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第19話 湖底の迷宮




冒険者ギルドでは、今もなお負傷者たちの治療が続けられていた。


床に横たわる冒険者たちの傍らでは、家族や仲間が涙を流し、名前を呼び続けている。

そんな中、悠陽(はるひ)達は次々と運び込まれる遺体を、ダンジョンの第五十一階層へと続く扉の中へ運び込んでいた。


「……悠陽くん。何かあったんですか?」


不意に声をかけられ、悠陽は振り返った。

そこには勇雄(いさお)と杏(あんず)が立っていた。

二人は転移前、悠陽達が通っていた学校の教師だった。


杏はギルド内の惨状に顔を青ざめさせ、勇雄も険しい表情で周囲を見渡している。


「お前ら、怪我はないのか?」


勇雄が心配そうに尋ねた。


「俺らは元気!」


悠陽はいつものように明るく答えた。

その様子に、杏は僅かに安堵したように胸を撫で下ろした。


しかし、すぐに何かに気づいたように首を傾げる。


「あら……?美稀(みずき)ちゃんと凪(なぎさ)くんは?」


「…………」


優佑(ゆうすけ)は何も答えなかった。

その沈黙に、杏の表情が凍りつく。


「……っ!」


「うそ……うそよね……?」


杏は震える声で呟いた。


「ど、どうして……?何があったの……?」


今にも泣き出しそうな杏を前に、優佑は苦しげに視線を落とした。


「……まだ、二人がどうなったかはわかっていません」


「そんな……」


杏は口元を押さえた。

その隣で、勇雄が静かに口を開く。


「……俺に手伝えることはあるか?」


「……あ!」


悠陽は何かを思いついたように顔を上げた。


「なぁなぁ、兄ちゃん!」


「ん?」


「いさっちって、強さどんなもん?」


「うーん……」


優佑は少し考え込んだ。


「ギルマスと同じくらいかな?多分」


「ほーう……」


悠陽は勇雄をじっと見つめた。


「……?」


勇雄は不思議そうに首を傾げる。


「まっ!全員運び込んだし、一旦扉入るよ!」


悠陽はそう言うと、第五十一階層へ続く扉へと歩き始めた。





――第五十一階層


「おい!!ハルヒ!!」


扉を潜った途端、妖精の怒鳴り声が響いた。


「人が増えておるぞ!入れるなと言ったじゃろう!!」


「あ、ごめん!先生達はつい!あはは!」


悠陽は悪びれる様子もなく笑った。


「まったく……」


妖精は呆れたようにため息を吐いた。

しかし、悠陽たちの背後に並べられた遺体を見渡すと、その表情を引き締めた。


「……まぁよい。これで全員のようじゃな」


「あぁ。頼む」


悠陽は真剣な表情で頷いた。


「……十日じゃ」


「……ん?」


「十日以内に戻ってこい」


妖精は静かに告げた。


「それまでは何とか持ち堪えられるじゃろう。じゃが、それ以上は保証できん。思っていたよりも皆、損傷が激しい」


「……十日」


悠陽は小さく繰り返した。




「わかった!」


「俺も手伝うぞ」


ギルドマスターが一歩前へ出た。


「俺もだ」


続いて勇雄も名乗りを上げる。


「わ、私も!」


杏は涙を拭い、必死に声を張り上げた。


「生徒をこんな……こんな姿にされて、黙ってはいられません!」


「杏ちゃんはいらない」


「……え?」


杏は少しショックを受けたように、上げた手をゆっくりと下ろした。


「おい!悠陽(はる)、そんなはっきり言わなくても……」


紫苑(しおん)が慌てて口を挟む。


「だって時間もないし」


悠陽は不思議そうに首を傾げた。


「……まぁ、そうだな」


ギルドマスターが腕を組んだ。


「申し訳ないが、守って怪我をされるくらいなら、最初から同行しない方が危険は少ない」


