↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/21

第十二話「水にも個性がある」

「茶神様、こちらです」


エルフに案内され、俺たちは森の奥へ進んでいた。


「まだ泉があるのか?」


「はい。こちらは、先ほどの泉とは違う水が湧いています」


「へえ。楽しみだな」


やがて、小さな岩場にたどり着いた。


岩の隙間から水が流れ落ちている。


「ここです」


「見た目は普通の水だな」


俺は手ですくって飲んでみた。


「……ん?」


「どうしました?」


「なんだか、さっきの泉の水と違う気がする」


「分かりますか?」


「うまく言えないけど、口当たりが違う」


俺は二つの泉の水を水筒に分けて入れた。


「よし。試してみよう」


同じ茶葉を用意する。


水の量も、茶葉の量も揃える。


湯温を合わせ、抽出時間も揃えた。


二つのお茶ができた。


「まずは、こっち」


一口飲む。


「うん」


次に、もう一方。


「……ああ、やっぱり違う」


エルフが尋ねた。


「どのように違うのですか?」


「こっちは味がすっきりしている。もう一方は、少し重い感じがする」


「水に、そのような違いがあるのですね」


「水の中には、目に見えないものが溶け込んでいるんだよ」


「目に見えないもの……?」


「そう。例えば、カルシウムとかマグネシウムとか」


「それは魔力の一種ですか?」


「いや、普通の成分だよ」


俺は二つの水を見比べた。


「水の硬さって聞いたことあるか?」


「硬さ……?」


「水にも硬い、柔らかいがあるんだ」


エルフは驚いた顔をした。


「水なのに、硬いのですか?」


「いや、石みたいに硬いわけじゃないぞ」


俺は笑った。


「水に含まれる成分の違いを、そう呼ぶんだ」


そのときだった。


背後から、ガサガサと音がした。


「……何かいます」


エルフが剣に手をかける。


茂みから現れたのは、一匹の小さな魔物だった。


先日の群れとは違う。


体は岩のように硬く、背中には水晶のような突起が生えている。


「魔物か?」


魔物は俺たちを見たあと、泉の水を飲み始めた。


「なんだ。水を飲みに来ただけか」


ところが、魔物は突然こちらを向いた。


そして、俺の手元のカップに鼻を近づけた。


クンクン。


「……お前も飲みたいのか?」


魔物は小さくうなずいた。


俺は少し考えた。


「じゃあ、こっちを飲んでみるか」


俺は二種類のお茶を地面に置いた。


魔物はまず一方を舐めた。


そして、もう一方へ。


しばらくすると、魔物は最初のお茶の前に戻った。


「……そっちが好きなのか?」


魔物は小さく鳴いた。


エルフが目を見開いた。


「茶神様。魔物が自分で選びました……」


「そうだな」


俺は二つのカップを見た。


「水が違えば、お茶も違う。好みも変わるってことか」


魔物は満足そうに泉へ戻っていった。


俺は空になったカップを片付けた。


「面白いな。もっと試してみたくなった」


エルフが微笑んだ。


「私もです、茶神様」


そのとき、荷車から。


コツン。


「……お前はどっちが好きなんだ?」


返事はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。