第7話:男子の本音と女子の視線
「将来の夢ねえ。ぶっちゃけ、普通にどっかの自動化工場の管理職とかになって、スマートに稼げればよくね?」
放課後の教室。机を向かい合わせにして、明がポテトチップスを口に放り込みながら言った。
「だよな。わざわざ残業とかする大人って、なんか非効率だしダサいわ。俺は株の自動トレードAIでも買って、不労所得で一生遊んで暮らしたい」
雄一も深く椅子にもたれかかって、同意するように頷く。
男子たちの会話は、いつもこんな感じだ。二〇五〇年の今、彼らにとって「働くこと」は、できるだけコスパよく、効率的にお金を稼ぐための手段でしかなかった。
「ちょっと、男子。相変わらず中身のない会話ばっかりして、恥ずかしくないわけ?」
掃除用具入れからモップを取り出しながら、紗季が呆れたような声を出す。
「なによ雄一、一生遊んで暮らしたいって、そんなの生きてて面白いの? 私は将来、ちゃんと自分の手で新しいプロダクトをデザインする仕事がしたいな」
夏帆がノートを開いたまま、少し誇らしげに言った。
「私は歩夢奈と一緒に、メタバースの空間デザイナーを目指すって決めてるし。ねー?」
鈴奈の言葉に、歩夢奈もスマホから目を上げて「うん、人間らしいセンスが必要な仕事じゃないと、これからは生き残れないしね」と、一歩引いたクールな声で頷いた。
「航太はどう思うんだよ? さっきから黙ってさ」
明がぼくに話を振ってきた。
「ぼく……?」
ぼくは、明たちの「効率よく稼ぎたい」という意見にも、女子たちの「人間らしい仕事をしたい」という意見にも、どちらにもすぐには頷けなかった。
頭の中に、修学旅行のあの景色が蘇る。
三雲さんや恵美さんのような、今まさに「高付加価値な仕事」をしているエリートたち。女子たちの言う通り、彼らは最高にかっこいい。
でも、もし、その「人間らしいセンス」すらも、あと何十年かして、AIが完璧に真似できるようになったらどうなるんだろう?
そのとき、人間には何が残るの?
「……ぼくは、まだちょっと、よく分かんないや」
そう濁すのが精一杯だった。
「なんだよ、お前日光に行ってから、なんか真面目ぶってんな!」
明が笑いながらぼくの頭を小突く。
男子って、こういうときは本当にバカみたいに能天気だ。でも、その能天気さが、今は少しだけ羨ましかった。ぼくは一人、放課後の夕日が差し込む教室で、誰もいない自分の未来の席を見つめているような気分になっていた。




