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ファンタジー・オブ・デッド~借金100億の社畜、鬼畜な銭ゲバ狐とバット片手に滅びかけの異世界で出稼ぎサバイバル~  作者: おにぎり


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第21話 人間鬼軍曹

※飲酒運転の描写があります。

他人の人生はおろか自分の人生も壊れる愚かな行為です。

飲んだら乗るな。

上記を踏まえたうえで本編をお楽しみください。

飲酒運転撲滅委員会からのお知らせでした。

シルビアが大きく旋回した。


 その瞬間、俺はリアバンパーに繋がれた縄ごと、勢いよく車体の外へ放り出された。


「ぎゃああああああああっ!?」


 朝の荒野に、俺の絶叫が響く。


 風が顔面に叩きつけられる。


 視界がぐるりと回る。


 体が宙に浮き、遠心力に引っ張られ、シルビアの後方へ大きく振られていく。


 両腕には『鬼軍曹』。


 というか、両腕ごと『鬼軍曹』を固定されている。


 俺は今、バットを振っているのではない。


 俺が、バットの柄になっている。


「これ、絶対あかんやつやろぉぉぉぉっ!!」


 後方から迫っていた屍魔物の群れ。


 その前列が、目の前に迫る。


 腐ったゴブリン。


 牙を剥いたコボルト。


 半身が崩れた屍獣。


 そいつらが、俺という餌に向かって手を伸ばしてくる。


 だが、俺の体が当たるより先に、固定された『鬼軍曹』が横薙ぎに走った。


 ごしゃあっ!


