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第13話 教師と再会



数日間馬車に揺られ、悠陽(はるひ)達はようやく王都に到着した。

大きな門を潜ると、そこにはこれまで訪れた街とは比べものにならないほど賑やかな街並みが広がっていた。


「わぁぁ!すっげぇ!!」


悠陽は馬車の窓に張りつき、目を輝かせた。

大通りには多くの人々が行き交い、両脇には様々な店が立ち並んでいる。


「さて、君たちはどうするんだい?」


公爵様が悠陽達に尋ねた。


「このまま私の屋敷へ来てもいいんだが、少し離れていてね。繁華街へ行くなら、ここで降りた方が近いんだ」


「そうなんですか?」


「あぁ。本当なら送ってあげたいところなんだけど、屋敷へ戻って済ませなければならない用事があるんだよ」


「いえ!ここで大丈夫です!ありがとうございます!」


優佑(ゆうすけ)が笑顔で答えた。


「それに、王都に滞在している間、お屋敷に泊めていただくことになってしまって……」


凪(なぎさ)が申し訳なさそうに頭を下げる。


「そんなこと、気にしなくていいんだよ。君たちには随分と世話になったからね。そうだ!今夜はここで待ち合わせをしよう。とても美味しい店があるんだ。ぜひご馳走させてくれ」


