第十四話「茶道具を探して」
「止まれ!」
街の門に着くと、門番が声を上げた。
「あ、どうも」
「お前たちか! ようやく戻ってきたな!」
「戻ってきたというか、初めて来たというか……」
「そんなことはどうでもいい! 今度こそ街に入るんだろうな?」
「そのつもりです」
門番は大きく息を吐いた。
「まったく……。で、今回は何の用だ?」
「道具を買いに」
「道具?」
「茶葉を加工するための道具です」
門番は首を傾げた。
「茶葉? 食べ物か?」
「飲み物ですよ」
「飲み物なら酒場に行け。ここを通ってまっすぐ行けばある」
「いや、そういうことじゃなくて……」
主人公は説明を諦めた。
「まあ、入れば分かるか」
門番は二人と一台の荷車を見比べた。
「……そっちの荷車は何だ?」
「旅の荷物です」
「ずいぶん大きな荷物だな」
荷車の上では、卵が静かに揺れていた。
「まあ、いろいろありまして」
「そうか。通っていいぞ」
ようやく街の中に入った。
「人が多いな」
通りには商人や職人、冒険者らしき人々が行き交っている。露店には見たこともない果物や肉、色とりどりの布が並んでいた。
主人公は周囲を見回した。
「まずは道具屋かな」
「何を買うつもりですか?」
「蒸すための鍋。それから茶葉を揉む台と、乾燥させるための網。あと温度を測れるものがあればいいんだけど」
「温度を測る?」
「ああ。感覚だけに頼るより、数字で分かったほうが比較しやすいからな」
エルフは感心したように頷いた。
二人は通り沿いの道具屋に入った。
「いらっしゃい。何をお探しで?」
「鍋と、網。それから温度を測る道具はありますか?」
店主は少し考えた。
「鍋と網ならあるが、温度を測る道具? 何に使うんだ?」
「液体の熱さを数字で知りたいんです」
「熱さを数字で?」
店主は笑った。
「そんなもの、手をかざせば分かるだろう」
主人公は苦笑した。
「まあ、そうなんですけどね」
店主が奥から鍋と網を持ってきた。
主人公は鍋の厚みを確かめ、網の目の細かさを見た。
「これなら使えそうだ」
「何を作るんだい?」
「お茶です」
「お茶?」
店主は聞き返した。
「聞いたことのない飲み物だな」
主人公はエルフを見た。
エルフは静かに頷いた。
「この辺りでは、あまり知られていないんです」
「へえ。面白いねえ」
主人公は鍋を持ち上げた。
「まずはこれで試してみるか」
お茶を作るための道具。
それは特別な魔道具でも、伝説の神器でもなかった。
ただの鍋と網だった。
けれど主人公には、それが妙に頼もしく見えた。
「よし。これで一歩前進だ」
エルフはその横顔を眺めていた。
茶神と呼ばれる男が、普通の鍋を手にして嬉しそうにしている。
なんとも不思議な光景だった。




