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ファンタジー・オブ・デッド~借金100億の社畜、鬼畜な銭ゲバ狐とバット片手に滅びかけの異世界で出稼ぎサバイバル~  作者: おにぎり


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第13話 王との死闘

 屍の王が、咆哮した。


「ぐぅがあああああああああああぁっ!!!」


 空気が震えた。


 腹の奥まで響く、重い獣の叫び。


 あれは命令だ。


 王の声に応じるように、周囲にいた黒鎧の屍ゴブリンたちが一斉に動き出した。


 黒く汚れた鉄鎧。


 歪んだ兜。


 赤錆びた剣。


 分厚い鉄盾。


 ゴブリンナイトよりも、さらに厳つい。


 王を守るための親衛隊。


 そう呼ぶのが一番しっくりくる連中だった。


 目算で二百ほどの連中が、統制の取れた動きで攻め寄せてきた。


「善一郎様。油断しないでください。あれらは一筋縄ではいかない相手です」


「見たら分かるわ。見た目からして厄介案件やんけ」


「そして、もう一つ」


「なんや」


「加護はいつ切れてもおかしくありません。被弾は避けてください」


 その言葉で、背筋が冷えた。


 そうだ。


 三日間の保護期間は、もう終わりかけている。


 今までは、攻撃を受けても加護が弾いてくれた。


 だが、それがなくなれば。


 刃は肉を裂く。


 槍は腹を貫く。


 牙は骨まで食い込む。


「……了解」


 俺は小さく頷いた。


 緊張で、少し『鬼軍曹』を強く握ってまう。


「当たったら死ぬ。分かりやすくてええな」


「本当に分かっていますか?」


「分かっとるわ。たぶん」


「たぶんでは困ります」


「今はこれが精いっぱいや!」


 盾持ちの親衛隊が横一列に並ぶ。


 その後ろに槍持ち。


 さらに横から剣持ちが回り込もうとしている。


 やはり、ただの屍ではない。


 動きに役割がある。


「来ます」


「おう」


 俺は腰を落とした。


 次の瞬間、黒鎧の列が一斉に踏み込んだ。


 重い足音で地面が鳴る。


 低く構えた盾の隙間から伸びる槍。


 正面からの圧がとんでもない。


 やけど――


「上等や!」


 俺は踏み込んだ。


 盾持ちの一体が、俺を止めるように盾を構える。


 その盾へ、渾身の『鬼軍曹』を叩き込んだ。


「ヘビースラッガー!!」


 ぶつかった瞬間、衝撃が走り、火花が散った。


 盾がひしゃげ、親衛隊の体ごと後ろへ吹っ飛んだ。


 だが、粉々にはならない。


 親衛隊ゴブリンは地面を転がりながらも、まだ灰になっていなかった。


「硬っ!」


「今までの屍ゴブリンとは耐久が違います」


「先に言えや!」


「今言いました」


 正面から槍が伸びるが、俺はそれを半歩ずれて避ける。


 さらにもう一本の槍が視界の端を走る。


 鋭くて速い。


 だが、見える。


 見えるなら、避けられる。


「スラッシュライン!」


 俺は『鬼軍曹』を連続で振った。


 三匹の盾持ちの盾をすべて破壊し、態勢を崩す。


 がら空きになった三匹の体へ、俺はもう一度『スラッシュライン』を振り抜いた。


 高速の連撃が、鎧の継ぎ目を的確にぶち抜き、破壊する。


 すべてが灰になり、一か所だけぽっかりと隙間ができた。


「穴があきましたよ!」


「分かっとる!」


 親衛隊の群れが押し寄せる。


 俺はその中に踏み込んだ。


 スキルと通常攻撃を織り交ぜながら、奴らの内側から食い破っていく。


 右から来る剣を避け、左の盾を蹴って距離を作る。


 槍を『鬼軍曹』で巻き取るように弾き、そのまま持ち主の兜を叩き潰す。


 さっきまでの無双とは違う。


 一撃では消えない。


 だが、俺の方が圧倒的に速い。


 膂力も負けていない。


 盾持ちは、必ず俺を抑え込もうと前に出る。


 槍持ちは、俺が踏み込んだ瞬間に脇を狙う。


 剣持ちは、死角から二撃目を入れてくる。


 面倒だ。


 だが、処理できる。


「はっ……!」


 息を吐きながら、俺は『鬼軍曹』を振り抜いた。


 一匹の親衛隊の肩口が砕ける。


 すぐに切り返し、頭へ叩き込む。


