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第12話 職人の街




漆黒のドラゴンが飛び去った後、魔族の男もいつの間にか姿を消していた。

転移魔法で逃げたのだろうか。




「おい!!早くミズキを起こせ!!ハルヒの治療を急げ!!」


ギルドマスターの怒鳴り声が響いた。


「は、はい!!」


紫苑(しおん)は慌てて美稀(みずき)のもとへ駆け寄った。

美稀は先ほどレッドドラゴンの攻撃を受けてから、意識を失ったままだった。


「美稀ちゃん!おい、美稀!!」


紫苑が何度も呼びかけると、美稀はゆっくりと目を開けた。


「……あれ……私……」


「美稀ちゃん、悠陽(はる)が大変なんだ!早く治療してやってくれ!!」


「……っ!?悠陽(はるひ)君!?」


美稀は飛び起きると、凪(なぎさ)に抱えられた悠陽(はるひ)のもとへ駆け寄った。


「……そんな!」


悠陽の顔は血に濡れ、意識もない。

美稀はすぐに治癒を始めた。光が悠陽の身体を包み込む。


「……お願い!」


美稀は祈るように呟きながら、治療を続けた。

しばらくして、悠陽の容体が少し落ち着いて、美稀は顔を上げた。


「ギルドマスターさんと、お兄さんも治療しないと……!」


「あぁ、頼む」


「……ありがとう、美稀ちゃん」


優佑(ゆうすけ)は悠陽を見つめたまま、小さく礼を言った。

美稀が二人の治療を始めると、凪はギルドマスターへと向き直った。


「あの……ギルマスさん……」


「ん?」


「さっきの悠陽(はる)は……一体……」


紫苑も不安そうに顔を上げる。


「あぁ、俺も気になってました。何か知ってるんですか?」


ギルドマスターは少し考えるように腕を組んだ。


「……あぁ。おそらくだが、あれは魔力の暴走だろうな」


「魔力の……暴走?」


「俺の知っているものとは少し違ったから、確証はないが。おそらく、こいつは自分の肉体に見合わないほど膨大な魔力を持っているんだろう。それを今までは無意識に抑えていたんだ」