公爵様は微笑んだ。


「やったー!!」


悠陽が嬉しそうに両手を上げた。


「公爵様」


執事が一枚の紙を差し出す。


「あぁ、ありがとう」


公爵様はそれを受け取ると、凪へ手渡した。


「これは王都の地図だよ。少し入り組んだ道もあるから、迷子にならないように気を付けなさい」


「はい!ありがとうございます!」


悠陽達は馬車を降り、公爵様と執事に手を振った。


「それじゃあ、また夜に」


「はーい!!」


馬車が走り去るのを見送ると、悠陽は早速、皆を振り返った。


「よーし! まずはドワーフのおっちゃんが言ってた親戚の鍛冶屋に行こっか!」


「あぁ、そうしよう」


紫苑(しおん)が頷く。


「ふふっ、楽しみですね!」


美稀(みずき)も嬉しそうに微笑んだ。

凪が地図を広げ、目的地を探し始めた、その時だった。




パタパタパタッ――


遠くから慌ただしい足音が聞こえてきた。


「あなたたち!!」


「……ん?」


悠陽が振り返ると、一人の女がこちらへ駆け寄ってきていた。


「……えっ!?」


凪が目を見開いた。


「……高橋先生!?」


「えっ!?先生!?」


悠陽たちも驚いて顔を上げた。

そこにいたのは、元の世界で悠陽達が通っていた学校の女教師、高橋(たかはし)杏(あんず)、国語教師だ。


「よかった……!やっぱり、あなたたちだったのね……!」


杏は息を切らしながら、五人の顔を順番に見つめた。


「五人……?あなたたち、五人で一緒にいるの?」


「えぇ。五人で旅をしています」


優佑が答えた。


「そう……そうなのね……!」


杏は安心したように胸を押さえた。


「怪我はない!?みんな、無事なの!?」


「先生、安心してください!怪我はありませんよ!」


美稀が笑顔で答える。


「……よかった……」


杏の目から、ぽろぽろと涙がこぼれ始めた。


「本当に……よかったぁ……!」


「えぇっ!?杏ちゃん、泣かないでよぉ!」


悠陽が慌てて声をかける。


「ねぇ、高先(たかせん)!他の先生たちは!?」


紫苑が辺りを見回しながら尋ねた。


すると、杏の表情が曇った。


「……っ……」


「……先生?」




「他の先生方は、みんな亡くなったよ」


背後から、聞き覚えのある声がした。


「俺達と校長先生以外はね」


振り返ると、そこには一人の男が立っていた。


「……先生!!」


「やぁ。みんな、久しぶり」


男教師は穏やかに微笑んだ。

近藤(こんどう)勇雄(いさお)、体育教師だ。




「そ、そんな……!」


美稀が口元を押さえる。


「先生方が……全員亡くなられたんですか……?ど、どうして……」


「……話すと長くなるからね」


勇雄は周囲を見回した。


「ここじゃ通行の邪魔になるし、少し場所を変えようか」


悠陽たちは黙って頷いた。





勇雄に案内され、一行は近くの飲食店へと入った。

奥の席に腰を下ろすと、勇雄は何か魔法を使った。

すると、淡い光が周囲を包み込み、すぐに消えた。


「……おおっ!?」


悠陽が目を輝かせた。


「いさっち、今の何!?」


「ん?あぁ、結界だよ。周りに話が聞こえないようにしたんだ」


「すっげぇ!!いさっち、そんなことできんの!?」


「おぉ!すごいだろう?」


勇雄は得意げに笑った。


「あなた達は、今までどうしていたの?」


杏が五人へ尋ねた。


「んーとね……あっ!」


悠陽は何かを思い出したように手を叩いた。


「写真見る!?」


「……写真?」


杏が首を傾げる。


「でも、スマホは使えないでしょう?」


「あ、それがですね。悠陽が魔法を色々試して、スマホを充電できるようになったんです」


「……えっ!?」


「電波がないので連絡を取ったりはできませんけど、写真を撮ったり、保存してあるものを見るくらいならできるんですよ」


「おおっ!すごいじゃないか、悠陽!!」


勇雄が感心したように声を上げた。


「そうなんです!!」


優佑が嬉しそうに身を乗り出す。


「僕の弟、すごいんですよ!!自慢の弟なんです❤︎」


「はははっ!お前は相変わらずだなぁ!」




悠陽は嬉しそうに笑いながら、スマートフォンを取り出した。

それから五人は、撮り溜めた写真を見せながら、これまでの出来事を先生たちに話した。


最初に訪れた街のこと。

冒険者になった時こと。様々な人々と出会い、魔物と戦ったこと。


そして、優佑達と合流した街のことも。


「……そう。じゃあ、さっき一緒にいた方は公爵様だったのね」


「はい。とても親切にしていただいているんです」


凪が頷くと、杏は優しく微笑んだ。


「本当に……あなたたちが無事でよかったわ」


「あぁ。本当によかった」


勇雄も静かに微笑んだ。




「……そうだ。先生」


「ん?」


「さっき、他の先生方が亡くなったとおっしゃっていましたよね」


「……あぁ」


「一体、何があったんですか?」


杏は黙って俯いた。


「…………」


勇雄はそんな杏を一度見つめると、静かに口を開いた。


「……あぁ。俺が話そう」





――異世界へ転移した、あの日


学校が丸ごと異世界へ転移し、女神から一時間後に校舎が消滅すると告げられた直後のことだった。

教師達は急いで職員会議を開いた。


突然の出来事に誰もが混乱していたが、まずは生徒達の安全を確保しなければならなかった。

話し合いの結果、十人の教師が校舎に残り、まだ建物の中にいる生徒たちへ避難を呼びかけることになった。


他の教師たちは、何かあった時に備え、先に校舎の外へ避難した。

残った十人の教師は、校内放送などを使って何度も生徒たちへ呼びかけた。


しかし、校舎に残っていた生徒たちは、その言葉に耳を貸そうとしなかった。