「ギルマスまで……」


優佑は困ったように眉を下げた。

杏は悔しそうに唇を噛んだが、やがて小さく頷いた。


「……わかりました」


その様子を見ていた妖精が、口を開く。


「そうじゃ。湖のダンジョンには、最高級ポーションを作るための薬草も生えておる」


「薬草?」


「うむ。ついでに、道中に生えておる草も採ってくるとよい。これから負傷者はもっと増えるぞ」


その言葉に、ギルドマスターの表情が険しくなった。


「……あぁ。わかった」


悠陽は皆を見渡した。


「じゃ!この五人で湖のダンジョンだ!」





湖へ向かう準備を整えた悠陽達は、移動手段について話し合っていた。


「……帰りは転移ですぐ戻れるとしても、行きは歩きだと四日もかかるのか」


優佑は困ったように呟いた。


「何かいい方法はないかな……」


紫苑も腕を組んで考え込む。


「車とかあればなぁ」


勇雄が何気なく口にした。


その瞬間――


「……!!」


悠陽と優佑が同時に顔を上げた。


「それだ!!」


悠陽は勢いよく勇雄へ詰め寄った。


「いさっち!車の構造わかるか!?」


「え?あぁ……大体はわかるが。何をするんだ?」


「とりあえず絵描いて!」


「……絵?」


悠陽は紙と筆記具を差し出した。


「その間に、俺はポーションでも買い足してこようかなー」


「待て、ハルヒ」


ギルドマスターが声をかけた。


「Bランクのヒーラーがいる」


ギルドマスターの背後から一人の少女が姿を現した。


「こんにちは」


少女は丁寧に頭を下げた。


「Bランク冒険者で、ヒーラーをしているミリィです」


「……女の子?」


悠陽はミリィを見つめた。


「どうしても同行したいと聞かなくてな。危険だとは説明したんだが……」


ギルドマスターは困ったように頭を掻いた。


「……パパとママが、やられました」


ミリィは小さく呟いた。

顔を上げた瞳には強い意志が宿っていた。


「お願いします。一緒に行かせてください」


「……自分のこと、自分で守れるか?」


「はい!」


「ヒールも、結界魔法も使えます!自分のことは自分で守ります!」


「……そっか。わかった!じゃあ、この六人で行こう!」


「……っ!ありがとうございます!」


ミリィは嬉しそうに頭を下げた。





「はい、描けたよ」


勇雄が一枚の紙を差し出した。

そこには、車の構造を説明するための絵が描かれていた。


勇雄から紙を受け取ると、悠陽の顔が曇った。


「…………」


「……どうかな?」


「汚ねぇ。わかんねぇ。ごみ」


「ひどいなぁ!?」


勇雄は肩を落とした。


「ちょっと貸してみろ」


紫苑が横から紙を覗き込んだ。


「……あー」


そして、新しい紙に絵を描き直していく。


「ほら、これならどうだ?」


「おぉ!!流石、紫苑兄(しおんにい)!ありがと!」


悠陽は嬉しそうに紙を受け取った。

描かれた絵をじっと見つめ、車の構造を頭の中で創造する。


「……よし!」


悠陽が手をかざすと、目の前の空間に魔力が集まり始めた。

やがて、その魔力は形を成していく。


車体……車輪、座席。


一つひとつの部品が組み上がり、遂には一台の車が姿を現した。


「……おぉ!すげ、本当に作ったのか……!」


「えっへんっ!」


悠陽は得意げに笑った。

しかし、空を見上げると、すぐに顔をしかめた。


「くそー!日が暮れてきた!」


「急ごう」


優佑が車へ歩み寄って、勇雄を見る。


「先生、運転をお願いできますか?」


「もちろん!」


勇雄は運転席へ乗り込んだ。


「じゃっ、飛ばすぞー!」


悠陽達も次々と車へ乗り込んだ。

