↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/21

第四話「古竜からの贈り物」

「……飲む?」


俺が急須を差し出すと、古竜は巨大な首をゆっくりと下げた。


「頼む」


「いや、頼むって言われてもな……。カップ、これしかないぞ」


俺は手のひらに乗るほどの小さなカップを見せた。


古竜はしばらくそれを眺めていたが、やがて前足の爪先を器のように丸めた。


「ここに注いでくれ」


「……爪で?」


「問題ない」


問題しかない気がする。


俺は恐る恐る、古竜の爪の中にお茶を注いだ。


黄金色の液体が、巨大な爪のくぼみに広がる。


古竜は鼻先を近づけた。


そして、一口。


ごくり。


沈黙。


「……どうだ?」


古竜は目を閉じたまま動かない。


エルフが剣を握り直す。


「茶神様、何か異変が……」


そのときだった。


ぽたり。


古竜の目から、一滴の水が落ちた。


「え?」


ぽたり、ぽたり。


次々と涙がこぼれ落ちる。


「お、おい! どうした!?」


古竜は震える声で言った。


「……止まった」


「何が?」


「炎が」


俺は首をかしげた。


古竜は胸元に前足を当てる。


「我は生まれてから数千年、一度も炎を止めたことがない」


「へえ……」


「眠るときも、食事をするときも、怒るときも。腹の底で炎が燃え続けていた」


「それは大変だな」


「だが今……初めて静かになった」


古竜は、もう一度爪の中のお茶を見つめた。


「もう一杯」


「お、おう」


俺が急須を傾けた。


その瞬間、古竜の身体がびくりと震えた。


「……そうか」


「ん? どうした?」


古竜はゆっくりと顔を上げた。


「礼をせねばならぬな」


「礼?」


「ああ。お前には、我が最も大切にしてきたものを授けよう」


そう言うと、古竜は身体を横たえた。


巨大な翼が広がり、その下から何かを押し出す。


ゴトン。


地面が揺れた。


そこにあったのは、俺の頭ほどもある卵だった。


黒とも緑ともつかない、不思議な色の殻。

表面には金色の模様が走っている。


「……卵?」


「ああ」


「これ、何の卵だ?」


古竜は少しだけ胸を張った。


「我の卵だ」


「えっ」


「我が子である」


「ええっ!?」


エルフが口元を押さえた。


「まさか……古竜の卵……!」


「そんなに珍しいのか?」


「珍しいどころではありません! 古竜は何百年、何千年に一度しか卵を産まないと言われています!」


俺は卵を見た。


そして古竜を見た。


「いや、そんな大事なものをもらっていいのか?」


古竜は静かにうなずいた。


「構わぬ」


「でも、子どもなんだろ?」


「この卵は、もう長いこと孵っておらぬ」


「長いこと?」


「我が炎で温め続けてきた。だが、何をしても殻に変化はなかった」


古竜は少し寂しそうに卵を見つめた。


「お前の茶を飲んだ今、我は初めて気づいた。もしかすると、温め続けることだけが正解ではなかったのかもしれぬ」


……なるほど。


よく分からないが、そういうこともあるのか。


「それで、俺に?」


「お前ならば、この子に何かを与えられるかもしれぬ」


「何かって?」


「それは我にも分からぬ」


……分からないのか。


「まあ、預かるだけなら」


俺は卵を抱えた。


ずしり。


「お、おもっ……!」


「頼んだぞ、茶神よ」


古竜は深々と頭を下げた。


エルフが俺の顔を覗き込む。


「茶神様、本当にお受けになるのですか?」


「だって、もう抱えちゃったし」


「そ、そういう問題では……」


俺は卵を抱え直した。


「ところで、これどうやって運ぶんだ……」


そのとき。


コツン。


「ん?」


コツン、コツン。


卵の中から音がした。


俺は卵を見つめる。


エルフが息を呑んだ。


古竜も目を見開いている。


「そんな、まさか……」


「おい、何なんだ?」


古竜はしばらく卵を見つめていた。


そして、ぽつりと言った。


「……我にも分からぬ」


いや、親だろ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。