伝説が始まる日
教団の総本山、ファルテーヌ大修道院、そこは魔王軍の侵攻に備えるという名目のもとに要塞化が進められていた。
小高い丘の上に建設された修道院の周囲には城壁が建設されその高さは約12メートル、厚さは厚いところで7メートルにも及び、城門は二重の鉄扉によって守られている。
もはや、グランバニア王国の王都であるキーテジの城壁と比べても何ら遜色ない。
そんな城壁に守られている修道院のさらに奥、教団にとって最も重要な場所に聖剣はある。もっとも聖剣のある場所に修道院を建てたと言った方が正しいのだが。
大聖堂の空気は、肌に刺さるほど冷たく澄んでいた。 天窓から差し込む垂直の陽光が、中央の祭壇に突き立てられた一振りの剣を照らしている。
アルバ教団の秘宝、聖剣グラデニウル、その剣は持つだけで勝利が確約され、先代の勇者がこれを振るい魔王を討ち滅ぼしたと言われている。
ニルスは純白の礼装に身を包み、教団の上層部とフォルティスらごく一部の騎士たちが見守る中、ゆっくりと石畳を歩む。
歩いていく道中で’’噂話’’がニルスの耳に入ってくる
「国王陛下はいらしてないのか」
「今国王派と教会派は一触即発だからな暗殺を警戒してるんだろうよ」
教会に対する疑惑の念があるということにニルスは顔をしかめる。
その隣を歩くのは、教団の象徴である、聖女モラナ
「どうかいたしました?もしかして緊張されていますか? ニルス様」
「いいえ...ただ、この重責に耐えられるか、少しだけ」
モラナは相変わらずの甘い声で語りかける
「初めて会った時のこと覚えていますか?あの時のニルス様との出会いはなかなかいい出会いとは言えませんが」
「ええ、覚えてますよ」
そう忘れもしないあの惨劇、魔王軍によってニルスの住んでいた村が蹂躙され生き残ったのはニルスだけだった。
モラナは奇跡的に生き残ったニルスを教団で保護してくれたのだ。
「あの時とは打って変わって立派な姿、見惚れてしまいますわ」
ニルスはこれが冗談なのかどうかがわからず反応に困っていたが、戸惑っている間にモラナがまた話し始めた。
「もうすぐ始まる聖剣の儀を終え、無事に勇者となられたら、神より授けられし魔王討伐の使命を果たしてもらいます」
「私も心苦しいのですが...魔王を倒せるのは勇者の紋章を持つ者のみ、我々教団には魔王城への道の掃除程度しかできることはありません」
「大丈夫です、この勇者の力がなければどうせあそこで死んでいた身です、今更命は惜しくありません」
「そう..ですか...」
モラナは少し悲しそうに、だがどこか満足げに言った。
モラナは祭壇へ着く直前に祭壇への道を逸れ脇にいる教会の集団の中に入っていった。
祭壇の前で、ニルスは片膝をついた。 モラナたち教会勢力の反対側では、王国の騎士たちが出席していた。フォルティス将軍が腕を組み、不機嫌そうにその様子を睨みつけている。
ニルスが緊張した面持ちで聖剣の柄に手をかける
ニルスは自分に語りかける。大丈夫だ、自分は神に選ばれた勇者なのだからと。
聖剣を抜くために手に力を込めると、聖堂一帯にまぶしいほどの光が満ちる。
今、伝説が再び始まろうとしていた。




