第二話「エルフと、初めてのお茶」
「茶神様……どうか、お顔をお上げください」
俺の目の前で跪く銀髪の女性。
いや、顔を上げるのは俺の方ではないだろうか。
「ええと、とりあえず立ってくれないか?」
「はっ!」
女性は勢いよく立ち上がった。
「私はエルフです」
「……エルフ?」
「はい。エルフです」
なるほど。
長い耳に銀色の髪。いかにもファンタジーの住人という感じだ。
「俺は茶神だそうだ」
「そうだ、とは?」
「俺にもよく分からん」
エルフは少し困った顔をした。
「茶神様がご自身のことをご存じないとは……」
「いや、そもそも茶神って何なんだ?」
「お茶を司る神様です」
「それは分かる」
「では、何が分からないのですか?」
「俺が神様だということだ」
エルフは黙った。
しばらくして、小さく息を吐いた。
「……なるほど。謙虚な神様なのですね」
どうやら話が通じていない。
そのとき、俺の腹が鳴った。
「ところで、何か食べるものはないか?」
「失礼いたしました! すぐにご用意いたします」
エルフは背負っていた袋から、干し肉とパンを取り出した。
「ありがとうございます。ところで、お湯はありますか?」
「お湯、ですか?」
「そう。熱い水だ」
「水を熱するのですか?」
「まあ、そうだな」
エルフは不思議そうに首を傾げた。
俺はそこで、ようやく気づいた。
この世界では、お茶を飲む習慣がないのかもしれない。
「茶葉はあるか?」
その言葉を聞いた瞬間、エルフの表情が変わった。
「……茶葉?」
「そう。植物の葉っぱを乾燥させたものだ」
「まさか……茶を淹れるおつもりですか?」
「そのつもりだけど」
エルフは震える手で、胸元の小さな革袋を取り出した。
「これを……お使いください」
袋の中には、緑色の乾燥した葉が入っていた。
「これは?」
「私の一族に伝わるものです。幼い頃、祖母から教わりました。遠い昔、エルフの祖先が飲んでいたものだと」
なるほど。
どうやら、この世界にもお茶は存在していたらしい。
俺は葉を少し手に取り、香りを確かめた。
「……悪くない」
湯を沸かし、葉を入れる。
数分後。
木製のカップに、薄緑色の液体が満たされた。
「できた」
俺は一口飲んだ。
「うん。お茶だ」
その瞬間だった。
空気が震えた。
草原の風が止まり、空に浮かぶ雲が一瞬だけ静止する。
エルフは目を見開いた。
「こ、この香り……!」
つづく。




