第9話 オーロラの奇跡
「兄ちゃん……俺……」
悠陽は俯いたその時、胸元で何かが淡く輝いていることに気がついた。
不思議に思い、悠陽は胸ポケットに手を伸ばす。
取り出したのは、以前、店主のおじさんから貰った小さな巾着だった。
巾着の布越しに、七色の光がゆらゆらと揺らめいている。
「……なんだ、これ」
悠陽はそっと巾着の口を開いた。
その瞬間、眩い光が溢れ出し、思わず目を細めた。
それは、淡い金色を帯びた、神秘的で美しい光だった。
悠陽が恐る恐る巾着から石を取り出すと、光はより一層強くなった。
石から溢れた光は、ゆっくりと空中へ広がり、夜の街を包み込んでいく。
焼け焦げた建物も、崩れ落ちた瓦礫も、眠りについた人々も。
全てが、柔らかな光に照らされた。
まるで、天から祝福の光が降り注いでいるかのようだった。
その神々しい光景に、悠陽は思わず目を奪われた。
「……なんだ?」
「……光ってる……?」
その眩しさに気づいた人々が、一人、また一人と目を覚ました。
誰もが言葉を失い、ただ目の前に広がる光景を見つめていた。
静まり返っていた街が、神秘的な輝きに満たされていた。
「ど、どうしたのそれ、悠陽?」
眠っていた凪や紫苑、美稀も目を覚まして、悠陽の持つ石を不思議そうに見つめた。
悠陽は石をくれた店主のおっちゃんが、困った時に使えと言っていたことを思い出して、石を両手で握った。
「俺は……兄ちゃんとまた話したい。生きててほしい……まだ、一緒にいたいんだ……!」
悠陽が願いを口にすると、手の中の石が一層強く輝き始めた。
それと同時に、悠陽の身体から魔力が溢れ出し、石へと吸い込まれていく。
石は次々と魔力を吸収し、その輝きを増していった。
――パリンッ!
小さな音を立てて石が砕けた瞬間、辺りは目も開けていられないほどの光に包まれた。
眩しさに思わず目を閉じる。
やがて光が収まり、ゆっくりと目を開けると、夜空には巨大なオーロラが広がっていた。
「……綺麗」
「なんだ、あれ……」
人々は空を見上げ、その美しさに見惚れていた。
凪も、美稀も、紫苑も、誰もが突然現れた幻想的な光景に目を奪われていた。
けれど、悠陽だけは……
悠陽の目に映っていたのは、美しい夜空でも、色鮮やかなオーロラでもなく……
「…………兄ちゃん?」
目の前で、優佑が笑っていた。
いつものように、悠陽の顔を見て嬉しそうに笑っている。
「……っ、兄ちゃん……!」
涙が次々と溢れ、頬を伝って落ちていく。
優佑がそっと手を伸ばし、悠陽の頬に触れた。
その手は、温かかった。
「……あ、あぁ……兄ちゃん……っ!」
悠陽は堪えきれず、声を上げて泣き出した。
その泣き声に気づき、凪達がようやく空から視線を戻した。
そして、悠陽の目の前にいる人物を見て、三人は言葉を失った。
「優佑!?」
「優佑兄!!」
「よかったです……」
三人とも驚きながらも、優佑が生き返ったことを心から喜び、涙を流していた。
優佑がゆっくりと身体を起こすと、目の前で泣きじゃくる悠陽を優しく抱きしめた。
「久しぶり、悠陽。全部聞こえてたよ。お兄ちゃんのために怒ってくれてありがとう。でも、よかったよ〜♪
可愛い弟が手を血に染めなくて! もぉ〜! 兄ちゃん、ちょー怖かったんだから〜❤︎」
「兄ちゃん……よかっ……」
悠陽は兄の胸に顔を埋めかけたが、ふと顔を上げた。
「……え? 聞いてた? どういうこと? 死んでなかったの? 生きてた???」
「いやぁ、ちゃんと死んでたよぉ〜!死んでたんだけど、ずっと可愛い弟の声が聞こえてたんだよね〜❤︎よく分かんない!」
「あ、うん。そう、そっか」
「それにしても、綺麗だね。オーロラ❤︎」
「うん。あ、そうだ兄ちゃん」
悠陽は兎の懐中時計を渡した。
「そろそろ誕生日だと思って、会ったら渡そうと思って用意してた」
「え!僕に!?わぁ〜い!嬉しいっ!一生大事にするね❤︎
それより僕の可愛い弟よ……オーロラの下で渡すなんて、ロマンチック〜❤︎家宝にするね〜♪」
優佑は泣き真似をしながら、悠陽の頬に顔をスリスリとすり付けた。
「兄ちゃん……もうずっと寝てたら良かったのに……」
「わー!冗談でもお兄ちゃん悲しい!!ずぅっとお兄ちゃんに会いたかったんだもんね❤︎ごめんねぇ〜死んじゃってて!これからは一緒に色んな所を見て回ろう!