 数が減っていく。


 十。


 二十。


 三十。


 数えるのも馬鹿らしくなる頃には、俺の周囲に黒い鎧の破片と灰が積もっていた。


「善一郎様、右!」


「見えとる!」


 右から来た槍を避け、そのまま『鬼軍曹』を持ち主の手首へ叩き込む。


 そのまま踏み込み、全身で押し込むように打つ。


 親衛隊が背後の仲間を巻き込んで吹き飛んだ。


「おらぁぁぁっ!」


 さらに『ヘビースラッガー』を叩き込む。


 前方の盾持ちがまとめて崩れた。


 道が開く。


 その先に、屍の王がいた。


 王は、まだ動かない。


 巨大な大剣を地面に突き立て、濁った目でこちらを見ている。


 まるで、俺がどこまでやれるのかを見ているようだった。


「高みの見物かいな……」


 俺は息を吐いた。


「取引先の社長みたいに偉そうにしやがって」


 その時だった。


 屍の王が、ゆっくりと大剣を持ち上げた。


「善一郎様!」


 ギンコの声が鋭く飛ぶ。


「離れてください!」


「は?」


 王の大剣が、横に振り抜かれた。


 届くはずがない距離だった。


 なのに、刃の先から黒い斬撃が走った。


 目に見えるほど濃い、黒い衝撃の波。


 それが地面を抉りながら、こちらへ向かってきた。


 しかも。


「味方ごとかい!?」


 黒鎧の親衛隊も巻き込まれていた。


 逃げる暇もなく、黒い斬撃に呑まれ、鎧ごと裂かれていく。


 ただ、俺を斬るためだけに、味方ごと薙ぎ払いやがった。


「くそっ!」


 俺は『鬼軍曹』を構えた。


 避けきれない。


 受けるしかない。


 黒い斬撃が迫る。


 俺は全身で『鬼軍曹』を押し出すように構えた。


 次の瞬間、衝撃が来た。


「ぐっ……!」


 加護が弾ける。


 今までとは比べものにならない光。


 俺の体を包んでいた透明な膜のようなものが、黒い斬撃を受け止める。


 一瞬だけ、耐えた。


 だが。


 ぱきん。


 場違いなほど綺麗な音がした。


「……え?」


 光が砕けた。


 俺の周囲に、細かな光の破片みたいなものが散る。


 その奥から、斬撃の余波が俺の体をかすめた。


 熱い。


 脇腹が、焼けるように熱い。


 俺は後ろへ吹っ飛び、地面を転がった。


「善一郎様! 加護切れです!」


 ギンコが叫ぶ。


 加護が切れた。


 その言葉が、妙にはっきり聞こえた。


「……マジか」


 俺はゆっくり体を起こした。


 脇腹に手を当てる。


 ぬるりとした感触。


 血だ。


 俺の血。


 今まで弾かれていた攻撃が、今度は俺の体を裂いた。


 生々しく、熱く、嫌な痛みだった。


「……そうか」


 喉が鳴る。


 死が、急に近くなった。


 さっきまで敵をポイントだの作業だのと見ていた頭が、一瞬で現実に引き戻される。


 当たれば死ぬ。


 今度こそ、本当に。


 黒い斬撃に巻き込まれた親衛隊の多くは、灰になっていた。


 残った黒鎧たちも、王の周囲から距離を取るように下がっていく。


 そして、王が前に出た。


 巨大な大剣を肩に担ぎ、こちらを見ている。


 ただの上位個体ではない。


 王。


 群れを操る個。


 屍の王。


「善一郎様、下がってください! 癒しを――」


「いや」


 俺は『鬼軍曹』を支えにして立ち上がった。


 傷口が焼けるように痛い。


 足が震えている。


 体も限界だ。


 なのに、目だけは王から離せなかった。


「下がったら、たぶん終わりや。……ギンコ、ここがお前の言うたホンマの意味での分水嶺やと思う」


 ここでひよって引き下がれば、仮に生き残れても、この先はない。


 そんな予感がした。


「……」


 ギンコはただ黙って俺を見つめていた。


「見とれ」


 俺は血の混じった唾を吐いた。


「ここまできたんや。日本の社畜の意地、見せたるわい」


「……はい」


 自分でも、どうかしていると思った。


 怖い。


 怖いに決まっている。


 脇腹は痛いし、血も流れている。


 さっきの斬撃をまともに受けたら、俺の体は真っ二つだっただろう。


 それでも。


 今、頭の中を占めているのは恐怖だけやなかった。


 どう倒す?