「……抑えていた?」


「あぁ。だが、感情が大きく揺さぶられたことで、その魔力を一気に解放してしまったんだろうな」


ギルドマスターは険しい表情で続けた。


「本来なら、少しずつ身体を慣らしていけばいい。だが、あれほどの魔力を一度に放出したとなれば、肉体への負担は相当なものだ」


「……それって……」


優佑が顔を上げる。

ギルドマスターは静かに頷いた。


「あぁ。下手をすれば、死んでいたぞ」


「……っ!」


「そんな……」


美稀の手が一瞬止まった。

凪も紫苑も、言葉を失っていた。


「……悠陽(はる)」


凪は悠陽の手をぎゅっと握り締めた。


「今後は、こいつに魔力の扱い方を教える必要がありそうだな。また同じことが起きれば、次も助かるとは限らん」


「…………」


優佑は何も言わず、ただ、悠陽の顔を見つめていた。


「まぁ、必要以上に心配するな。少しずつ大量の魔力を放出する訓練をして、身体を慣らしていけばいい」


ギルドマスターは皆を安心させるように声を上げた。


「よし! 応急処置が終わったら、ドラゴンを回収して街へ戻るぞ!」


「……はい!」


その後、優佑は空間魔法を使い、討伐したドラゴンと、漆黒のドラゴンが落としていった鱗を回収した。

一行は街へと戻ったが、誰も普段のように笑うことはなかった。


重苦しい沈黙が流れていた。





――それから、二十日後。


「……ん……」


悠陽はゆっくりと目を開けた。

見慣れない天井が視界に入る。


「……あれ……?」


身体が重く、頭もぼんやりとしていて、何があったのかすぐには思い出せなかった。


「……ここ、どこ……?」


悠陽は辺りを見回した。

豪華な家具が並び、広々とした部屋だ。

公爵の計らいで用意された、屋敷の客室だった。


悠陽はあの戦いの後、二十日間も眠り続けていた。


魔力の暴走による反動で高熱が続き、美稀の治療を受けても、なかなか目を覚まさなかったのだ。

ふと、悠陽はベッドの横に目を向ける。


そこには、椅子に座ったまま眠っている優佑の姿があった。

布団に顔を伏せ、すっかり疲れ切った様子で眠っている。


「……兄ちゃん?」


悠陽が小さく呟いた、その時だった。



ガチャッ。


「優佑兄(ゆうにい)、ご飯持ってきたよ……って……」


部屋に入ってきた凪と目が合った。


「あ、凪。おはよー」


「…………」


凪は目を見開いたまま、固まっていた。


「……凪?」


ガシャァァン!!