 鈍い破砕音。


 『鬼軍曹』の鉄塊が、屍ゴブリンの頭をまとめて吹き飛ばす。


 続けて、屍コボルトの胴を砕き、屍獣の首をへし折った。


 灰が爆ぜる。


 黒い粉が、朝の荒野に舞い上がる。


「当たってる! めちゃくちゃ当たってる! 俺の意思と関係なく当たってるぅぅぅ!」


 シルビアはさらに旋回を続ける。


 俺は縄に引っ張られながら、巨大な振り子みたいに屍の群れの前列を薙いでいく。


 まるで、新感覚のアトラクション。


 死を間近に体験できるジェットコースター。


 怖い。


 めちゃくちゃ怖い。


 だが、信じられないことに、俺の体には何も当たらない。


 屍の爪も牙も、紙一重で通り過ぎる。


 当たるのは、『鬼軍曹』本体だけ。


 またたびの運転が、異常な精度で俺を振り回しているのだ。


「またたびぃぃぃ! お前、俺を何やと思っとんねん!」


 俺の絶叫などお構いなしに、地面が迫る。


「待て待て待て! 地面! 地面来とる!」


 俺は本能的に身を縮める。


 どう考えても、このまま荒野に叩きつけられる。


 この勢いで地面に激突したら、普通に死ぬ。


 確実に死ぬ。


「ぬわあああああああぁ!? ギンコぉぉぉ! 死んだら呪ったるからなぁぁぁぁ!!」


 ギンコの声が飛んだ。


「エネさん!」


「は、はい!」


 直後、俺の体を柔らかな風が包み込んだ。


 薄緑の光が縄と俺の体を撫でる。


 落下の勢いが、ふわりと殺された。


「うおっ!?」


 地面すれすれで、俺の体が跳ねる。


 そのまま風に押し上げられ、円を描くようにシルビアへ戻される。


 まるでブーメラン。


 いや、けん玉か。


 放り出された球が、糸に引かれて皿へ戻るみたいに、俺の体はシルビアの屋根へ戻された。


 どさっ。


 俺は装甲車の屋根に転がった。


「ぜぇ……ぜぇ……。マジかぁ……」


 息が荒い。


 全身が恐怖で震える。


 心臓が口から吐き出そうや。


 今の一投で、俺は十歳くらい老けた気がする。


「死んだと思った……」


 俺は荒い息のまま呟いた。


「こんな殺意のあるパワハラが、この世に存在してええんか……」


「生存していますので問題ありません」


 ギンコが涼しい顔で言った。


「問題しかないわ!」


「エネさん、素晴らしい風の制御です」


「え、ええと……ありがとうございます」


 エネは青ざめた顔で頷いた。


 褒められているのに、全然嬉しそうではない。


「私の風は、本来このような用途ではないのですが……」


「適性があります」


「嬉しくありません……」


「分かるで、エネさん」


 俺はぐったりしながら頷いた。


「褒められてるのに、心が死ぬ時ってあるよな」


「はい……」


 ギンコが耳につけた小さな通信具へ前足を当てた。


「またたびさん」


『なんだ、ギンコ』


「今の一振りで、約五千ポイント入りました」


「五千!?」


 俺は思わず顔を上げた。


 五千ポイント。


 日本円換算で五十万円。


 あの地獄の一振りで、五十万円。


「命の値段が安いんか高いんか分からん!」


「非常に効率的です」


「効率の話をするな!」


 ギンコは通信具へ向けて、淡々と言った。


「次、お願いします」


「待て待て待て待てぇ!」


 俺は叫んだ。


「今の一回で終わりちゃうんか!?」


『坊主』


 またたびの声が、やけに楽しそうに響く。


『実に俺好みのロックだ。とことん付き合ってやる』


「お前と同類扱いすな! 付き合わんでええわ!」


 シルビアが再び屍魔物たちの群れに向かい、大きく旋回を始めた。


 俺の体を固定している縄が、ぎしりと音を立てる。


 後方には、まだ大量の屍魔物が追ってきている。


「ふざけんなぁぁぁぁぁっ!?」


 俺はまた、車体の外へ放り出された。


 風が唸り、視界が回る。


 屍の群れが迫る。


 『鬼軍曹』が、再び遠心力を乗せて横薙ぎに振るわれる。


 ごしゃっ。


 ばきっ。


 ごきんっ。


 屍魔物が、次々と灰に変わっていく。


 俺は絶叫しながら、朝の荒野を飛んだ。


「もう嫌やぁぁぁぁぁ! いっそ一思いに殺してくれぇぇぇ!!」


 シルビアが振る。


 俺が飛ぶ。


 『鬼軍曹』が砕く。


 エネの風が戻す。


 ギンコが成果を確認する。


 またたびが笑う。


 この地獄の作業工程が、あまりにも無駄なく回り始めていた。


「これが……」


 エネが震える声で呟く。


「救世を運命づけられた御方の試練……なんて過酷な……!」


「違います」


 ギンコが即答した。


「これは効率的なポイント稼ぎです」


「もっと酷い説明やめろぉぉぉ!」


 俺の叫びは、また荒野の風に流されていった。


   ◇


 その日、俺は何度も振られた。


 文字通り、振られた。


 女にではない。


 シルビアに。


 縄で繋がれ、遠心力で放り出され、屍魔物の群れに『鬼軍曹』を叩き込まれた。


 もちろん、休憩はあった。


 ギンコいわく、俺の体が本当に壊れると損失が大きいからだそうだ。


 心配の方向性が商売だった。


 鬼畜狐の本領を発揮しすぎではなかろうか?


