第九話「二杯目のお茶」
「茶神様」
エルフがカップを両手で持ったまま尋ねた。
「この茶葉は、もう使えないのでしょうか?」
「ん? どうして?」
「一度お湯を注いだのでしょう?」
「いや、まだ使えるよ」
俺は急須の中を覗いた。
「もう一杯淹れてみようか」
「同じ茶葉で、ですか?」
「そうだよ」
俺は再び湯を注いだ。
「茶葉鑑定……」
「湯温調整……」
「抽出時間操作……」
二杯目のお茶ができた。
「はい」
エルフは少し戸惑いながらカップを受け取った。
一口飲む。
「……あ」
「どう?」
「先ほどより、ずっと優しい味がします」
「だろ?」
「同じ茶葉なのに……」
「一杯目で出てくるものと、二杯目で出てくるものは違うんだよ」
エルフはカップを見つめた。
「お茶には、まだこんな楽しみ方があったのですね」
「まあ、好みもあるけどな」
その様子を見ていた門番が口を開いた。
「おい。さっきから気になっていたんだが」
「何ですか?」
「その飲み物は、そんなに手間をかけるものなのか?」
「まあ、そうですね」
「薬でも作っているのかと思ったぞ」
「いや、ただのお茶ですよ」
門番は首をかしげた。
「ただの飲み物に、そんなに手間をかけるのか……」
「そういうもんです」
俺は残った茶葉を片付けようとした。
そのとき。
コツン。
卵が鳴った。
「またか」
コツン、コツン。
今度は、さっきより少し強い。
エルフが卵に近づいた。
「茶神様……」
「どうした?」
「この子、二杯目を淹れたときから反応しています」
「そうなのか?」
俺は卵を見た。
「……お前、二杯目の方が好きなのか?」
コツン。
「はは。好みがあるんだな」
エルフは笑わなかった。
「茶神様」
「ん?」
「この卵は、まだ生まれてもいないのですよね」
「そうだな」
「それなのに、お茶の違いが分かるのでしょうか……」
俺は少し考えた。
「さあ。でも、飲み物の好みなんて、生まれてから変わるもんだろ」
「……そういうものでしょうか」
そのとき、卵がもう一度鳴った。
コツン。
今度は、まるで返事をするように。




