第23話 別れの前日
そして翌日から、街の復興作業が始まった。
悠陽達も復興作業に協力し、慌ただしい日々を過ごしていた。
そんなある日、公爵家の皆と悠陽達は食事を共にすることになった。
「本当にみんなありがとう。君たちのおかげでこの街は助かった。それに寄付金まで出してくれたって」
公爵様は悠陽達を見渡し、心からの感謝を伝えた。
「僕たちは王家からの謝礼を返しただけなので、僕たちが出したわけではありませんけどね」
優佑がそう答えると、公爵様は首を横に振った。
「いや……それは君たちの報酬なのだから、君たちのお金だよ。本当にありがとう。今日は感謝の気持ちを込めて、ささやかなパーティをする事にしたんだ!遠慮せずいっぱい食べてくれ!」
公爵家でいつも食事をしている部屋には、沢山の料理が並んでいた。
「やったー!!」
悠陽は嬉しそうに声を上げた。
いつも通り賑やかな食事を楽しんだ後、悠陽が何かを思い出したように公爵様へ声をかけた。
「そうだ公爵!!」
「どうした?」
「夫人とセシル君も」
凪がそう言うと、夫人は不思議そうに首を傾げた。
「何かしら?」
公爵様と夫人、そしてその息子のセシルに、悠陽達の元まで来てもらった。
「俺たち、公爵家には沢山お世話になってるからさ!それに今年からセシルも学校入学だろ!それのお礼とお祝い兼ねて!」
悠陽がそう言うと、優佑が三人の前に箱を差し出した。
中に入っていたのは、三人お揃いの万年筆だった。
繊細な装飾が施された、華美になりすぎない上品な万年筆だ。
「こ、これはなんだね!?」
「万年筆です。墨はありましたよね?見た目が変わっただけで今お使いのものとそう変わりはありませんが、よろしければ使って下さい」
「ありがとう、大事に使わせてもらうよ」
公爵は万年筆を手に取り、嬉しそうに眺めていた。
続いて紫苑が贈ったのは、バスローブのような衣服だった。
柔らかな生地は手触りがよく、身にまとえば心地よさそうだ。
「俺こういうの考えるの苦手だからさ、昔使っててすげーよかったもん、いろんな人に協力してもらって作ってみたんだ。」
紫苑は素材を集め、製作に協力してくれる者達と相談しながら仕上げてもらったのだという。
「まぁ、すごく肌触りが良いわ」
「あぁ、ありがとう」
公爵夫妻は柔らかな生地に触れ、満足そうに微笑んだ。
美稀が用意した贈り物は、それぞれ異なるものだった。
公爵様には、この世界ではあまり出回っていない、男性用エチケット用品。
夫人には、化粧品やネイル、香水などの美容用品。
そしてセシルには、動物のぬいぐるみや学校で使えそうな文房具類が用意されていた。
エチケット用品や化粧品は、美稀が監修して製作したものだった。
「ごめんなさい。男性が何をプレゼントしたら喜んで頂けるか、思い浮かばなくて……」
「気持ちだけですごく嬉しいよ」
「すごく嬉しいわ!見たことのない物もあるわ!あとで使い方教えてくださる?」
「良かったです!もちろんです!」
夫人の言葉に、美稀も嬉しそうに笑った。
そして最後は、悠陽と凪。
二人が用意したのは、剣や髪飾り、アクセサリーだった。
「俺たち2人でダンジョン潜って、色んな素材集めてドワーフのおっちゃん達に作ってもらったんだ!」
悠陽はそう言いながら、用意していた木箱を取り出した。
公爵には剣を、息子には少し短めの剣を。そして夫人には髪飾りやアクセサリーを贈った。
剣には美しい装飾が施され、夫人への贈り物には色鮮やかな宝石があしらわれていた。
「ミスリルなのでそうそう折れることはないはずです!けど切れ味が良すぎるところが少し難点ですね……」
「ミスリルだと!?それにこの装飾は!?」
「あぁ、はい。宝石手に入れたので、装飾に使ってもらいました」
「まぁ、素敵……こんなの頂いて良いのかしら」
「もちろんですよ。夫人に似合うようにデザインも考えてもらいました」
夫人は髪飾りを手に取り、その美しさに目を奪われていた。
一方、息子は父親の剣と自分の剣を見比べ、嬉しそうに声を上げた。
「父上、剣お揃いのようです!」
「そうだよ。親子でお揃いってなんかいいなーと思って、模様お揃いにしてもらったんだ」