「うわっ!?」


凪の手から食事の載った皿が滑り落ちた。

床にぶつかり、派手な音を立てて割れる。


「な、凪!?」


「……は……る……?」


凪の目に、みるみる涙が溜まっていく。


「……悠陽(はる)ぅぅ!!」


「うわっ!!」


凪は勢いよく駆け寄ると、そのまま悠陽に抱きついた。


「よかったぁぁ!! 本当に……よかったぁ……!」


「えっ!?ちょ、凪!?どうしたんだよ!?」


「僕のせいで……ごめん……!ごめんね……!ありがとう……!」


「……え?」


凪は悠陽にしがみついたまま、声を上げて泣き始めた。


「うぅ……よかったぁ……!」


「……凪?」


すると、さっきの皿が割れた音で目を覚ましたのか、優佑が勢いよく顔を上げた。


「……っ!?悠陽(はる)!?」


「……あ、兄ちゃん。おはよー」


「…………」


優佑はしばらく悠陽を見つめていた。



「悠陽ぅぅう!!」


「うわぁっ!?」


凪ごと、ぎゅうっと抱きしめた。


「よかった……!よかったよぉ……!」


「えっ!?兄ちゃんまで!?」


「心配したんだぞぉ……!二十日も……二十日も寝てたんだ……!」


優佑の声が震えている。


「もう……もう起きないんじゃないかって……!」


「……兄ちゃん……」


「うわぁぁん!悠陽ぅ!!」


「はるぅぅ……!」


「ちょっ!二人とも!!」


悠陽は思わず笑ってしまった。


「あはははっ!!二人とも泣きすぎ!!」


「誰のせいだと思ってるの!!」


「そうだぞぉ!!兄ちゃん、どれだけ心配したと思ってるんだぁ!!」


「ご、ごめんってば!!」


二人に抱きしめられながら笑っていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。


「おい!!今すげぇ音したけど、何かあったのか!?」


「大丈夫ですか!?」


紫苑と美稀が部屋へ飛び込んできた。

そして、ベッドの上で優佑と凪に抱きしめられている悠陽を見て、二人とも動きを止めた。


「……悠陽(はる)?」


「……悠陽(はるひ)君……?」


「おはよー!」


悠陽が手を振ると、紫苑は大きく息を吐いた。


「……はぁぁ……マジかよ……!」


美稀も胸に手を当て、ほっとしたように微笑んだ。


「……よかった……本当によかったです……!」




「私、ギルドマスターさんと公爵様に伝えてきます!」


「おう!頼む!」


紫苑が答えると、美稀は急いで部屋を飛び出していった。

それからすぐ、ギルドマスターと公爵も駆けつけてくれた。


「おお!ハルヒ!目が覚めたか!!」


「ハルヒくん!よかった。本当に心配したんだよ」


「えへへ……ご心配おかけしました!」


公爵は安心したように微笑んだ。

その日は、悠陽が目を覚ましたお祝いだと言って、皆でちょっとしたパーティーを開いた。

美味しい料理もたくさん用意され、久しぶりに皆で笑いながら過ごした。


優佑と凪は何度も悠陽に抱きついては、涙を流していた。





――その日の夜。


「悠陽。今日はお兄ちゃんと一緒に寝ようね❤︎」


「……え?」


「一緒に寝ようね❤︎」


「いや、兄ちゃん。俺もう子供じゃ……」


「一緒に寝ようね❤︎」


「……はい」




結局、優佑がどうしても一緒に寝ると言って聞かなかったため、二人は同じベッドで眠ることになった。


「……ほんと、よかったよ」


隣に横になった優佑が、ぽつりと呟いた。


「悠陽がいなくなったら、僕の生きがいもなくなっちゃうからな……」


「……兄ちゃん」


悠陽は優佑の方へ寝返りを打った。


「そんなこと言うなよ」


「……ん?」


「俺さ、今までずっと兄ちゃんが親みたいな感じだったじゃん?」


「……うん」


「たった五歳しか違わないのに、兄ちゃんがずっと頑張ってくれてたこと、俺ちゃんと知ってるよ」


優佑は黙って悠陽を見つめていた。


「だからさ、俺は兄ちゃんが楽しく、幸せに生きててくれたら、それだけで嬉しいよ」


「…………」


「兄ちゃん?」


「……悠陽(はる)」


優佑の目から、ぽろぽろと涙がこぼれ始めた。


「……うぅ……悠陽(はる)ぅ……!」


「うえっ!?また泣くの!?」


「だってぇ……!悠陽(はる)がそんなこと言うからぁ……!」


優佑は鼻をすすりながら、悠陽をぎゅっと抱きしめた。


「……じゃあ……」


「ん?」


「二人で幸せになろうか❤︎」




――カーン、カーン。