そしてこれからは、可愛い弟第一に!お兄ちゃんはその次に大事にするからもう心配要らないよ〜❤︎」
久しぶりにわしゃわしゃと、優佑に頭を撫でられた悠陽は、照れたように顔を伏せた。
「うん、でも本当に良かった。兄ちゃんにまた会えて……」
「うん!そうだね〜!これも運命かなぁ❤︎同じ街に同じ時期に来るなんて!!」
「あ、いや……」
「あ、それは探し物が見つかる魔道具を使って、優佑兄を探して来たんですよ」
「うおいっ!言うなよ!凪!!」
「え〜!なになに!そんなにしてまで、お兄ちゃん探してくれたの!?嬉しい!嬉しい!!」
優佑が悠陽にしつこく迫って、悠陽が少し顔を顰めた。
そんな様子を蚊帳の外で見ていた、紫苑と美稀は微笑ましそうに笑った。
「でも良かったよ、本当に」
「はい!良かったです!!」
――翌日
優佑が生き返ったことを知った街の人々が、次々と悠陽達の元へ押しかけてきた。
「頼む!俺の家族も生き返らせてくれ!」
「どうやって生き返らせたんだ!?教えてくれ!」
「なんでそいつだけなんだ!俺の息子だって死んだんだぞ!」
最初は懇願する声ばかりだったが、やがてそれは怒号に変わっていった。
どうして自分の家族は生き返らないのか。
なぜ優佑だけが助かったのか。
そんなことを何度も問い詰められ、しまいには罵詈雑言で溢れた。
まるで悠陽達が悪いことをしたかのように責め立てる。
繰り返される身勝手な言葉に、悠陽の苛立ちは限界に達した。
そして悠陽達は街全体を焼き尽くし、そのまま街を後にした。
「あ、あの。良かったのでしょうか……燃やし尽くしちゃって……」
「いいよ、あんな恩知らずども!街の火消したの俺だし!美稀だって街の奴ら怪我治したり、凪と紫苑兄だって救助手伝ったりしてたのに、なにあれ!
良かったねって言ってたの、兄ちゃんが死んでる時に話しに来た人達だけだったじゃん!!」
「ま、そんなもんだろ」
「そうですね」
「まぁ、どうせ全部取り壊すって言ってたし〜、燃やしてあげて解体する手間省いてあげたんだから逆に感謝されるべきだよ〜!
それに、領主様の家は残してあげたんだから大丈夫大丈夫〜!そんな事より、可愛い弟があんっなに凄い魔法使えるなんて〜!お兄ちゃんまた惚れ直しちゃったよ〜❤︎」
――数時間前
イライラの頂点に達した、悠陽は騎士や領主、領民に許可を取りに行った。後で怒られるのは嫌だからね。
「もぉ、この街はダメです。おかしいです。一度更地に戻すべきです。全部燃やし尽くして良いですか」
と、しっかり許可を取っていた。
領主は許可というか「やれるもんならやってみろ」みたいな感じだったが、悠陽は真に受けて隕石のような火の玉を何個も落とした。
悠陽が魔法を使う姿を見て、領主や先ほどまで悠陽達に怒りをぶつけていた街の人々は、腰を抜かしていた。
優佑や凪達も、目を丸くして呆然と立ち尽くしている。
ただ一人、優佑だけはすぐに我に返り、「すごい!すごいよ、悠陽!」と大喜びで悠陽を褒めた。
その後、王国騎士達のもとへ向かい、街の人々が一週間ほど食べていけるだけの食糧を渡した。
すると、騎士の一人が笑いながら口を開いた。
「いやぁ、スカッとしたよ!私達にはできないことだからね。それに、こんなにたくさんの食糧までありがとう。本当に助かるよ」
騎士はそう言って、嬉しそうに笑った。
次の街へ行く道中。
悠陽は思い出したように、凪や美稀に買っていたペンダントを、魔導書で調べながらペンダントを作った。
出来上がった二種類のペンダントを、悠陽は優佑と紫苑に渡した。
優佑は悠陽がトラウマになっていると勘違いして、抱き付いた。
「ごめんね、もう絶対心配かけないし、絶対死んだりしないから!!でもありがとう、嬉しい!!」
優佑以外、全員が呆れ笑いを浮かべた。
次の街に到着すると、門番の兵士に呼び止められ、身分確認のために冒険者カードを提示することになった。
兵士は悠陽達五人のカードを一枚ずつ確認していたが、全員分を見終えたところで、お互い顔を見合わせた。
「あ、あの!少々こちらでお待ちいただけますか!?」
そう言い残すと、兵士はバタバタと慌ただしくどこかへ走り去ってしまった。
「なんでしょうね」
「そんな事より〜、3人ともAランク!?すごいねぇ!!」
「お二人もCランクではありませんか!凄いです!!」
「いやーAランク見たら、Cランクなんか……なんか……」
「そんなしょげんなよぉ!!」
「お前も同じランクだろ、優佑」
「ランク上げたいなら依頼受ける?ちょーど手持ち少なくなってきてたし!」
「おぉ!いいな!!」
「弟よ!お金がないのかい??可愛い弟の分は全て僕が出すよ❤︎安心して!!」
「いいですね。お金は今後必要ですし、ついでに優佑兄達のランク上がるし、一石二鳥だよ」
「私も賛成です!」
そんな話をしていると、兵士が戻って来た。
「お待たせ致しました。公爵様とギルマスがお待ちです。こちらへいらしてください」
「貴族の方が僕達に何のご用でしょうか?」
「いえ、私にもそれは……黒髪のハルヒという冒険者達が来たら声を掛けろと言われていたまででして……」
悠陽は疑いもせず、兵士に付いて行き、少し後ろで四人はヒソヒソと話していた。
「ま、また意地の悪いお貴族様でしょうか……」
「おいおい、公爵って相当偉い人じゃねぇか??俺、作法とか分かんねぇよ」
「そうですね……ひとまずは無礼の無いように努めましょう」
兵士に案内され、悠陽達は一見すると普通の居酒屋のような店へとやって来た。
そのまま二階へ上がり、奥にある一室へと通される。
部屋に足を踏み入れると、そこには一目で高位の貴族だとわかるほどの風格を漂わせた男性と、がっしりとした体格の男性が、ソファにどっしりと腰を下ろしていた。
どうやら、彼らが公爵とギルドマスターらしい。