全員が座ったことを確認すると、勇雄は車を発進させた。

ギルドマスターとミリィは、初めて見る自動車に驚きながらも楽しそうに窓からの風を浴びていた。




しばらく森の中、車を走らせる。

道中、木が倒れていたり車幅が広く通れない場所などがあった。

車を降りて撤去して進んだりと少々時間はかかってしまったが、無事悠陽達は目的の湖へ辿り着いた。

水の透き通った湖には、砂浜からも魚が泳いでいるのが見えた。

この湖の底には、巨大なダンジョンが眠っているという。


悠陽達は準備を整えると、湖へ潜った。

水中を進み、妖精から聞いた入口を探す。


水が澄んでいた為、あっさり湖底に隠されたダンジョンの入口を発見した。


「……ここか!」


悠陽は入口へと近づいた。


六人は互いの姿を確認すると、ダンジョンの中へ入っていった。





――湖底のダンジョン


「……ここが、ダンジョン……」


ミリィは周囲を見渡しながら、小さく呟いた。

薄暗い通路が奥へと続き、どこからともなく魔物の気配が漂ってくる。


「なんだ、怖いか?」


ギルドマスターが尋ねた。


「怖いなら、外で待っててもいいぞ?」


悠陽もミリィの顔を覗き込む。


「い、いえ!」


ミリィは慌てて首を振った。


「大丈夫です!私の魔法で、少しでも皆さんのお役に立ちたいです!」


「そっか!」


紫苑は笑みを浮かべた。


「頼もしいな!」


「はい!」


ミリィは嬉しそうに頷いた。

こうして、六人のダンジョン攻略が始まった。


湖の底にあるダンジョンだからか、ダンジョン内部では至る所から水が流れ出ていた。

中には、壁を伝って大きな滝のように水が流れ落ちている場所もあった。






第一階層から第二十階層までは、比較的順調に進むことができた。

現れる魔物は決して弱くはなかったが、悠陽達の活躍で次々と倒されていく。


悠陽が前方から攻撃をし、優佑と紫苑が左右から魔物を追い詰める。


ギルドマスターと勇雄もそれぞれ攻撃に加わり、ミリィは後方から回復や結界魔法で仲間たちを支えた。


しかし、階層を進むにつれて、通路は複雑に迷路のようになっていき、移動だけでも時間を要するようになった。




「……やっと二十階か」


勇雄は額の汗を拭った。


「思っていたよりデカいダンジョンだな」


ギルドマスターも周囲を見渡した。


「進むだけでも時間がかかるな……」


紫苑が呟く。


「……急ごう」


優佑の言葉に、全員が頷いた。





第二十一階層を越えた頃から、魔物の強さが明らかに変わり始めた。


それまでギルドマスターや勇雄が一人で倒せていた魔物も、二人がかりでなければ仕留められない。

階層を進むごとに、魔物の攻撃は強くなっていく。

戦闘のたびに体力と魔力が削られていった。


「はぁ……はぁ……」


ミリィは荒い息を吐きながら、悠陽達の背を見上げた。


「噂では聞いていましたが……皆さん、本当にお強いですね……」


「そうだな。こいつらには、いつも世話になっている」


「……ダンジョンに入って、どれくらい経ったかな」


紫苑が呟いた。


「わからないな」


優佑は周囲を見渡した。


「ダンジョンに着いたのが夕方だったから、さすがにもう夜は明けているんじゃないか?」


「ううん」


悠陽は首を振った。


「兄ちゃん、もっとだよ。一日は経ってる」


「……え?」


悠陽は懐から、小さな懐中時計のようなものを取り出した。

蓋を開くと、そこには時間を示す表示があった。


「なんだ?それ」


勇雄が興味深そうに尋ねた。


「妖精がくれた!大体の時間がわからないと不便だろうって!」


悠陽は時計を見せながら答えた。


「……なるほど」


ギルドマスターは時計を覗き込んだ。