 どこを狙う?


 あの剣をどう処理する?


 あの重さを受け続けられるのか?


 どうすれば、王の頭に『鬼軍曹』をぶち込める?


「……怖くないのですか?」


 ギンコが聞いた。


「怖いに決まっとるやろ」


 俺は笑った。


「けどな」


 屍の王が、大剣を構えた。


 地面が沈み、空気が重くなる。


「今は、俺の力がどこまで通じるか試してみたいんや」


 王が踏み込んだ。


 速い。


 巨体に似合わない速度。


 大剣が、真正面から振り下ろされる。


「来た!」


 俺は横へ跳んだ。


 さっきまでなら受けようとしていたかもしれない。


 だが、もう加護はない。


 まともに受ければ、体ごと潰される。


 大剣が地面を叩いた。


 轟音。


 地面に亀裂が入り、土砂が爆ぜる。


 その威力に、俺は喉を鳴らした。


 俺はすかさず横から『鬼軍曹』を振り、王の脇腹を狙う。


 がきんっ。


 硬質な鈍い音。


 『鬼軍曹』が大剣の腹を打った鈍い音だ。


 王の表情はまったく揺れていない。


「防がれた!?」


 王の肘が飛んでくる。


 俺は体を沈めて避ける。


 頬に風が走る。


 当たっていないのに、皮膚が裂けた。


「っ……!」


 頬から血が流れる。


 それを拭う暇はない。


 王の大剣が横から来る。


 俺は『鬼軍曹』で受け流す。


 火花が散った。


 くそ重すぎやろ。


 腕が痺れる。


 踏ん張った足が地面を削る。


「ぐっ……!」


 力比べじゃ、分が悪すぎる。


 真正面から受けたら、いつか潰される。


 なら、流し逸らす。


 押し返すな。


 受けたら負ける。


 体で覚えた感覚が、頭の中で叫んでいた。


 王の連撃は、重いだけではなかった。


 剣筋が鋭く、こちらの逃げ道を潰してくる。


 速さでは俺が上。


 だが、決定打が入らない。


 王の体は屈強だ。


 骨も筋肉も、黒い鎧のような皮膚も、すべてが異常に頑丈だった。


 王の大剣がまた来る。


 俺は避けきれず、肩口を掠められた。


 皮膚が裂け、血が飛ぶ。


「っ、痛ってぇ……!」


 止まるな。


 止まったら死ぬ。


 俺は踏み込んだ。


「スラッシュライン!」


 鋭い八連撃を叩き込むと、王の大剣がそのすべてを器用に受けた。


 激しく火花が散る。


 王は押されない。


 俺も引かない。


 何度も大剣と『鬼軍曹』がぶつかる。


 火花が朝焼けの荒野に散った。


 王が咆哮する。


「ぐぅがあああっ!」


「やかましいわ!」


 俺は叫び返す。


 そのまま横へ滑り込み、王の膝を狙う。


 だが、大剣が俺の進路を塞いだ。


 反応が速い。


 王も、ただ力任せではない。


 こいつも俺の動きに対応している。


 戦いながら読んでいる。


「……面白いやんけ」


 口元が、勝手に歪んだ。


 王が俺の動きに対応するなら、俺もやり方を変える。


 常に動きながら相手の癖を探る。


 どこで踏み込む?


 どこで剣を返す?


 どこに隙がある?


