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第十話「お茶の正体」

「エルフ」


「はい?」


「お茶について、もう少し教えてくれないか」


エルフは少し驚いた顔をした。


「私が、茶神様にですか?」


「そう。俺はこの世界のことを何も知らないからな」


「……分かりました」


エルフは荷車のそばに腰を下ろした。


「まず、お茶は植物です。茶樹という木の葉から作ります」


「うん。それは知ってる」


「ですが、茶樹はどこにでも育つわけではありません」


「土地が合わない?」


「はい。茶樹は水脈の影響を強く受けます。魔力の流れが乱れた土地では育たず、水の性質が変われば枯れてしまうこともあります」


「なるほどな」


「私たちエルフは、わずかに残された茶樹を守っています。収穫できる量も限られています」


「だから珍しいのか」


「はい。人間の街では、茶葉を見たことがある者すらほとんどいないでしょう」


俺は茶葉の袋を見た。


「そんなに貴重なものだったんだな……」


「ですが、茶葉があればおいしいお茶ができる、というわけでもありません」


「どういうこと?」


「水、温度、時間。それぞれが大切なのです」


「水も?」


「もちろんです。同じ茶葉でも、水が違えば味は変わります」


俺は少し考えた。


今まで、茶葉を選んで、お湯を沸かして、適当に時間を見て淹れていた。


それで十分だと思っていた。


「……そうか。水も関係するのか」


「はい。茶葉の量や、お湯の温度、抽出する時間。それらを変えるだけでも味は変わります」


「面白いな」


「茶神様?」


「いや、考えてみれば当たり前のことなのかもしれないけど、ちゃんと考えたことがなかった」


俺は自分のステータスを開いた。


茶葉鑑定 Lv.1

湯温調整 Lv.1

抽出時間操作 Lv.1

固有スキル:一服の奇跡


「なあ、エルフ」


「はい」


「お茶って、何か特別な力があるのか?」


エルフは首を横に振った。


「お茶そのものが、誰かを操ったり、傷を治したりするわけではありません」


「じゃあ、古竜はどうしてあんな反応をしたんだ?」


「あの古竜は、長い年月の中で乱れた自らの力を、一時的に鎮められたのではないでしょうか」


「内側の炎が止まった、って言ってたな」


「はい。お茶は、乱れたものを本来の状態に近づける。私たちには、そう伝わっています」


「本来の状態に……」


俺は自分のカップを見つめた。


ただ飲むだけのものだと思っていた。


でも、茶葉も水も、温度も時間も、全部が関係している。


お茶って、思っていたより奥が深いのかもしれない。


そのときだった。


ピコン。


目の前に文字が浮かんだ。


<ステータス更新>


茶葉鑑定 Lv.1 → Lv.2

湯温調整 Lv.1 → Lv.2

抽出時間操作 Lv.1 → Lv.2


固有スキル:一服の奇跡 Lv.1


「……お?」


「どうなさいました?」


「スキルのレベルが上がった」


「えっ!?」


「お茶の話をしていただけなんだけどな」


エルフは目を見開いた。


「お茶について理解を深めることで、スキルが成長したのでしょうか……」


「そういうことなのか?」


俺はステータスをもう一度確認した。


確かに、三つのスキルが成長している。


「でも、こいつだけは変わってないな」


俺は固有スキルを指差した。


一服の奇跡 Lv.1。


「それは……」


エルフは少し考えた。


「まだ、茶神様ご自身も、その力を理解されていないのかもしれませんね」


「なるほどな」


俺はステータスを閉じた。


「まあ、俺にできるのはお茶を淹れることくらいだしな」


エルフは静かにうなずいた。


「……それが一番難しいのかもしれませんね」


そのとき、門番が叫んだ。


「おい! いい加減にしてくれ! いつまで門の前にいるつもりだ!」


「あ、すみません!」


俺たちは荷車を動かし始めた。


今度こそ、街に入れるだろうか。


……たぶん。

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