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第16話 ダンジョンの妖精




色とりどりの花々に囲まれ、静かに座っている小さな妖精。

悠陽(はるひ)と凪(なぎさ)は、目の前の光景に思わず足を止めた。


「……ボス?」


悠陽が小声で尋ねる。


「……多分」


凪は杖を構えたまま、警戒するように妖精を見つめていた。

すると、妖精はゆっくりと顔を上げ、二人へ視線を向けた。


「……ふむ。貴様ら、よくここまで辿り着いたな」


小さな身体に似合わず、態度はデカイようだ。


「褒めてやろう。褒美をくれてやる。何が欲しい?」


「鉱石!」


悠陽は迷うことなく答えた。


「……そうか。鉱石か……」


妖精は満足そうに頷きかけたが、次の瞬間、勢いよく顔を上げた。


「……はぁっ!?」


「……ん?」


「なんでもよいのだぞ!?鉱石など、このダンジョンでは捨てるほど採れる!他にないのか!?」


「えーー?」


悠陽は困ったように首を傾げた。


「そんな急に言われても……鉱石取りに来たんだし」


「……ぐぬぬ……」


「それはそうだね」


凪は悠陽を見ながら頷いた。


「というか、君はボスじゃないの?」


「……ボス?」


妖精は顎に手を当て、少し考え込んだ。


「そうじゃな。ダンジョンボスというか……管理者じゃの」


「管理者、ですか?」


「そうじゃ」


妖精は小さな胸を張った。


「この世には、悪いことを企む輩が山ほどおる。だからこそ、この先へ通すかどうかは、わしが判断するのじゃ」


「そうなんですか」


「うむ。今まで通したのは……二人だったかのぉ」


妖精は指を折りながら数えた。


「じゃが!隠し部屋には、まだ誰一人として通しておらん!」


「えっへん!」


「……それは威張ることなんでしょうか」


凪が思わず笑った。


「うるさいわ!」


妖精は頬を膨らませると、改めて二人を見つめた。


「それで、貴様ら。何のために鉱石が欲しいんじゃ?」


「武器作るのに必要なんだって〜!」


悠陽は楽しそうに答えた。


「それとー、まぁ、いいのがあれば世話になってる人とかにあげようかなーとは思ってたけど」


「……ほぅ」


妖精は目を細めた。


「おぬしは本当に素直じゃな。嘘が一つもない」


「へへへー!」


「じゃが……」


妖精の視線が凪へと移った。


「隣の小僧は、ずっとわしを怪しんでおる」


悠陽は凪の方を向いた。


「凪、こいつなんか変なのか?」


「いや……変というか、まぁ、変なんだけど……」


「なんじゃと!?」


妖精がおもわず声を上げた。

しかし、すぐに表情を戻す。


「……まぁよい。おぬしの疑問はもっともじゃ」


妖精はふわりと浮かび上がった。


「おぬしらには、それほどでもなかったかもしれんが、このダンジョンの魔物はそこそこ強くてな。ここまで辿り着くことすらできん者の方が多い」


「……そうですね」


「それなのに、最後に待っているのが品定めのような問答。おかしいと思うのも無理はない」


「えぇ。それこそ、鉱石を渡したくないのなら、もっと強いボスを置けばいい話ですから」


「……そうじゃな」


妖精は小さく笑った。


「渡したくないのならば、な」


「…………」


「わしは、あやつと共に作り上げた美しいものを、それを渡してもよいと思える者に託したいのじゃ」


妖精はどこか懐かしそうに微笑む。


「そのために管理者として、ここへ来た者の品定めをしておる」


「……なるほど」


凪は少し考え込んだ。


「貴様が一人で来ていたなら、五十階層へだけ通して、そのまま帰しておったじゃろう」


妖精は凪を指さした。


「じゃが……」


続いて、悠陽へ視線を向ける。


「わしは、その素直な馬鹿を気に入ってしまった!」


「俺は馬鹿じゃない!!」


「細かいことはよい!」


「細かくねぇ!!」


妖精は悠陽の抗議を無視して、にやりと笑った。


「特別に、二人を五十一階層へ入れてやろう!」