「これはどれも国宝級の代物だよ!?」
「そうなのか?まぁ、俺たちの作った武器も同じようなもんだし」
悠陽は大して気にした様子もなく答えた。
「本当にもらって良いのかい?」
「もらってくれないと困ります!」
「あ、そうだ。公爵家や執事のアーネス、それにドワーフのおっちゃん以外が触ると、電撃流れるようにしといた」
「な、なんだ!?その機能は!!」
「あ、いや。鍛治師の方に頼んでいる時『これすごく高価なものになるぞ盗まれたりするかも』という話をされて盗まれないようにと悠陽が勝手に……すみません」
「い、いや、ありがとう。大事にするよ」
「じゃぁこの剣、僕たちしか使えない剣ってこと!?」
「うん、そうだよ」
「すごい!かっこいい、ありがとう!!」
「喜んでもらえて良かったよ!」
凪は嬉しそうに微笑んだ。
そして、贈り物はそれだけではなかった。
悠陽と優佑が空間魔法を使い、大きなケーキを取り出した。
突然現れた巨大なケーキに、公爵家の人々は驚いていた。
「これは……」
「公爵家の皆さん、使用人の方々にもお世話になったので!皆さんに!」
「まぁ、素敵……」
夫人が感嘆の声を漏らす。
その間に悠陽は執事のアーネスの元へ歩み寄り、小さな箱を差し出した。
「これ」
「こ、これは万年筆と言う……」
「公爵のと比べたら、少し地味だけどペンとしての性能は一緒。でも、その万年筆ここを押すと光って、俺のペンダントに通信できるようになるんだ!」
「そ、それは……なんと……」
「あぁ!離れてても緊急の時はすぐ連絡できる!でも調整中だから不具合あるかもだけど。何かあった時とかはこれですぐ俺ら呼んでくれよな!絶対助けに来るからさ!」
悠陽は胸元のペンダントを指さしながら説明した。
アーネスは万年筆を見つめ、しばらく言葉を失っていた。
「素晴らしい……ですが、なぜそこまで」
「え〜、だってもぉ友達みたいなもんじゃん!」
悠陽は当然のように笑うと、アーネスは少し驚いたような表情を浮かべた。
「そうですか、ありがとうございます。何かあれば遠慮なく助けを求めさせていただきます」
「おぅ!!」
その様子を見ていた公爵様が、ふと口を開いた。
「君たち、もう行くつもりなのかい」
「よくわかったな!」
「こんなに色々されては流石にね。」
「今日、明日には出ようかと」
優佑が答えると、公爵様は慌てた様子で身を乗り出した。
「今日は待ってくれないか!?」
悠陽達は不思議そうに顔を見合わせた。
「王がね、君たちにお礼がしたいと、急遽、今晩舞踏会が開かれることになったんだ。それで君たちを連れて来いと言われていてね」
「だけど俺たち着ていけるような服……」
「それは大丈夫よ!こちらで用意したわ!!」
紫苑の心配に、夫人が微笑みながら答えた。
「どうだろう。王城シェフが腕によりをかけたご飯も沢山出るらしいぞ、来てはくれないだろうか」
「王城シェフ!ごはん!行く!!」
「ちょっと、悠陽ぅ……」
凪が止めるよりも早く、悠陽は目を輝かせていた。
「そうか!良かった!では今日は共に王城へ行こう!!」
こうして悠陽達は、予定を一日延ばして王城へ向かうことになった。
そして夜――
公爵家で用意された衣装に着替え、悠陽達は王城へと向かった。
「動きにくい……」
「仕方ないよ舞踏会だから」
「悠陽は、何でも似合うねぇ❤︎」
「マナーとかダンスとか、よくわかんないけどいいのかな」
慣れない衣装に戸惑う悠陽と、舞踏会の作法を心配する紫苑。
そんな彼らを見て、公爵様が声をかけた。
「気にしないで良いのだよ!君は少し待っていてくれるかぃ?」
公爵は夫人と執事を王城の入口付近に残し、悠陽達を連れて奥へ進んだ。
しかし、案内された会場は、悠陽達が想像していた舞踏会とはまるで違っていた。
華やかな音楽も、踊る人々の姿もない。
そこには貴族達が整然と並び、その奥には玉座に腰掛ける国王の姿があった。
予想外の光景に、悠陽達は思わず足を止めた。
「ごはん……」
悠陽が小さく呟くと、凪がすかさずクギを刺した。
「やめろ……」
「どうしよう。作法とかわかんないってぇ」
