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ファンタジー・オブ・デッド~借金100億の社畜、鬼畜な銭ゲバ狐とバット片手に滅びかけの異世界で出稼ぎサバイバル~  作者: おにぎり


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第23話 地獄の千本ノック

「あれは、おひいさまが契約している雷の精霊です」


 エネの声が震えていた。


 町の上空。


 屋根の上に浮かぶ小さな精霊が、青白い雷を放っている。


 だが、その光は弱々しい。


 今にも消えそうなほど頼りない。


 その動きは、戦っているというより、何かを守ろうとしているように見えた。


「おひいさまの精霊が、どうしてこんなところに……」


 エネの顔から血の気が引いている。


 いつもの崇拝混じりの勢いはない。


 完全に動揺していた。


「救世主様、お願いします!」


 エネが俺に向き直る。


「あの精霊を助けてください! あの子がここにいるということは、きっとおひいさまに何かが……!」


 あの光は、今にも消えそうだった。


 迷っている暇はない。


「分かった」


 俺は即答した。


 理由を聞いている暇はない。


 あの精霊は、見るからに限界が近そうや。


「またたび!」


『なんだ、坊主』


「町の広場まで突っ込めるか?」


『市街地での走行バトルか。好きなシチュエーションだ』


「走行バトルはやらんぞ! 広場に着いたら止まれ! ステイや!!」


『注文が多い客だ』


 またたびの声が楽しそうに笑う。


 次の瞬間、シルビアのエンジン音が低く唸った。


『捕まってろ。町中は狭いぞ』


「町中で思いっ切り速度出すなよ!?」


『善処する』


「それ絶対する気ないやつや!」


 シルビアが加速した。


 崩れた門へ向かって一直線に突っ込む。


 門の前にいた屍たちが、こちらへ振り向く。


 人だったもの。


 獣だったもの。


 魔物だったもの。


 そいつらが一斉にシルビアに向かい駆けだした。


『はっは~~! 挽肉にしてやるぜぇ!!』


 通信具から、またたびの喜色を帯びた声が響く。


 シルビアは壊れた門扉を弾き飛ばし、屍の群れを真正面から跳ねた。


 どんっ。


 どがんっ。


 鈍い音が車体越しに響く。


「うおっ!?」


 俺は屋根の手すりを掴んだ。


 目の前で、屍が吹き飛んでいく。


 シルビアは町の大通りへ突入した。


 左右には、崩れかけた建物。


 割れた窓。


 倒れた荷車。


 店だったらしい建物の看板が、風に揺れている。


 そこへ、屍たちが群がってくる。


『道が意外と狭い。分かってねぇな』


「普通の町は装甲車で爆走する前提で作られてへんねん!」


『知るか。俺はこじ開ける!』


「町への敬意!」


 シルビアは大通りを突き進んだ。


 屍を跳ね飛ばし、崩れた瓦礫を踏み砕き、広場へ向かって走る。


 そして、開けた場所へ出た。


 そこには、古びた大きな教会があった。


 尖った屋根。


 割れたステンドグラス。


 崩れかけた鐘楼。


 その周囲に、あり得ないほどの屍が密集していた。


「うわ……」


 思わず声が漏れた。


 教会の前は、屍で埋まっている。


 人型の屍。


 魔物の屍。


 獣の屍。


 それらが押し合い、蠢き、屋根の上を目指していた。


 雷の精霊は、教会の屋根の上で青白い光を散らしている。


 そして、その近くに、数人の人影が動いた。


「誰かと交戦している……?」


 エネが震える声で呟いた。


「まずは、あそこまで道を作るぞ」


「善一郎様」


 ギンコが屋根の上で黒ぶち眼鏡を押し上げた。


「四面鬼の機能を使いましょう」


 すでに、新武器の性能は、移動中の小競り合いで最低限の使い方は確認している。


 新たな『鬼軍曹』には、それぞれの鬼面に対応した固有スキルが付いており、その効果とポイント消費量に俺は一度本気で膝をついた。


「密集した敵には、喜の鬼が有効です。多数の敵を削るのに有効かと」


「いきなり喜の鬼か。守るにも殴るにも金! ほんま財布に厳しい武器やで」


「高性能ですので」


 俺は教会前の屍の群れを見た。


 あれを一体ずつ相手しとったら、屋根の上の精霊がもたない。


 効率の問題や。


「分かった。やったるわい」


 俺は『四面鬼』を両手で握った。


 四つの鬼面のうち、笑い顔の鬼面を正面へ向ける。


 すると、武器の内部で何かが噛み合うような音がした。


 がちん。


 笑う鬼の顔が、ぎしりと動いた。


 口が開く。


 その奥から黒い粒子が吐き出され、俺の眼前に集まっていく。


 砂鉄のように渦を巻き、小さな塊になり、やがて小石ほどの鉄球へ変わった。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 十。


 二十。


 数え切れないほどの鉄球が、俺の前に浮かび上がる。


 俺は足を開いて構え、浮かぶ無数の鉄球に狙いを定める。


 そして、教会前の屍の群れへ視線を移す。


「いくで」


 俺は息を吸った。


 喜の鬼の鬼面が、かすかに笑ったように見えた。


「地獄の千本ノックや!」


 俺は『四面鬼』を振り抜いた。


 かんっ!


