第十二話「水にも個性がある」
「茶神様、こちらです」
エルフに案内され、俺たちは森の奥へ進んでいた。
「まだ泉があるのか?」
「はい。こちらは、先ほどの泉とは違う水が湧いています」
「へえ。楽しみだな」
やがて、小さな岩場にたどり着いた。
岩の隙間から水が流れ落ちている。
「ここです」
「見た目は普通の水だな」
俺は手ですくって飲んでみた。
「……ん?」
「どうしました?」
「なんだか、さっきの泉の水と違う気がする」
「分かりますか?」
「うまく言えないけど、口当たりが違う」
俺は二つの泉の水を水筒に分けて入れた。
「よし。試してみよう」
同じ茶葉を用意する。
水の量も、茶葉の量も揃える。
湯温を合わせ、抽出時間も揃えた。
二つのお茶ができた。
「まずは、こっち」
一口飲む。
「うん」
次に、もう一方。
「……ああ、やっぱり違う」
エルフが尋ねた。
「どのように違うのですか?」
「こっちは味がすっきりしている。もう一方は、少し重い感じがする」
「水に、そのような違いがあるのですね」
「水の中には、目に見えないものが溶け込んでいるんだよ」
「目に見えないもの……?」
「そう。例えば、カルシウムとかマグネシウムとか」
「それは魔力の一種ですか?」
「いや、普通の成分だよ」
俺は二つの水を見比べた。
「水の硬さって聞いたことあるか?」
「硬さ……?」
「水にも硬い、柔らかいがあるんだ」
エルフは驚いた顔をした。
「水なのに、硬いのですか?」
「いや、石みたいに硬いわけじゃないぞ」
俺は笑った。
「水に含まれる成分の違いを、そう呼ぶんだ」
そのときだった。
背後から、ガサガサと音がした。
「……何かいます」
エルフが剣に手をかける。
茂みから現れたのは、一匹の小さな魔物だった。
先日の群れとは違う。
体は岩のように硬く、背中には水晶のような突起が生えている。
「魔物か?」
魔物は俺たちを見たあと、泉の水を飲み始めた。
「なんだ。水を飲みに来ただけか」
ところが、魔物は突然こちらを向いた。
そして、俺の手元のカップに鼻を近づけた。
クンクン。
「……お前も飲みたいのか?」
魔物は小さくうなずいた。
俺は少し考えた。
「じゃあ、こっちを飲んでみるか」
俺は二種類のお茶を地面に置いた。
魔物はまず一方を舐めた。
そして、もう一方へ。
しばらくすると、魔物は最初のお茶の前に戻った。
「……そっちが好きなのか?」
魔物は小さく鳴いた。
エルフが目を見開いた。
「茶神様。魔物が自分で選びました……」
「そうだな」
俺は二つのカップを見た。
「水が違えば、お茶も違う。好みも変わるってことか」
魔物は満足そうに泉へ戻っていった。
俺は空になったカップを片付けた。
「面白いな。もっと試してみたくなった」
エルフが微笑んだ。
「私もです、茶神様」
そのとき、荷車から。
コツン。
「……お前はどっちが好きなんだ?」
返事はなかった。