「もう一日経っているのか……急がないとな」


「いや、ギルマス。一度、休憩しましょう」


勇雄が口を挟んだ。


「……ん?」


「皆、疲労が激しい。このまま進むのは危険だと思う」


勇雄に言われ、ギルドマスターは全員の様子を見渡した。


「俺も先生に賛成。どんどん魔物も強くなってるし、休める時に休んどこうぜ」


「……そうだね」


紫苑と優佑も同意した。


「……あぁ、そうしよう」


ギルドマスターは周囲に魔物が居ないかを確認した。


「では、イサオと俺の二人で見張りをする。まずは子供たち四人が先に寝なさい」


「そうですね」


勇雄も頷いた。

悠陽達は休める場所を確保すると、それぞれ身体を休めることにした。


その後、交代で見張りをしながら全員が睡眠を取り、食事を済ませてから再び出発した。





第四十一階層 


そこから先は、まるで別のダンジョンに足を踏み入れたかのようだった。

現れる魔物は、一体一体がそれまでの階層のボスに匹敵するほどの力を持っていた。


鋭い爪が地面を抉り、巨大な身体が通路を塞ぐ。




「……なんか、急に魔物が強くなりましたね」


勇雄は武器を構え直しながら呟いた。


「あぁ。休憩しておいてよかったな」


ギルドマスターも頷く。


「そうですね」


勇雄は前方で戦う悠陽達へ視線を向けた。


「……ですが、子供達はまだまだ元気そうですね」


そう言って、小さく笑った。


「……かっこいい」


ミリィは目を輝かせた。


「ギルマス!」


「ん?」


「私も、あの人たちみたいに強くなれるかな!?」


ギルドマスターはミリィを見つめ、穏やかに笑った。


「そうだな。お前も大きくなったら、なれるかもな」


「……ふふふっ!」


ミリィは嬉しそうに微笑んだ。





――第五十階層


「……ごめん」


紫苑が足を止めた。


「もう無理……一旦休憩しよう……」


「はぁ……はぁ……」


ギルドマスターも壁に手をつき、呼吸を整えようとしている。


「……魔力の消費が……」


少女も肩で息をしている。


「……すまん、俺もだ」


勇雄は疲れ切った様子でその場に腰を下ろした。


「……急に敵が強くなったね」


優佑も荒い息を吐いていた。

そんな五人を見て、悠陽は不思議そうに首を傾げた。


「……みんな、大丈夫か?」


「……あぁ、なんとかね」


優佑が答える。


「今回は俺が先に見張りしよっか?」


「……ハルヒは大丈夫なのか?」


「……何が?」


悠陽はきょとんとした顔で答えた。


「大丈夫だけど?」


「…………」


ギルドマスターはしばらく悠陽を見つめた。


「……魔力の桁が違うのだろうな」


そして、小さく息を吐く。


「すまんが、言葉に甘えよう。見張りを頼む」


「おう!任せとけ!」


悠陽は元気よく頷いた。

五人が身体を休め始めると、悠陽は一人、周囲を警戒しながら見張りを続けた。





――二時間後


静まり返った通路に、魔獣の低い唸り声が響いた。


「……ん?」


悠陽は顔を上げた。

暗闇の奥から、複数の足音が近づいてくる。

やがて姿を現したのは、巨大な魔物の群れだった。


「……うわ」


悠陽は思わず呟いた。

背後では、優佑達が眠っている。


皆、疲れ切っていて、魔物の気配にも気づいていない。


「……どうしよ」


悠陽は少し後退りしたが、すぐに武器を構えた。


「……俺がやらないと」


次の瞬間、魔物達が一斉に襲いかかってきた。


悠陽は地面を蹴り、迫る魔物の攻撃をかわした。

すぐさま反撃をして一体を仕留める。


その背後から別の魔物が飛びかかってくる。


「くそっ!」


悠陽は身体を捻って攻撃をかわし、魔力を込めた一撃を放つ。

魔物が倒れ、地面に魔石が転がった。