 俺は、何度も何度も投げられた。


 そのたびにエネの風で戻され、またたびの運転で屍の群れを薙ぎ、ギンコが淡々とポイントを数えた。


 地獄の流れ作業だった。


 そして、夜。


 シルビアの車内。


 俺はソファーに沈み込むように座っていた。


 手には缶ビール。


 目の前には、唐揚げカレー。


 揚げた鶏肉が乗った、匂いだけで腹が鳴る一皿だ。


 普段なら歓喜するところだ。


 だが、今の俺は不機嫌だった。


 いや、正確には、魂が擦り切れていた。


「……うまい」


 それでも一口食べたら、うまかった。


 悔しい。


 めちゃくちゃ悔しい。


 地獄の後の飯は、どうしてこんなにうまいのか。


「救世主様、このカレーという料理、すごいです……!」


 向かいでは、エネが目を輝かせながら鳥からカレーを食べていた。


「辛いのに、甘くて、肉が香ばしくて……これはまた神の食べ物なのでは……?」


「神の基準が日本の庶民飯に寄りすぎやで、エネさん」


「ですが、本当においしいです」


「お口に合ってなによりや」


 横では、ギンコがカットケーキの盛り合わせを前にしていた。


 いちご。


 チョコ。


 チーズ。


 抹茶。


 小さく切られたケーキを、真剣な顔で眺めている。


「どれから食べるか……これは難題ですね」


「お前、俺を一日中振り回した後に、ようそんな優雅な顔できるな」


「仕事と甘味は別です」


「その言葉、腹立つわ」


 運転席の方では、またたびがグラスを傾けていた。


 琥珀色の酒。


 たぶんスコッチだ。


「おい、飲酒運転ちゃうんか」


「終末世界に交通法はねぇ」


「理屈はそうかもしれんけど、納得はしたないぞ」


 またたびは笑い、グラスを軽く掲げた。


「飲酒運転なんざ、今日の坊主に比べれば全然ロックじゃねぇよ」


「俺の意思ちゃうわ」


「ですが、いい稼ぎになりました」


 ギンコが生クリームをペロリと舐め、至福の表情で頷く。


「本日の成果ですが、移動距離も予定以上に稼げました。さらに討伐判定により、合計でおよそ五万ポイントほど獲得しています」


「五万……」


 俺は眉をひそめた。


「五百万円か」


「はい」


「……すごいやん」


「はい。素晴らしい成果です」


「でも、失った尊厳は戻らんぞ」


「尊厳では食事は買えません」


「正論で殴るな!」


 ギンコはケーキを一口食べ、満足げに目を細めた。


「この晩餐も、本日の作戦があったからこそ実現できました」


「悪びれろ。少しは悪びれろ」


「明日も同様に、移動しながらポイントを稼ぎましょう」


 俺は固まった。


「……明日も?」


「はい」


「明日も、俺を振るんか?」


「体調を見ながら、無理のない範囲で」


「今日のどこに無理がない範囲があったんや!」


「死んでいませんが?」


「最低ラインが低すぎる!」


 俺は頭を抱えた。


 早く。


 早く体が回復してほしい。


 自分で戦えるようになりたい。


 こんなにも、自力でバットを振りたいと思ったことはない。


 俺は自由意志を持つ人間でありたい。


 装甲車に振られる武器ではなく。


「頼むから、俺の体、明日には治ってくれ……」


「完全回復にはもう少し時間がかかります」


「聞きとうない……」


 その時、またたびがふと思い出したように声を上げた。


「そういや、坊主」


「なんや。これ以上嫌な話なら聞かへんぞ」


「金魂屋の親父から伝言を預かってたんだ」


「金魂屋?」


 俺は顔を上げた。


 俺の鉄バット『鬼軍曹』を売ってきた、あの物騒な装備ショップだ。


「次の大商いに向けて、坊主の装備を更新したらしい」


「装備を?」


「西の森に入るなら、今のままじゃ足りねぇってよ」


 ギンコが前足を振った。


 テーブルの上に、メニュー画面が浮かび上がる。


【装備ショップ・金魂屋】


【善一郎ニューモデル 販売開始】


 その文字だけで、嫌な予感がした。


 ギンコの眼鏡がキラリと光る。


 またたびがニヤリと笑う。


 俺は、恐る恐る画面を見る。


【鬼軍曹タイプ四面鬼よんめんき


【戦闘用スーツ】


 新しい装備名が、妖しく光っていた。


「……なあ」


 俺は、乾いた声で呟いた。


「また、俺をどうするつもりや」


 誰も答えなかった。


 ただ、画面の中の新装備だけが、やたら激しく点滅していた。


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