とマントを買うくらいで精いっぱいだった。
再びギルドに向かって歩き出し、大きな広場に差し掛かったところでハティが足を止めた。
「ねぇ、あの子一体何してるのかしらね」
「どれどれ?」
「あれよ、あの看板持って話しかけて回ってる子よ」
ハティの指さす先、広場の中心に目をやる。
そこには看板を持った少女がおり、道を歩く人々の中でも特に冒険者の風貌をした人に声を掛けている。
しかし、誰も彼も少女に対して首を横に振って、すぐさま去っていく。
「怪しい宗教の勧誘でもしてるのかしらね?」
「いや、そうじゃないみたいだぞ。看板に『パーティーメンバー募集中』って書いてある」
パーティーメンバーっていうのは、普通は冒険者が集まるギルドとかでやるもんじゃないのか?
それとも、あの少女が積極的なだけなのかもしれない。
どちらにせよ、今の俺たちには関係のないことだ。
「ほっといてさっさとギルドに行っちまおうぜ。俺、どんな職業になれるかけっこう楽しみなんだよな」
「あっ! あの子、こっちに気づいたわよ」
ハティの言うとおり、少女は立ち止まっていた俺たちに顔を向けていた。
少女はいそいそと看板に何か書き足したかと思うと、俺たちに看板を向けてきた。
看板には『そこのお二人さん、パーティーメンバーいりませんか?』と書かれている。
「完全に俺たちのことだな。 無視していくぞハティ、今は面倒ごとに巻き込まれる余裕なんてない」
「そうね。あの子には悪いけど、まずはギルドに行くのが最優先だわ」
俺たちが歩き出すと、少女は肩を落として俯いていた。
そんなに落ち込まれると申し訳なくなるけど、仕方がないことだ。
♢♢♢
遂に俺たちは冒険者ギルドにたどり着いた。
ドアを開けて中に入ると、ギルドには何人もの冒険者たちがいた。
俺のように身軽な服装の者もいれば、固そうな鎧を着こんだ者、ローブを着て杖を持った者もいる。
各々が自らの職業に合った装備をしているのだろう。
「おっ新入りか、せいぜい死なねぇように気を付けろよ。もし困ったことがあったら遠慮なくこのファング先輩を頼りな」
「ああ! 俺はツカサだ、よろしく!」
鎧を着こんだ少年に声を掛けられた。
まだ俺と同じくらいの歳だろうに、冒険者としての貫禄が出ている。
くぅぅ~、渋い!かっこいい!
「あんたも昨日冒険者になったばっかじゃないの。何調子乗ってんのよ」
「おいハティ、先輩冒険者にいちゃもん付けるのは良くないぞ。こんなに貫禄が出てるんだ、きっと幼いころから数々の苦難を乗り越えてきたに違いない」
「私、昨日この街に着いて、冒険者登録したの。そしたら、隣でこいつも冒険者登録してたのよ」
「そんなわけない! なぁ、ファングの口からもハティが言ってることはデタラメだって言ってくれよ!」
「……」
沈黙。
ファングは気まずそうな様子で、俺と目を合わせようともしない。
「お、おい、嘘だろ?」
「……ごめん」
「そんなぁ!!」
裏切られた!
かっこいい先輩冒険者だな、頼りになるなって思ってたのに!
ファングは無言で天を仰ぎ、俺は膝をついて呆然とした。
「あんたたちのアホみたいなやりとりを見せられるこっちの身にもなって欲しいもんよ」
俺たちの恥ずかしさにお構いなく、ハティは俺を受付へと連れて行った。
「冒険者登録をしてもらいたいんだけどいいかしら?」
「こんにちはハティさん! ハティさんは既に登録されているので、今回はそちらの方の登録ですね」
受付嬢が俺の方に微笑みかけてくる。
ギルドの看板ともいえる受付を任されているだけあって美人だな。
俺は書類を渡され、そこに名前などの簡単な情報を記入していった。
「はい、書類のほうはこれで大丈夫です。次はこちらの水晶に手をかざしていただけますか? これで冒険者として適性のある職業が冒険者カードに書き出されます」
「何に適性があるのかな~。戦士かな、魔法使いかな、俺防御力高いみたいだからパラディンとかもありだな」
「パラディンは上級職だから、ツカサみたいなやつに適性があるわけないでしょ」
「言ったな? 俺の適正にびっくりさせてやるぞ!」
俺は勢いよく水晶に手をかざす。
水晶は強い光を放ち、その光は俺の冒険者カードへと伸びていく。
光が消えたころ、俺の冒険者カードの職業欄には文字が記されていた。
「なになに、旅人って書いてあるな」
「あっ……」
「あっ……」
ハティも受付嬢も小さく声を上げた後、顔を曇らせた。
まずいことでもあったのだろうか。
「ツカサさん、どんな職業にもきっと輝く方法はあるはずです。諦めずに頑張っていきましょう」
「どんまい、切り替えも大切よ」
「そんなにやばい職業なのか?!」
ハティは俺の肩に手を置いてうんうんとうなずいている。
こいつが俺を励ますだなんて……。
「旅人はどのステータスもバランス良く育つのですが、ステータス自体が低いです。さらに、経験を積めば普通の職業なら戦い方に合うスキルを身に付けることができますが、旅人はどんなスキルが身に付くか、完全にランダムなんです」
「ランダムってことはいいものが身に付く可能性もあるだろ?」
「歯磨きが上手くなるスキルとか、口笛が上手くなるスキルの前例があるわね」
「ぱっとしないなぁ」
期待が大きかった分だけ、ショックも大きい。
もし役に立たないスキルしか手に入らなかったら、俺はモンスターたちとどう戦えばいいんだ。
「冒険者登録は終わったのか? 新人」
俺の背後には恵まれた体格の屈強そうな男の冒険者が立っていた。
とげのついた肩パッドを装備していて、いかにも強そうだ。
「今職業適性を調べ終わったところだよ」
「そうか、じゃあ登録はほとんど終わったようなもんだな。ちょっと裏までついて来い」
「えーっと、俺いかついおっさんからの告白は受け付けてないんだけど……」
「ちんたら言ってないで、いいから来い!!」
新人に対してカツアゲするつもりなのか?!
こんなに堂々と絡まれるとか、冒険者ギルドって荒くれもののたまり場かよ!
「助けてくれハティ! このままじゃ俺、世紀末感溢れるおっさんにボコボコにされちまう!」
「ハティ? ダレソレワタシシラナイ。ワタシナニモミテナイ」
ハティは明後日の方向を向いて、壊れたロボットのようにぎこちない返事をした。
「こいつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」