 金属音。


 打ち出された鉄球が、凄まじい速度で飛んだ。


 一つではない。


 連鎖するように、浮かんでいた鉄球が次々と弾かれ、扇状に広がっていく。


 ばら撒かれた鉄の雨。


 それが、教会前に密集していた屍の群れへ突き刺さった。


 ぼごっ。


 ばすっ。


 ぐしゃっ。


 屍たちの体に無数の穴が開く。


 頭が弾け、胴が裂け、手足が吹き飛ぶ。


 屍たちの灰が一斉に舞い上がった。


「やば……」


 俺は自分で打っておきながら声を漏らした。


「一発あたりの威力は落ちますが、密集した下級屍には極めて有効ですね」


「改めて使ってみてもえぐい攻撃や」


「消費ポイントもえぐいです」


「そこは言うな!」


 だが、止めるわけにはいかない。


 教会前には、まだ大量の屍がいる。


 俺は再び『四面鬼』を構えた。


 黒い粒子が笑い鬼の口から吐き出され、鉄球へ変わる。


 次。


 次。


 次。


「おらぁぁぁっ!」


 俺は打ち続けた。


 かんっ。


 かんっ。


 かんっ。


 無数の鉄球が扇状に飛び、屍の群れを削っていく。


 まるで、ショットガンをバットで撃っているような感覚だった。


 教会前の群れに、少しずつ隙間ができていく。


 あり得ない身体能力に、新たな『鬼軍曹』の能力。


 それらが噛み合い、俺の千本ノックは、屍の壁を削っていった。


「道が開きます!」


 エネが叫んだ。


 確かに、教会前に一本の道が見えてきた。


 灰と肉片の間を抜け、教会の壁際まで続く道。


「善一郎様、十分です!」


 ギンコが言う。


「エネさん、風の加護を。善一郎様と一緒に屋根まで上がってください」


「はい!」


 エネが両手を掲げる。


 薄緑の光が俺とエネの体を包んだ。


 体がふわりと軽くなる。


 足裏に風が集まるような感覚。


「いけますか、救世主様!」


「その呼び方はまだ慣れへんけど、行くで!」


 俺は『鬼軍曹』を握り直し、シルビアの屋根から飛び降りた。


 地面に着地する。


 軽い。


 風が体を支えてくれている。


 エネも俺の横へ降り立った。


「走ります!」


「おう!」


 俺たちは教会へ向かって駆け出した。


 屍が横から飛び出してくる。


 俺は『四面鬼』を横薙ぎに振り、頭を砕く。


 エネの風で速度が上がる。


 俺たちは、開いた道を一気に駆け抜けた。


 教会の壁が迫る。


「このまま登ります!」


「登る!?」


「風を足場にしてください!」


「無茶言うな!」


 文句を言いながらも、俺は壁を蹴った。


 足元に風が固まる。


 空中に見えない足場ができたような感覚。


 俺はそこを踏み、さらに上へ跳ぶ。


 エネが隣を駆け上がる。


 ほとんど壁を走っているような感覚だった。


「うおおおおっ! 俺、今めちゃくちゃ異世界しとる!」


「集中してください!」


「すんません!」


 勢いのまま、俺たちは教会の屋根へ飛び上がった。


 そして、そこにいたものを見た。


 屋根の上。


 割れた瓦の中央に、小さな少女が倒れていた。


 白銀の髪。


 長い耳。


 汚れ、破れた高貴な衣。


 少女を守るように、雷の精霊が帯電しながら旋回している。


 その少女を囲む、四人の屍エルフ。


 腐敗した肌に、赤黒く濁った目。


 使い込まれた武具。


 その立ち姿には、ただの屍とは違う鋭さが残っていた。


 屋根の上で必死に雷を放っていた精霊が、俺たちを見る。


 青白い光が、弱々しく揺れた。


「おひいさま!」


 エネが叫んだ。


 俺の制止より先に、彼女は倒れた少女へ駆け寄ろうとした。


「待て、エネさん!」


 剣を持った屍エルフの一人が動いた。


 めちゃくちゃ速い。


 風の魔力が、その剣にまとわりつく。


 細身の剣が、音もなく振られた。


 次の瞬間。


 見えない刃が、エネへ向かって飛んだ。


「エネさん!」


 俺は反射的に『四面鬼』を回した。


 今度は、哀の鬼を前に出す。


 がちんっ。


 嘆きの面が、低く唸った。


 鬼の目から、黒い雫のような粒子が流れ出す。


 それは俺の前で広がり、瞬時に巨大な盾の形を取った。


 嘆きの顔が刻まれた、大盾。


 それが俺とエネの前に立ち塞がる。


 ぎゃりっ!


 見えない刃が、盾を抉るようにぶつかった。


 金属を引っかくような音が、屋根の上に響く。


 衝撃が盾越しに伝わる。


 だが、受け止めた。


 エネは、俺の背後で息を呑んでいる。


「……危なかった」


 俺は盾越しに、屍エルフを睨んだ。


 四人の屍エルフが、ゆっくりとこちらへ向き直る。


 その赤黒く濁った目には、生者への飢えだけでなく、生前の技術の残滓のようなものが宿っていた。


 エネが震える声で呟く。


「まさか……『森辺の導き』のみなさん……?」


「『森辺の導き』?」


「西のエルフ国でも名の知れた冒険者チームです……」


 俺は奥歯を噛んだ。


 最悪やな。


 助けたい相手のそばにいるのは、凄腕の冒険者チームかいな。


 今は、屍になって彼女を襲っている。


 俺は『鬼軍曹』を握り直す。


 哀の鬼の盾を解除し、前へ一歩出た。


「エネさん」


「は、はい」


「おひいさまを頼むで」


「ですが……」


「こいつらは俺が止める」


 屍エルフ四人が、それぞれの武器を構えた。


 屋根の上を、冷たい風が吹き抜ける。


 俺は大きく息を吐き、屍となった冒険者を睨みつけた。


「悪いけど、往生してもらうで」


 強く握った『鬼軍曹』の四面鬼が、俺の戦意に応えるように低く唸りを上げた。

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