紫苑も困惑した様子で周囲を見渡していた。
そんな彼らに、国王が穏やかに声をかけた。
「作法は構わん。君たちには嘘をついて連れてきてもらったからの」
「みんなごめんね」
公爵様も申し訳なさそうに笑った。
「お主達のこの度の活躍は見事であった。それに街の復旧にも多大な貢献をしてくれたよって、爵位を――」
「いらないです」
国王が言い終わるよりも早く、悠陽が即答した。
「お、おい!?悠陽!!」
凪が慌てて声を上げる。
周囲に並んでいた貴族達も、一斉にざわめき始めた。
「な、なんて失礼なガキなんだ!国王にむかって!なんと不敬な!」
「も、申し訳ありません。私の弟が失礼を……」
優佑が慌てて頭を下げた。
しかし、国王は怒るどころか愉快そうに笑っていた。
「かまわんかまわん!そう言うと思っておったんじゃ!!」
「だって、貴族になったら旅できねーもん」
「まぁ、それなりに貴族の仕事をしてもらわんといかんからの。いやぁ!君たちの力が他の国で利用されては敵わんからな!先に囲っとこうと思うたんじゃが!はっはっ!」
「ちょっと。王!!!それは!!」
傍らに控えていた宰相が慌てて口を挟んだ。
国王は気にする様子もなく、悠陽達へ視線を戻した。
「だがの、私は君たちをとても気に入ってしまった、だから色んな国や街を見て旅も終え腰を落ち着かせたくなったらここへ戻ってきてくれてかまわん。
その時に爵位を持ち自分達の街を作ってみてほしい。私は君たちの作る街を見てみたい。どうだろう?」
「あぁ!俺たちもこの国好きだしな!またいつか戻ってくるよ!」
悠陽は嬉しそうに答えた。
「もう一つあったよね?渡しといたら?」
凪に促され、悠陽は思い出したように頷いた。
「そうだな」
悠陽は国王に、手のひらサイズの小さな箱を差し出した。
国王が不思議そうに箱を開けると、中には美しい装飾が施された封蝋印が収められていた。
「これで俺たちに物質なら何でも転送できる。何かあってどうしても力がいる時は呼んでくれ。絶対助けに来る。この国には大事な友達沢山できちまったからな!あ、政治とかそうゆう難しいのはごめんだからな……」
「そうか、ありがとう。また今回のようなことがあれば君たちを頼るよ。それと皆後で応接室来てくれるかの」
こうして謁見を終えた悠陽達は、国王に案内されて応接室へ向かった。
扉が開かれると、そこには大量の料理が並べられていた。
「王城シェフのご飯!!?」
悠陽の表情が一瞬で明るくなった。
「わー!良かったね〜❤︎悠陽ぅ〜」
優佑も嬉しそうに微笑んだ。
悠陽達は王城の料理を楽しみながら、国王と和やかな時間を過ごしていた。
しばらくすると、国王が改めて悠陽達へ向き直った。
「ありがとう」
国王は静かに頭を下げた。
突然のことに、悠陽を含めて皆が驚いていた。
「王が頭を下げてはなりません!」
宰相が慌てて声を上げる。
「いいんだ、息子を助けてもらった。本当にありがとう」
「おう!」
悠陽はいつもの調子で笑って答えた。
国王はそんな悠陽を見つめ、少しだけ真剣な表情になった。
「だがのぅ、お主ら流石に他の国でも王や貴族に同じような態度じゃ最悪処刑だぞ?」
「えぇ……」
「実際、先の件で多大な貢献をしたと言っても、あの態度はと文句を言うておる貴族も数名おる。
こういうのは王が許しても貴族の反発を生むでな、この国は温厚な貴族、公爵のような奴が多いからいいが。他の国では少し注意しなさい」
国王の忠告に、優佑が申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。俺の教育が行き届いてないせいで……可愛くてつい甘やかしてしまって……❤︎」
「いえ……僕も止められなかったので……」
凪も反省した様子で俯いた。
「ははは!!」
そんな二人をよそに、悠陽は楽しそうに笑っていた。
「お前が1番反省しないか!!」
「ぁいっ!」
国王に一喝され、悠陽はびくりと肩を跳ねさせた。
しゅんと肩を落とす悠陽の姿に、美稀と紫苑は思わず笑い声を漏らした。
こうして、王城での賑やかな夜は過ぎていった。