突然異世界へ飛ばされ、女神から信じられない話を聞かされたばかりだったのだ。

教師たちの言葉を信じられなかった者もいれば、どうすればいいのかわからず、その場から動けない者もいた。

教師達は校内を走り回り生徒達に声を掛け続けた。



そして、約束の時間が訪れた。


凄まじい轟音とともに、校舎が消えた。

地面が大きく揺れ、周囲には土煙が立ち込めた。

学校があった場所には、巨大なクレーターが残されていた。


外へ避難していた教師たちは、しばらくその光景を呆然と見つめていた。

やがて、恐る恐る学校のあった場所へ戻った。


そこには焼けた跡が残っていたものの、校舎の瓦礫はおろか、遺体さえ見つからなかった。

あれほどの爆発だったとしても、何も残らないものなのだろうか。


誰もがそう疑問に思った。


だが突然、空から巨大な影が現れた。


「……な、なんだ……?」


見上げると、数頭の巨大なドラゴンが飛んでいた。


「ドラゴン……!?」


教師達は恐怖に顔を引きつらせた。

そのうちの一頭が、大きな翼を広げて地上へ降りてきた。


「う、うわぁぁ!!」


数人の教師が腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。

ドラゴンが鋭い爪を振り上げる。




その瞬間――


校長が教師たちの前へ飛び出した。

鋭い爪が校長の肩を深く抉った。


大量の血が流れ落ちる。


「校長先生!!」


杏が悲鳴を上げた。



次の瞬間。


「う、うわぁぁぁ!!」


教頭が一目散に逃げ出した。

それに続くように、他の教師達も次々と走り出す。


「待ってください!!」


勇雄が叫んだが、誰も足を止めなかった。


ドラゴンが、逃げ出した教師達の方へ顔を向けた。

大きな翼を広げ、地面を蹴る。


「……っ!?」


ドラゴンは逃げ惑う教師達へ襲いかかった。

悲鳴が響き渡る。

教師達は抵抗することもできず、次々と命を落としていった。


「……いや……いやぁぁぁ!!」


杏はその場に泣き崩れ、立ち上がることさえできなくなってしまった。


「……二人とも……」


肩を押さえながら、校長が声をかけた。


「私が何とかする。君達は逃げなさい……!」


「そんな!校長先生を置いて逃げられません!!それに、彼女はもう立てる状態じゃありません!」


「しかし……」


「俺も戦います!」


勇雄は杏を庇うように立ち、ドラゴンへ向き直った。

勝てる見込みなど、無かったが、校長を置いて逃げることなどできなかった。



その時


――ピィィィ……


遠くから、笛のような音が聞こえてきた。

ドラゴンたちが一斉に顔を上げた。

そして、まるで何かに呼ばれたかのように翼を広げ、空へと飛び去っていった。


「……え……?」


勇雄は呆然と空を見上げた。




「……それからは大変だったよ」


勇雄は小さく息を吐いた。


「とにかく校長先生の怪我がひどくてさ。急いで近くの街を探したんだ」


「……そんなことが……」


美稀が悲しそうに呟いた。


「幸い、街は見つかったんだけど、今度はお金がなくて困ってたよ。こっちの世界じゃ、日本のお金なんて使えないだろう?」


「……確かに」


「だから俺は冒険者になったんだ。魔物を倒したり、依頼を受けたりして、お金を稼いだよ」


「いさっちも冒険者なんだ!!」


悠陽が嬉しそうに声を上げた。


「あぁ。校長先生の治療費も必要だったし、食費や移動費も稼がないといけなかったからね」


勇雄は隣の杏をちらりと見た。


「高橋先生はしばらく、部屋に引きこもっていたからね」


「……すみません……」


「いやいや、責めてるわけじゃないよ」


勇雄は慌てて手を振った。


「それから、俺達は他の生徒たちを探すことにしたんだ」


「……生徒を?」


「あぁ。学校に残っていた生徒たちは、七割近く居た。その子たちは、もう亡くなってしまったと思っている。

だからせめて、外へ避難していた生徒たちの安否だけでも確認したくてね」


「……」


「王都なら情報が集まるかもしれないと思って、三人でここまで来たんだ」


「そうだったんですね……」


「それで、校長先生と一緒に、この国の王様にも事情を話したんだよ」


「……王様!?」


悠陽が目を輝かせた。


「いさっち王様に会ったの!?」


「あぁ。すごく気のいい方でね。何人か心当たりがあるらしくて、今後も情報が入り次第教えてくれるって言ってくれたんだ」


「へぇぇ!!」


「それで、今は校長先生と将棋をしてるよ」


「……将棋?」


凪が首を傾げた。


「そう。どうやらこの世界は娯楽が少ないらしくてね。異世界から来たって話をしたら、王様が『何か面白い話はないのか』って、色々聞いてきたんだよ」


「それで?」


「俺が将棋を作ってあげたんだ」


「えっ!?将棋を!?」


「そうしたら、王様がすっかりハマっちゃってね!今じゃ校長先生、一日の半分くらい王様に拘束されてるよ!」


「……校長先生……少しかわいそうですね」


凪と美稀は苦笑をした。


「はははっ!まぁ、本人も楽しそうだから大丈夫だろう!」




「……だけど、本当に大変だったんですね」


「あぁ。色々あったよ」


「……そうだ!!」


突然、悠陽が声を上げた。


「先生たち!これあげるよ!!」


そう言って、悠陽は空間収納からいくつもの素材を取り出した。


「……え?」


テーブルの上には、ドラゴンの鱗やウルフの毛皮など、様々な魔物の素材が並べられていた。


「ちょ、ちょっと……これ……!」


杏と勇雄は驚いたように身を乗り出す。


「ドラゴンの鱗……!?それにウルフの毛皮……こっちは……!」


「いさっち、一人でお金稼ぐの大変っしょ!これ売ったら、当分の資金になると思うよ!」