「……五十一階層!?」


凪が驚いたように声を上げた。


「このダンジョンは五十階層までしかないはずじゃ……?」


「ふふん。表向きはな」


妖精は得意げに笑った。


「ついてこい!」




――第五十一階層


妖精に案内され、二人は隠された階層へと足を踏み入れた。


その瞬間、二人は言葉を失った。

そこは、洞窟の中とは思えないほど美しい場所だった。

天井は遥か高く、見上げれば無数の光が瞬いている。


まるで、満天の星空。


深い青色の闇に、小さな光の粒が散りばめられ、天の川のような光の帯がゆっくりと流れていた。

洞窟の壁には、透き通った水晶が無数に突き出している。


淡い青、紫、桃色。


それぞれの結晶が柔らかな光を放ち、互いの輝きを映し合っていた。

足元には青々とした草原が広がり、名前も知らない小さな花々が揺れている。


その間を、澄み切った川が静かに流れていた。


川底には色鮮やかな宝石が敷き詰められ、水面には天井の星々が映り込んでいる。

まるで、星空が地上にも広がっているかのようだった。

さらに、草原のあちらこちらには、巨大な宝石や鉱石が顔を覗かせていた。


真紅に輝く宝石。

深い青色を宿した結晶。

黄金色の鉱石。


そして、真珠のような白い光を放つ小さな球体。


どれも自然に生まれたとは思えないほど、美しく輝いていた。


「……きれい……」


凪は思わず呟いた。


「……すっげぇぇーー!!」


悠陽は目を輝かせながら、辺りを見回した。


「なんだここ!!めっちゃ綺麗!!」


「そうじゃろう!そうじゃろう!」


妖精は嬉しそうに胸を張った。


「えっへん!」


「これ、全部本物なの!?」


「もちろんじゃ!」


妖精は両手を大きく広げた。


「好きなだけ持っていってよいぞ!」


「……えっ!?」


凪が驚いたように振り返った。


「いいんですか?」


「あぁ。どうせ時間が経てば、また生成されるからの」


「……ほんとに!?」


悠陽は近くにあった宝石を手に取った。


「やったーー!!」


その宝石を光にかざし、嬉しそうに眺める。


「これさ!美稀にあげたら喜ぶかな!」


「……ふふっ。きっと喜ぶと思うよ」


「だよなーー!」


妖精はそんな二人を眺めながら、ふと真剣な表情になった。


「じゃが、あまり派手にばら撒くでないぞ」


「……ん?」


「この部屋にあるものは、この世界ではごく稀なものばかりじゃ。信頼できる者以外にむやみやたらと渡すな」


妖精は周囲の宝石を指さした。


「売れば、一生遊んで暮らせるほどの金が手に入るじゃろう。じゃが、それ故に争いが起きることもある」


「……そうですね」


凪は静かに頷いた。


「気をつけます」


「うむ」


「じゃあさ!!」


悠陽が勢いよく振り返った。


「ドワーフのおっさんに頼んで、武器ギラギラにしてもらおうぜ!!」


「……ギラギラ!?」


凪が吹き出した。


「いいね。でも、ギラギラはちょっと嫌かな……」


「えーー!かっこいいじゃん!」


「……ほどほどにね」


「ふふふっ」


妖精は楽しそうに笑った。


「よいのぉ。それは」


「そうだ!」


悠陽は妖精へ向き直った。


「武器できたら、見せに来るよ!」


「……っ!」


妖精は驚いたように目を見開いた。

そして、満面の笑みを浮かべる。


「……あぁ!見たいのぉ!」


「任せとけ!」


凪はそんな妖精を見つめ、ふと尋ねた。


「……妖精は、ダンジョンの外には出られないの?」


「……あぁ」


妖精は小さく頷いた。


「わしは、ここから出られんのじゃ」


「……そっか」


悠陽は少し考えるように首を傾げた。


「……一人で寂しくないか?」


「……ん?」


「ずっとここにいるんだろ?寂しくないのか?」


妖精は一瞬だけ目を丸くした。

しかし、すぐに穏やかに笑った。


「寂しくはないさ。たまにこうして、ダンジョンへ来た冒険者と話すからの」


「……そうなのか?」


「うむ」


凪は妖精の表情を静かに見つめていた。