悠陽の頭の中で、なぜか結婚式の鐘が鳴り響いた。


「……え?」


「ずっと一緒にいようね❤︎」


「いやいやいや!!そういうことじゃないから!!」


「えぇ〜?兄ちゃんと一緒は嫌?」


「……別に嫌じゃないけど……」


「じゃあ、ずっと一緒にいようね❤︎」


「……うん」


「悠陽(はる)、大好きぃぃ❤︎」


「うわっ! 兄ちゃん苦しいって!!」


そんな二人のやり取りは、夜遅くまで続いた。





――翌朝


朝食を終えた悠陽たちは、公爵様に呼ばれていた。


「君たち、これから王都へ向かうんだろう?」


「はい!」


「それなら、私と一緒に馬車で王都へ向かわないかい?」


「えっ!?」


紫苑と美稀が驚いた声を上げた。


「いいんですか!?」


「ですが……私たちなんかが、公爵様と同じ馬車で移動してもよろしいのでしょうか……?」


美稀が遠慮がちに尋ねると、公爵は微笑んだ。


「もちろんだよ。私の執事も君たちとすっかり仲良くなったようだしね。大勢で旅をするのも楽しいだろうと思って」


「ありがとうございます!」


すると、凪が何かを思い出したように口を開いた。


「あの……ですが、この先にドワーフの街があると聞いたんです」


「ドワーフの街?」


「はい。僕たち、ちゃんとした武器を持っていないので、そこでドラゴンの素材を使って武器を作ってもらおうと思っていて……」


「なるほど」


公爵が頷くと、傍に控えていた執事が口を開いた。


「公爵様。でしたら、帰りはいつもの街を通らず、ドワーフの街を経由して王都へ向かわれてはいかがでしょうか?」


「おお! それがいいね!」


公爵は嬉しそうに手を叩いた。


「君たちはどうだろう?」


凪が皆を振り返る。


「どうする?」


「いいんじゃない?ドワーフの街に寄れるならさ!」


悠陽は少し考えてから続けた。


「武器だけ頼んで王都に行ってもいいし。どうせワープで戻れるしね!」


「そうだね」


優佑も頷いた。


すると、公爵が不思議そうに首を傾げた。


「……ワープ?」


「あっ!」


「君たち、ワープとは何だい?」


凪が慌てて説明する。


「あ、空間魔法のことです。転移魔法みたいなものですね」


「……転移魔法!?」


公爵が目を丸くした。


「君たちは、そんな魔法まで使えるのかい!?」


「使えるのは悠陽と優佑兄だけですけどね」


「一回行ったところなら、また行けるよー!」


悠陽が元気よく答えると、公爵は感心したように笑った。


「ほう……すごいね。君たちは本当に、私の予想を遥かに超えていくよ!」


「へへへ!」


「出発はいつでも構わないからね。君たちで決めてくれたまえ」


相談した結果、悠陽たちは二日後に出発することにした。





――出発の日。


「おーい!!悠陽(はる)!」


街の出口では、ギルドマスターが待っていた。


「はい?」


「お前、王都に着いたらここへ行け」


そう言って、一通の封筒を差し出してきた。


「紹介状だ。それと、これは個人的な頼みなんだが……」


ギルドマスターは、さらに小さな箱を取り出した。


「この箱も一緒に渡してくれ」


「おっけー!わかった!」


悠陽は紹介状に書かれた名前を見た。


「……王都魔法学園?」


「あぁ、そうだ」


ギルドマスターは真剣な顔で悠陽を見つめた。


「お前は、もう少し魔力の扱い方を勉強しておいた方がいい。またこの間みたいなことが起きて、無事で済むとは限らんからな」


「……はい」


「それに、その学園には俺の姉がいるんだ」


「お姉さん?」


「あぁ!そいつに箱を渡してくれ。うまいことおだてりゃ、すげぇ魔法も教えてくれるかもしれんぞ!ワハハハッ!!」


「……?」


悠陽はよくわからないまま頷いた。


「はい!」


「あー、そうだ!」


ギルドマスターは何かを思い出したように、優佑と紫苑へ顔を向けた。


「お前らにも、騎士学園の紹介状を書いてやろうか?」


「えっ!?」


「そっちには俺の親友がいてな!なかなか腕の立つ奴なんだ!」


「いいんですか!?」


優佑と紫苑が声を揃えた。


「もちろんよ!」


「お願いします!!」


「おう!任せとけ!!」


ギルドマスターは豪快に笑った。

そして、用意してくれていた紹介状を二人へ手渡した。


「気をつけて行けよー!」


「はーい!!」


悠陽たちは馬車に乗り込み、ギルドマスターに手を振った。


「俺も近々王都へ行くからよ!その時はまた会おうぜ!」


