第一話「お茶を淹れたら神になった」
「……お茶が飲みたい」
それが最後の言葉だった。
目を覚ますと、そこは見知らぬ草原。
目の前に半透明の文字が浮かんでいた。
NEW SKILL
《茶神の祝福 Lv.1》
「なんだ、これ……?」
その瞬間、世界中の茶葉が震えた。
いや、正確には震えたどころではない。
王都の茶商が保管していた最高級のダージリンが、一斉に瓶から飛び出した。
エルフの森では、樹齢千年の古木が根を揺らし、ドワーフの鉱山では、岩壁の隙間から見たこともない茶色の植物が芽吹いた。
そして魔王城。
「な、何事だ!」
魔王ゼルガディスは玉座から立ち上がった。
側近の黒騎士が震える声で答える。
「魔王様……世界の魔力が、一点に集中しております」
「どこだ!」
「東の草原です」
「勇者か?」
「いえ……」
黒騎士は一度言葉を詰まらせた。
「……お茶です」
「は?」
一方、その頃。
俺は草原で途方に暮れていた。
「いや、待て。状況を整理しよう」
目の前には半透明のステータス画面。
STATUS
称号:茶神(仮)
レベル:1
スキル
- 茶葉鑑定 Lv.1
- 湯温調整 Lv.1
- 抽出時間操作 Lv.1
固有能力:一服の奇跡
一杯のお茶に、世界を変える可能性を宿す。
「……弱そうだな」
そのとき、背後から声がした。
「そこの者!」
振り返ると、金色の鎧を身にまとった女性が立っていた。
長い銀髪。整った顔立ち。腰には立派な剣。
どう見ても騎士だ。
「貴様が、この異常な魔力の発生源か!」
「え? いや、俺はただ……」
腹が鳴った。
そういえば、転生してから何も食べていない。
「何か食べるもの、持ってない?」
女性は目を丸くした。
「……食べ物?」
「ああ。できればお茶も飲みたい」
沈黙。
そして女性は、突然その場に跪いた。
「まさか……伝説の茶神様であらせられるとは!」
「いや、まだ何もしてないんだけど」
俺は知らなかった。
この世界では、お茶という文化そのものが、千年前に失われていたことを。
そして俺が淹れる最初の一杯が、魔王と勇者の歴史を根底から覆すことになるとは。
つづく。