「……おい!それだけでよいのか!?」


しばらく宝石を集めていると、妖精が突然声を上げた。


「……え?」


「もっと持っていけ!」


「……いや、もう十分なんだけど……」


「遠慮するでない!」


妖精は次々と宝石を集め始めた。

大粒のダイヤモンド。

色鮮やかな宝石。

美しい真珠。


それらを山のように積み上げていく。


「ほれ!これもじゃ!」


「……えっ!?」


「これも!これも持っていけ!」


「ちょ、ちょっと待って!?」


凪が慌てて声を上げた。


「そんなに持っていっていいんですか!?」


「よいと言っておろう!」


「……悠陽、どうしよう……」


「……とりあえず、しまっとく?」


「……う、うん……」


悠陽は次々と宝石を亜空間収納へしまっていった。




そして、しばらくすると――


「……よし!」


妖精は満足そうに額を拭った。


「取り尽くしたな!ふぅ!」


「……取り尽くしたって……」


凪は呆然と周囲を見渡した。


先ほどまで宝石が山のように積まれていた場所は、すっかり空になっていた。


「……これ……」


凪はぽつりと呟いた。


「僕たち、国作れちゃうんじゃないかな……」


「……何を言っておる」


妖精は不思議そうに首を傾げた。


「この大陸の国を全部買っても、お釣りが来るぞ?」


「…………」


凪は言葉を失った。


「……なんか、怖い……」


「ん?」


「そんなものが、こんなに簡単に大量に手に入るなんて……」


「……何を言っておる!」


妖精は腰に手を当てた。


「簡単に、ではないぞ!」


「……え?」


「おぬしらは数多の魔物を倒し、わしのところまで辿り着いたのじゃ!」


妖精は堂々と言い放った。


「そもそも、ここまで来られる者などほんの一握り。何パーティーも挑んで、ようやく一パーティーが辿り着けるかどうかという難易度じゃぞ!」


「……そうなんですか?」


「そうじゃ!それをヒーラーもなしに、たった二人で攻略した者など初めてじゃ!」


妖精は悠陽と凪を交互に見つめた。


「それだけでも、おぬしらには十分な報酬を得る資格がある!」


「……はぁ……」


「そして何より!」


妖精は胸を張る。


「貴様らは、このわしに気に入られたのじゃ!」


「……えぇ……」


「誇ってよいぞ!わしは人間が嫌いじゃからな!」


「ははははっ!!」


「……はぁ……」


凪は困ったように笑った。

一方、悠陽は大量の宝石を手に入れたことが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべていた。





「よし!では、五十階層へ戻るぞ!」


妖精が手を叩いた。


「貴様ら、鉱石がいるんじゃろ?」


「……あっ!」


凪が思い出したように声を上げた。


「そうだった!」


「危ねぇ!忘れるとこだった!」


「……ふふっ」


「なぁなぁ!!」


悠陽は妖精へ駆け寄った。


「ミスリルとかある!?」


「おぉ。あるぞ」


「……えっ!?」


悠陽の目が輝いた。


「すげーー!!本当にあんの!?」


「もちろんじゃ」


「やっべーー!!ほんとのミスリルってどんなんだろ!!」


悠陽は興奮した様子で両手を動かした。


「キラキラ!?ギラギラ!?それともテカテカか!?」


「……うーーむ」


妖精は少し考え込んだ。


「……キラキラかのぉ」


「あはははっ!」


凪は思わず笑い出した。




――第五十階層


妖精に案内され、二人は五十階層へと戻ってきた。

そこには、様々な鉱石が埋まった岩壁が広がっていた。


「……うおーー!!」


悠陽は目を輝かせながら駆け寄った。


「これ!!これもらっていいの!?」


「おぅ!持っていけ!」


妖精は豪快に笑った。


「全部採っていってもよいぞ!どうせまた生成される!」


「やったーー!!」


凪は笑いながら採掘の準備を始めた。

二人は必要な鉱石を探しながら、次々と採掘していった。


ミスリルをはじめ、見たこともない色や輝きを持つ鉱石。