「うん!またねー!!」


こうして悠陽達は、公爵様とともに街を後にした。





――数日後


「……わぁぁ!!」


馬車の窓から外を覗くと、見たこともない街並みが広がっていた。


ここが、ドワーフの街。

美しく整えられた建物が並び、通りには多くの人々が行き交っている。

しかも、その姿は人間だけではなかった。


「……待って!!」


悠陽は思わず窓に張りついた。


「あ、あれって……獣人!?」


「えっ!?どこどこ!?」


凪も慌てて窓へ顔を寄せる。


「ほんとだ!!本物だ!!わぁぁ!!」


「ふふっ。君たちは獣人を見るのは初めてかい?」


公爵が微笑みながら尋ねた。


「はい!初めてです!」


凪が興奮した様子で答える。


「本やゲームでしか見たことなかったので!」


「……ゲーム?」


「あっ……」


「そうかい」


公爵は不思議そうにしながらも、それ以上は尋ねなかった。


「でも、こうして見ると、本当にいろんな種族がいるんですね」


優佑が窓の外を眺めながら言った。


「あぁ、そうだね。この世界には、両手では数えきれないほど多くの種族がいるよ」


「へぇぇ!」


「でも、この街に来るまでは、人間以外の種族ってあんまり見かけませんでしたよね?」


「……あぁ、そうだね」


公爵は少し寂しそうに微笑んだ。


「これは昔の考え方なんだけどね。かつて、獣人やエルフ、ドワーフのように、人間とは異なる姿や特徴を持つ者たちは、皆魔族だと言われていた時代があったんだ」


「……え?」


「もちろん、そんなことはない。けれど、今でもその考えが残っている地域があるんだよ」


公爵は窓の外へ目を向けた。


「悪い名残だね」


悠陽たちは黙って話を聞いていた。


「我が国は中立国でね。獣人やエルフ、ドワーフたちも、人間と同じように暮らせるよう工夫しているんだ」


「そうなんですね……」


「けれど、残念ながら、いまだに彼らを疎ましく思う者も少なくない」


公爵は静かに続けた。


「だからこそ、人間に気を遣わず、自由に暮らせる場所として、こうした街が作られたんだよ」


「……そうだったんですか」


凪が小さく頷いた。

やがて馬車がゆっくりと速度を落とした。


「おや、着いたようだね」


公爵が窓の外を見て微笑んだ。


「腕のいいドワーフの鍛冶師がいる店だよ」


「皆様、足元にお気をつけください」


執事が馬車の扉を開け、手を差し伸べた。


「あっ、ありがとうございます」


美稀が丁寧に頭を下げる。

悠陽たちは馬車を降り、大きな鍛冶屋へと入っていった。





「店主!少し見させてもらうよ!」


「おおっ!公爵様じゃねぇか!」


奥から、がっしりとした体格のドワーフが顔を出した。


「どうぞどうぞ!ゆっくり見てってくれ!」


「ありがとう」


凪が公爵へ尋ねる。


「よく来られるんですか?」


「あぁ。子供たちの記念日なんかに、短剣や剣を作ってもらうんだよ」


「へぇぇ!」


店内には、様々な武器が並べられていた。


剣、短剣、斧、槍。

どれも見事な装飾が施され、思わず見入ってしまう。


「うおおっ!!」


紫苑が一本の剣の前で足を止めた。


「店主さん!!これ、めっちゃカッケー!!」


「おっ!!坊主、お目が高いねぇ!」


店主は嬉しそうに笑った。


「そいつはドラゴンの鱗から作った剣だ!切れ味も抜群だぜ!」


「ドラゴンの鱗!?」


紫苑の目が輝いた。

すると凪が店主に尋ねた。


「あの、ドラゴンの鱗って、剣以外にも加工できるんですか?」


「剣以外か? 例えばどんなもんだ?」


「杖とか……」


「杖かぁ……」


店主は顎に手を当てて考え込んだ。


「それなら、わしより腕のいい奴がおるぞ!」


「本当ですか!?」


「あぁ! 材料さえ用意すりゃ、作ってくれるはずだ。紹介状を書いてやろう!」


「いいんですか!?ありがとうございます!」


凪が嬉しそうに頭を下げた。

その隣で、優佑が店主へ声をかける。


「店主さん。漆黒のドラゴンの鱗って、剣に加工できますか?」


「……は?」


店主が目を丸くした。


「……漆黒?」


「はい」


「漆黒のドラゴンだとぉ!?」


店主が大声を上げた。


「そんな希少な素材、どこで手に入れたんだ!?」


「少し前に、戦った時に落としていったんです」


「な、なんだって!?」


店主は興奮した様子で身を乗り出した。