「……悠陽くん……」


杏はしばらく素材を見つめながら、静かに首を横に振った。


「……だめよ。受け取れません」


「……え?なんで?」


悠陽が首を傾げる。


「私も、いつまでも近藤先生に頼っていてはいけないと思っています。でも、それとこれとは違うの」


「……?」


「これは、あなたたちが命懸けで手に入れたものでしょう?それを、そんな簡単に人へ渡してはいけません」


「……高橋先生……」


「私は……あなたたちの教師で、大人なのに……命を懸けて戦うことが……恐ろしくて……怖くて……」


杏はぽろぽろと涙を流した。


「今でも、街の外へ出ることさえ……ままならないんです……あの日の光景が……頭に焼きついて……離れないの……」


杏は涙を拭いながら俯いた。


「……私は……自分が情けない……恥ずかしい……」


「……高橋先生……そんな事は……」


勇雄が心配そうに杏の背中をさする。

悠陽は不思議そうに首を傾げた。


「……杏ちゃん?」


「……っ……」


「恥ずかしくないよ」


杏はゆっくりと顔を上げた。


「……え……?」


「俺だって、こっちに来てから不安なこと、いっぱいあったよ!でも、凪や美稀がいたから寂しくなかったし、二人が後ろにいてくれたから、俺は戦えたんだ!」


「……悠陽くん……」


「俺だって、戦う時はいまだに怖いよ!でも、怪我したら美稀が治してくれるし!」


美稀が驚いたように目を見開いた。


「それに、何があっても凪がサポートしてくれる!」


「……悠陽……」


「凪は頭いいからさ! 俺が考えてないことも、いっぱい考えてくれるんだ!」


凪は少し照れくさそうに視線を逸らした。


「……それにね。兄ちゃん達と合流した時、最初は兄ちゃん、死んでたんだよ」


「……え……?」


杏が息を呑んだ。勇雄も驚いて優佑を見た。


「……死んでた……?」


「うん。その時、頭の中が真っ白になって……この世界に絶望したし、色んな人のことも恨んだ。でもさ!」


悠陽はぱっと顔を上げた。


「この世界にも、温かい人っていっぱいいるんだよ!」


「……」


「すっげぇ人とか! めっちゃ気のいい人とか!」


悠陽は楽しそうに笑った。


「嫌なことばっかじゃないんだなって思った!」


「……悠陽くん……」


「それに、この世界で出会ったおっちゃんのおかげで、兄ちゃんとまた一緒に生きていられるんだ!」


優佑は、嬉しそうに微笑んだ。


「それでね! 兄ちゃんと紫苑が合流してから、俺、もうできないことなんて何もないんじゃないかって思ってるんだ!」


「……え……?」


「一人じゃだめなんだよ!」


悠陽は杏をまっすぐに見つめた。


「自分にできることをやって、みんなで支え合えば……最強で最高なんだよ!!」


「…………」


杏はただ、目の前で笑う悠陽を見つめていた。


「だからさ、杏ちゃん!」


悠陽はテーブルの上に置かれた素材を指さした。


「受け取ってよ!」


「……でも……」


「先生、言ってたじゃん!」


「……え?」


「人は支え合って生きてるんだーって!俺は外に行けば、こんな素材なんてすぐ集めてこられるし!」


悠陽は得意げに笑った。


「それに、まだまだいっぱいあるしね!」


「……っ……」


「だから、先生たちに使ってほしいんだ!あんまり足しにならないかもしれないけど……」


「……悠陽くん……」


「そうですよ、先生」


凪が優しく微笑んだ。


「使ってください」


「私もそう思います!」


美稀も身を乗り出した。


「先生!ぜひ受け取ってください!」


そして、何かを思いついたように手を叩いた。


「そうだ!気分転換に、王都でショッピングしませんか!?」


「……え?」


「しましょう!絶対楽しいですよ!」


「……美稀さん……」



「先生、受け取っときなよ!」


紫苑が笑った。


「そうですよ。悠陽(はる)がここまで言ってるんですから」


紫苑に続いて優佑も頷く。


「……っ……」


杏は口元を押さえた。堪えていた涙が、再び溢れ出す。


「……みんな……」


「……うん……」


杏は何度も頷いた。


「……ありがとう……」


そして、悠陽たちへ深く頭を下げた。


「本当に……ありがとう……!」


涙を流しながら、優しく微笑む。


「……大事に使わせてもらうね……!」


「うん!!」


悠陽は満面の笑みで頷いた。





先生たちと別れた後、悠陽たちは王都の大通りを歩いていた。


「……なぁ、悠陽(はる)」


「ん?」


紫苑が呆れたように口を開いた。


「お前、あんな恥ずかしいこと、よく堂々と言えるな……」


「……え?」


悠陽はきょとんとした。


「恥ずかしいこと?」


「……」


「俺、なんか言ったっけ?」


「……はぁ……」


凪が大きくため息をついた。

すると、優佑が嬉しそうに悠陽へ抱きついた。


「お兄ちゃんは、悠陽がお兄ちゃんのこと大好きなの、よーく伝わったよ❤︎」


「えっ!? 兄ちゃん!?」


「お兄ちゃんも悠陽のこと、大好きだよぉ❤︎」


「ちょっ!歩きにくいって!!」


「私もすごく嬉しかったです!」


美稀も笑顔で言った。


「これからも、悠陽君が怪我をしたら、私が絶対治しますね!回復、頑張ります!」


「うん!ありがとー!」


「……なぁ」


紫苑が少し不満そうに口を尖らせた。


「俺のことも、なんか言ってほしかったなー!」


「……え?」


悠陽は不思議そうに首を傾げた。


「……???」


その様子を見て、凪は再びため息をついた。

賑やかな五人の声が、王都の大通りに響いていた。


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