それらを悠陽が亜空間収納へしまっていく。

そして、十分な量を集め終える頃には、二人とも満足そうな表情を浮かべていた。


「よーーし!!これで武器作れるな!」


「そうだね!」


「おっちゃん、どんなの作ってくれるかなぁ!」


「楽しみだね」





「じゃあ!武器できたら見せに来るな!」


悠陽が元気よく手を振った。


すると、妖精は不思議そうに首を傾げた。


「……じゃが、おぬしら、またダンジョンを下りてくるのか?」


「……ん?」


「わしに武器を見せるためだけに、ここまで来るつもりか?」


「……??」


悠陽はきょとんとした顔で答えた。


「ワープで飛んでくるつもりだけど?」


「……ほぅ」


妖精は感心したように頷いた。


「おぬし、空間魔法も使えるのか」


「うん!!」


「……じゃが、ダンジョン内へワープすることはできんぞ」


「……え?」


悠陽の笑顔が固まった。


「……なんで?」


「……馬鹿か!」


妖精は呆れたようにため息を吐いた。


「空間魔法を使える者が少ないとはいえ、そんな簡単に外からダンジョン内へ入れたら、鉱石があんな高値で取引されるわけがなかろう!」


「……あっ」


「……それもそうか」


凪も納得したように頷いた。


「……えぇぇぇええーー……」


悠陽は残念そうに肩を落とした。

妖精はそんな二人を見つめ、しばらく考え込んだ。


「……はぁ。仕方ないのぉ」


「……ん?」


「これをやろう」


妖精はどこからともなく、一つの鍵を取り出した。


「……鍵ですか?」


凪が首を傾げた。


「あぁ。そうじゃ」


妖精は鍵を眺めながら、静かに話し始めた。


「この鍵は、元々わしとあいつしか持っておらんかった」


「……あいつ?」


「じゃが、あいつがいなくなってからは、二つともわしの手元にあったのじゃ」


妖精は凪へ鍵を差し出した。


「一つ、くれてやる」


「……えっ!?」


「空間魔法を使える者が、この鍵を空間へ突き出し、扉が開くところを思い浮かべるのじゃ」


「……扉?」


「そうじゃ。そうすれば、このダンジョンの五十一階層へ繋がる」


「……そんなことが……」


凪は驚いたように鍵を見つめた。


「それから、その鍵はおぬしが持っておれ」


妖精は凪を指さした。


「そっちの馬鹿は、なくしそうでいかん!」


「……なんで俺が鍵持っちゃダメなんだよーー!」


悠陽が不満そうに声を上げた。


「お前は落とすじゃろう!!」


「落とさないよ!!」


「いーーや!お前は絶対に落とす!」


「落とさねぇって!!」


「……あはははっ!」


凪は二人のやり取りを見て笑った。


「……わかりました。僕が預かっておきます」


「うむ!絶対に落とすでないぞ!」


「はい!」


「それと、仲間以外は連れてくるなよ!」


「……わかりました!」


凪は大切そうに鍵をしまった。





「……あっ、そうだ!」


悠陽が何かを思い出したように顔を上げた。


「ダンジョンの中からはワープできるのか?」


「……あぁ。できるぞ」


「そっか!」


悠陽は嬉しそうに笑った。


「ありがとう!」


「……ふん!」


妖精は少し照れくさそうに顔を背けた。


「たまには、お話ししに来ますね」


凪が優しく微笑んだ。


「……あぁ」


妖精は二人を見つめながら、耳を赤らめた。


「まぁ、おぬしらなら……歓迎してやる」


「じゃあな!!また来るからな!!」


悠陽が大きく手を振った。

凪も小さく手を振る。


そして、悠陽が空間魔法を発動させると――


――ぽわんっと二人の姿は、その場から消えた。





静まり返ったダンジョン


妖精は、先ほどまで二人が立っていた場所を眺めていた。


「……ふっ」


小さく笑い、頬杖をつく。


「あいつと同じ……異世界人か」


妖精はどこか懐かしそうに目を細めた。



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