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勇者が生まれた日

剣は動かなかった。びくりともしない。

まるで祭壇と一体化しているのでは、と思ってしまうほどに強く拒絶されている

ニルスは力が足りなかったのかと思い、柄をさらに強く握り締め、力を込める。

だが、いくら力を込めようと、やはり剣が抜けることはない...


聖堂に集まったすべての人の視線が、まるで突き刺さるような、ないはずの痛みを生み出していた。


「...ニルス様?」

モラナが、不安げな声を上げた。


ニルスは奥歯を噛み締め、さらに力を込める。全身の筋肉が悲鳴を上げ、ニルスの体から冷や汗が滴り落ちる、だぎ剣は冷酷なまでに沈黙を保っている。


その時だった、ニルスの頭の中に声が、いや、声というよりは思念なのだろうか、とにかく頭の中に男のものとも女のものとも言えない声が響き渡った。


「お前がその剣を抜くことができるとでも少しでも思ったか、この愚か者が」

その声はそう言うと、この聖堂に響き渡る程の大音量で笑い始めた。


「これだからやめられんのだ、まったく、人間という生き物は面白すぎる」


頭に声が響き渡るたびに、痛みも頭に響き渡るようだった。ニルスは頭に響く笑い声、そして痛みに耐え忍びながら聞いた


「お前は...なんだ?」


「私は...そうだな、お前ら人間が主とか、世界とか、天とか、あるいは神と呼ぶもの、・・・そして俺はお前だ」


その言葉を聞いたニルスは最後の言葉だけが妙に引っかかっていた。その声自身も自分が言った言葉に少し納得がいっていないようだった。


「...いや、おかしいな...なぜ私はこんなことを言って・・・」


ニルスの周りでは教会の者たちが騒ぎ始めていたが、そんなことはニルスには聞こえていなかった。ニルスが聞こえているのはただ一つ。自分のことを神などと言っている奴の声だけだった。


「お前は何を言っている...こんな変な奴が神なはずは...」


「いいや、私は神だ、お前をあの襲撃から救ったのも、その紋章を授けたのも私だ、もっともその紋章は何の意味もないがな」


ニルスは困惑と痛みで何も言えなかった、そして言っていることのほとんどが理解できていなかった。


「つまり、なんだお前は本物の神様だと?」


「だからそう言っているであろう」


「それと、あの村を滅ぼしたのは私だ」


「は?ーーー」

ニルスは意味がわからなかった


ニルスは思った、今語り掛けてきてる奴は自称、神だ。だが神なのならば、俺が住んでいた村を滅ぼす必要がない。しかも滅ぼしたのは魔王軍だ。そして俺は聖剣を抜けなかった、つまり勇者ではない、ならば助ける必要もない、ならばなぜ...


「理由なんてないさ、ただ面白い物語と復讐を胸に抱いて魔王を倒す勇者を見たかっただけ、それ以上の理由がいるかい?」


ニルスは再び脳内で考えずにはいられなかった、なぜ俺の考えに答えられている...心が読めるとでもいうのか...


「その通りだ、私は神だぞ、できないことなどない」


「なら、俺の村を救うことだってできたはずだ!なぜ救ってくれなかった?」

その神と名乗る声は呆れたようだが少し楽しそうに答える。


「話を聞いていたか?なぜ、私自身が組み立てた物語を自身の手で壊さねばならないんだ?」


「物語...?」

「そうだ、あんな内地に唐突に魔物の軍が現れることを不思議に思わなかったのか?これだから人間は」


わからなかった、何度説明されようとおそらくわからなかっただろう、ニルスは理解することを自然に拒んでいた。


「お前との問答はもうすでに飽きた、これで会話は終わりだ。それとお前は聖剣を抜けないとはいえ勇者ではあるのだ、せいぜい私を飽きさせないように魔王を討伐するがいい」


そう言うと頭の中で響いていたその声は消え、頭痛も収まっていた。

周りを見渡すと教会の者たちがニルスとすぐそばにいる聖女モラナを中心に円になり二人を守るように囲んでいた。


「大丈夫ですか?神と言っておりましたがもしや神にお会いになったのですか?」

モラナが少し涙を流しながらニルスに語り掛けた。その涙は喜びか、はたまた悲しみの涙なのかはわからない。

遠くでは騎士団長フォルティスの声も聞こえる、なんと言っているかは分からないが心配してくれているようだ。


「本物かはわかりませんが、多分神に会いました...でもその神は...」


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