次から次へと魔物が押し寄せてくる。


悠陽は眠っている優佑達へ攻撃が向かわないよう、必死に立ち回った。


「……はぁ……はぁ……!」


一体、また一体と倒していく。

しかし、魔物の数はあまりにも多かった。


十体、二十体、三十体……

どれだけ倒しても、魔物の群れが途切れることはなかった。


悠陽の足元には、無数の魔石が転がっている。

攻撃を繰り返すたびに、悠陽の体力が少しずつ削られていく。



そして――

最後の魔物が地面へ崩れ落ちた。


「……はぁ……」


悠陽は周囲を見渡した。

地面には、大量の魔石や魔物の素材が散らばっている。


「……よかっ……」


そう呟いた瞬間、悠陽の身体がぐらりと傾いた。


「……あれ……?」


足に力が入らない。

そのまま、悠陽は地面へ倒れ込んだ。


悠陽は一人、2時間以上戦い続け、五百体もの魔物を倒した。




「……おい!」


「悠陽(はる)!!」


「……ん……?」


「起きろ!!大丈夫か!?」


優佑が悠陽の身体を抱き起こしていた。

その隣では、ミリィが必死に声をかけている。


「起きてください!!」


「……うぅ……」


悠陽はゆっくりと目を開いた。


「……はっ!」


そして、慌てて身体を起こす。


「ごめん!!寝てた!?」


「寝てた!?じゃないだろ!!」


紫苑が声を上げた。


「お前、なんで起こさなかったんだよ!」


「……え?」


悠陽は不思議そうに皆を見渡した。


「だって……みんな疲れてるみたいだったし」


「…………」


「魔物が来ても気づいてなかったから、一人でなんとかしなきゃと思って……」


「……悠陽(はる)!」


優佑が悠陽の肩を掴んだ。


「頼れって言っただろ?」


「……っ!」


悠陽は思わず口を閉じた。


「一人で全部なんとかしようとするな」


「……ごめん」


「そうだぞ?」


勇雄も真剣な表情で口を開いた。


「俺たちはパーティで来ているんだ。困った時は頼りなさい」


「……うん」


悠陽は小さく頷いた。

ギルドマスターは周囲に散らばる魔石や素材を見渡した。


「……次からは、見張りは二人以上だな」


「そうだね」


優佑も頷いた。

その後、悠陽達は魔石や素材を回収し、再び奥へと進み始めた。





第五十一階層を越えた頃から、六人の身体に異変が現れ始めた。


「……はぁ……はぁ……」


ミリィは苦しそうに息を吐いた。


「おい、大丈夫か?」


ギルドマスターが声をかける。


「す、すみません……大丈夫です……」


ミリィはそう答えたが、その足取りは明らかに重くなり、顔色も悪くなっていた。


「……だが、なんだろうな。この感じ」


ギルドマスターは眉をひそめた。


「……魔力が吸われてるみたいだね」


優佑が呟いた。


「五十階を越えた辺りから、少しずつだけど……」


「……あぁ」


紫苑も頷く。


「だから、こんなに身体が重いのか……」


「……?」


悠陽は首を傾げた。


「……何が?」


「……悠陽(はる)、何ともないの?」


優佑が尋ねる。


「うん?」


悠陽は自分の身体を見下ろした。


「別に?」


「…………」


ギルドマスターは苦笑した。


「……ハルヒは魔力量が多いから、あまり影響がないみたいだな」


「……そうなの?」


悠陽は不思議そうに首を傾げた。





――第六十階層


長い通路の先に、巨大な門が姿を現した。

天井近くまで伸びるその門には、複雑な模様が刻まれている。


「……もしかして、ボス部屋か?」


勇雄が呟いた。


「……ボス……」


ミリィは緊張した様子で門を見上げた。


「おそらく、そうだな」


ギルドマスターが頷いた。