 ただ殴るだけでは勝てない。


 効率よく。


 段取りよく。


 奴に致命の一撃を喰らわすための勝ち筋を作る。


 王の大剣が上から来る。


 俺は半歩ずれ、『鬼軍曹』を王の剣の腹へ叩き込んだ。


 火花と共に、鈍く硬質な音が響く。


 王がすぐに横薙ぎで切り返す。


 俺はしゃがんで避け、また同じ場所を叩く。


 ガキンっ。


 少し距離を取り、引いた反動で再び突進して突く。


 王の剣は肉厚で巨大だ。


 普通なら砕けるようなものではない。


 だが、俺は何度も同じ一点へ執拗に狙いを定めた。


 いくら硬くても、ダメージは蓄積する。


「善一郎様……?」


 ギンコの声が聞こえた。


 俺は答えない。


 王の攻撃を避け、受け流す。


 隙を見て、同じ場所を何度も打つ。


 また同じ場所。


 さらに同じ場所。


 そんな俺の執念とも呼べる行為が、王の大剣にほんの小さな傷を入れた。


 俺は見逃さない。


 ここだ。


「はっ……はは……!」


 笑いが漏れた。


「段取りは終わったで」


「うがあぁぁぁぁ!!」


 王が吠えた。


 大剣を両手で握り、胸元に構えた。


 大剣からどす黒いオーラが吹き上がる。


 必殺の一撃。


 おそらく、受ければただでは済まない。


 だが、避ければ次に繋がらない。


 俺は恐怖を振り払い『鬼軍曹』を構えた。


 狙うのは、あの傷。


 あとは、効率を突き詰めるだけや。


 ずっと叩き続けた一点に狙いを定め、最短最小の動きで打ち砕く。


「スラッシュライン――十連!!」


 俺は踏み込んだ。


 一瞬のうちに、あらゆる角度から暴風のような連撃を叩き込む。


 ギャギャギャギャギャギャギャ。


 まるで、掘削機のような破砕音が響き渡り、盛大に火花を散らす。


 奴の大剣にひびが広がり、亀裂が入る。


 ばきんっ。


 王の大剣が、俺の連撃に耐え切れず、中ほどからぼきりと砕け、黒いオーラが霧散した。


「っ!?」


 王の動きが、初めて止まった。


 濁った目が、折れた剣を見ている。


 自慢の大剣が折れたことに、唖然としているようにも見えた。


「そこ」


 俺は大きく息を吐いた。


「ずっと叩いとったんや!!」


 王がこちらを見る。


 濁った目の奥に、ほんの一瞬だけ、戦士の光が宿った気がした。


 何かを小さく呟き、口端を上げた。


 俺は懐に飛び込んだ。


 『鬼軍曹』を両手で握る。


 腰を落とし、踏み込んだ足から力を通す。


 全身の力を、『鬼軍曹』へ集める。


「これで――」


 王が折れた剣で身を守ろうとする。


 だが、間に合わない。


「終わりやぁぁぁぁっ! ヘビースラッガー!!」


 渾身の一撃を、掬い上げるように王の顎先へ叩き込んだ。


 轟音。


 衝撃が抜ける。


 王の顔の下半分が吹き飛び、後ろへ大きくのけ反った。


 巨大な体が、ぐらりと揺れ、膝を折る。


 それでも、王は倒れなかった。


 濁った目で、俺を見ている。


 怒りか。


 憎しみか。


 あるいは、先ほど見せた、あの笑みの名残か。


 俺には分からない。


「往生せいや」


 俺は再び、『ヘビースラッガー』を渾身の力で打ち下ろした。


 ゴシャ。


 王の骨でできた冠ごと、、頭部をひしゃげさせた。


 次の瞬間。


 王の体に亀裂が走った。


 黒い灰が、胸元から噴き出す。


 そして、崩れた。


 巨大な体が、灰になっていく。


 王が消える。


 その瞬間、周囲にいた屍ゴブリンたちの動きが止まった。


 まるで糸が切れた人形みたいに。


 次々と、膝から崩れ落ち、灰になる。


 荒野に、静寂が落ちた。


「はぁ……はぁ……」


 俺は『鬼軍曹』を地面に突き立てた。


 立っているのが、やっとだった。


 全身が傷だらけだった。


 でも。


 勝った。


 勝ったのだ。


 俺は顔を上げた。


 赤黒い朝の空に向かって、息を吸う。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 雄叫びが、荒野に響いた。


 それは勝利の叫びだった。


 恐怖を吐き出す叫びだった。


 そしてたぶん。


 もう元の俺には戻れないと、どこかで理解してしまった男の叫びでもあった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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