「そいつはレッドドラゴンよりも硬い鱗を持つんだ! 加工できりゃ、切れ味も耐久性も抜群の武器になるはずだぞ!」


「そうですか」


優佑は頷いた。


「では、その鱗で五人分の護身用短剣を作っていただけますか?」


「五人分!?」


「はい。できれば急ぎでお願いしたいんです。普通の剣も欲しいんですが、そちらは急ぎではありません」


「……兄ちゃん?」


悠陽は首を傾げた。


「なんで急ぎなの?」


「……気づいてないのか?」


「え?」


凪も不思議そうに優佑を見た。


「……何がですか?」


優佑は少し声を落とした。


「街を出てから、ずっとつけられてる」


「……え?」


「なんだと!?」


公爵の表情が険しくなった。


「公爵様を狙っているのかもしれませんが……念のため、護身用の武器は持っておいた方がいいでしょう」


優佑は店主へ向き直った。


「肌身離さず持ち歩けるくらいの短剣で、お願いできますか?」


「……なるほどな」


店主は真剣な顔で頷いた。


「わかった。急ぎで作ろう!」


「ありがとうございます」


「じゃが、五人分となると……急いでも二週間は欲しいのう」


「二週間……」


「なんせ、漆黒のドラゴンの鱗は加工が難しいんじゃ。普通の素材とはわけが違うからな」


「……そうですか。では、それでお願いします」


「おう!!任せとけ!腕が鳴るわい!」


すると、紫苑が勢いよく手を上げた。


「店主!!俺の剣も頼めるか!?」


「おう、もちろんじゃ!」


店主は指を折りながら数え始めた。


「短剣五本と、剣が二本じゃな!あとは紹介状か!」


「はい!」


「よし!ちょっと待っとけ!」



店主はそう言うと、店の奥へ引っ込んでいった。

しばらくして、紙を手に戻ってくる。


「待たせたなぁ!」


「ありがとうございます!」


「これが紹介状じゃ。わしの親戚でな、王都に店を構えとる」


「王都ですか?」


「あぁ。剣以外の加工なら、あいつが一番じゃ!」


店主は自信満々に笑った。


「行ってみな!きっといいもん作ってくれるぞ!」


「ありがとうございます!行ってみます!」


凪が嬉しそうに紹介状を受け取った。


「店主、ありがとう」


公爵が礼を言うと、店主は照れくさそうに笑った。


「公爵様には、いつも贔屓にしていただいてますからな!」


そして、悠陽たちへ向き直る。


「そうだ!坊主ども!」


「ん?」


「ドラゴンの鱗をこんなに手に入れられるってことは、相当腕が立つんじゃろ?」


「へへ!まぁね!」


「だったら、また何かいい素材を手に入れたら、わしにも分けてくれんか?」


「いいの?」


「もちろん報酬は出すぞ!珍しい素材なら、いくらでも歓迎じゃ!」


「もちろん!!何かあったら持ってくるぜ!」


「おう!ありがとうよ!」


悠陽たちは店主に手を振り、鍛冶屋を後にした。


「すごく気のいい人でしたね」


凪が笑った。


「そうだろう?いつもあの調子なんだよ」


公爵も楽しそうに笑った。





「さて、君たち。今日はどうする?」


公爵が悠陽たちへ尋ねた。


「このまま宿を取って一泊してもいいし、まだ日は高いから王都へ向けて出発してもいいよ」


「うーん……」


悠陽は少し考えた。


「どうせもう一回来るし、王都行く?」


「そうだなぁ」


紫苑が頷く。


「凪や美稀の武器も頼まないとだし、一旦王都へ行ってもいいかもな!」


「僕も賛成!」


「私もです!」


「じゃあ、決まりだね!」


公爵が微笑んだ。


「それじゃ、先へ進もうか」


すると、美稀が遠慮がちに尋ねた。


「あの……公爵様はよろしかったのでしょうか?」


「ん?」


「せっかくドワーフの街へ来られたのに、すぐ出発してしまって……」


「あぁ、構わないよ」


公爵は優しく微笑んだ。


「私はいつでも来られるからね。それに、君たちがもう一度来る時、一緒に来てもいいだろう?」


「……ありがとうございます!」


こうして悠陽たちは再び馬車に乗り込み、王都を目指した。


そして、さらに数日後。


ついに、王都へと到着した。

巨大な城壁の向こうには、これまで見てきた街とは比べものにならないほど大きな街並みが広がっていた。


「……わぁぁ!!」


悠陽は思わず窓に張りついた。

馬車がゆっくりと門を潜る。


こうして悠陽たちは、ついに王都へと足を踏み入れた。




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