「……なんか、すげーデカい門だな」


紫苑は思わず口を開けて扉の先を見上げた。


「……魔力増強ポーションは飲んでおこう」


優佑は荷物からポーションを取り出した。


「何があるかわからないからね」


そして、ミリィへ視線を向ける。


「君は後ろに下がってて」


「……はい!」


ミリィは緊張した面持ちで頷いた。

全員が準備を整え、巨大な門の前へ立つ。


「……よし」


悠陽は門に手をかけた。

重々しい音を響かせながら、門がゆっくりと開いていく。


その先に広がっていたのは、巨大な空間。

そして――




「……っ!」


暗闇の奥から、低い唸り声が響いた。

巨大な影が、ゆっくりと姿を現す。


三つの頭を持つ、異形の魔物。


その鋭い牙からは唾液が滴り落ち、六つの瞳が侵入者たちを睨みつけていた。


「……ケルベロス……?」


勇雄が息を呑んだ。


次の瞬間


「グルァアアアアッ!!」


凄まじい咆哮が空間全体に響き渡った。


「来るぞ!!」


ギルドマスターが叫んだ。

悠陽たちは一斉に武器を構える。

ケルベロスは巨大な身体を揺らしながら、六人へ向かって突進してきた。


「うわっ!!」


悠陽は横へ飛び退いた。

直後、巨大な前脚が地面を叩きつける。

轟音と共に床が砕け、破片が周囲へ飛び散った。


「でかすぎるだろ!!」


紫苑が叫ぶ。


「左右から攻めるぞ!」


ギルドマスターの声に、紫苑が頷いた。

二人は左右へ分かれ、ケルベロスの注意を引きつける。


その隙に、悠陽が魔力を込めた矢を放った。



しかし――


矢が突き刺さったにもかかわらず、ケルベロスは怯むことなく咆哮を上げた。


「硬っ!!」


悠陽が思わず声を上げる。


「油断するな!!」


ギルドマスターの声が響いた。

ケルベロスの三つの頭が、それぞれ別の方向へ向けられる。


次の瞬間、鋭い牙が優佑へ迫った。


「……っ!」


優佑は咄嗟に剣を構え、その一撃を受け流した。

しかし、凄まじい衝撃に身体が後方へ押し戻される。


「兄ちゃん!!」


「大丈夫だ!!」


その間にも、別の頭が紫苑へ襲いかかっていた。


「くそっ!」


紫苑は攻撃をかわし、反撃を繰り出す。

勇雄も攻撃に加わった。

ミリィは後方に結界を展開し、負傷した仲間へ回復魔法をかけていく。


激しい戦闘が続いた。


悠陽達は互いの動きを確認しながら、少しずつケルベロスを追い詰めていく。


「……悠陽(はる)!!」


優佑の声が響いた。


悠陽は地面を蹴り、一気に距離を詰めた。

そして、魔力を込めた一撃を放つ。


「いっけぇぇぇ!!」


凄まじい衝撃がケルベロスの巨体を貫いた。


「グァアアアアッ!!」


ケルベロスは最後の咆哮を上げると、地面へ崩れ落ちた。


「……はぁ……はぁ……」


紫苑はその場に膝をついた。


「……やった……?」


「……あぁ」


ギルドマスターは荒い息を吐いた。


「倒したみたいだな……」


「やったーー!!」


悠陽は嬉しそうに拳を振り上げた。


「……元気だね、悠陽(はる)。そんな弟もかわいい❤︎」


優佑は呆れたように笑った。

悠陽達はケルベロスが残したドロップ品を回収すると、部屋の奥へと視線を向けた。


そこには、さらに先へと続く通路があった。


「……まだ、先があるんだな」


紫苑が呟いた。


「……行こう」


優佑は静かに頷いた。

悠陽は仲間たちを振り返る。


「よーし!もうちょっとだ!!」


六人は再び歩き始めた。


目指すは、オーロラの石!!

残された時間は、残り三日。




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