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奇跡

あの日、魔王軍が村を焼き、すべてが消え去った。  

「……逃がさない。どこへ行こうと、必ず殺してやる」


それから数年。ニルスは教団の「勇者」として、魔王軍との前線を渡り歩いていた。

あのころとは違い、魔王軍との前線である森のなかで、今、彼は押し寄せる魔王軍の尖兵の一部であるアンデットナイトの群れを前に、一歩も退かずに剣を構えている。


全身は返り血と泥にまみれ、肺は焼けるように熱い。だがニルスは己の復讐のため、そして自分を信じてくれる民衆のためにも引くわけにはいかなかった。

「神よ、僕に力を」


ニルスはそう呟き、教団から与えられた剣を振りかざす。

するとニルスの意思に呼応するように剣から眩いばかりの光があふれだした。

光はアンデットナイトの群れを一振りにて消滅させた。


確かにすさまじい力だ、だがニルスはこの力を振るうたびに過去に村が襲撃されたことを思い出さずにはいられなかった。

理由は単純明快だった、この力の光はあの時の、紋章が光ったときの光に似すぎているのだ。もはや同じといっても差し支えないほどに。

(少しこの力の事は気になるが、自分で使いこなせているのだ、心配はいるまい)


これで終わり...そう思っていた矢先に後方の兵士の一人が金切り声を挙げて叫んだ。

「勇者様!!うしろです!!」


その声に反応してニルスが振り向いた時にはもう遅かった。もうすでに後方の木の上に潜んでいた伏兵によって矢が放たれ回避不可能の近さまで接近していた。


その声が後ろから矢を放った卑怯者に対して炎のように怒りを燃え上がらせている声なのか、勇者の危機に恐怖していた声なのかはわからない、だがどちらにせよニルスの後方から矢が放たれこのままいけば頭部へ直撃するという事実は変わらないだろう。


そして、そこにいる誰もが、ニルス本人すらもこれは躱せないと思っただろう。


だが、その矢は突然吹き荒れた突風によって軌道を逸れ、ニルスの頬を掠めるだけにとどまった。


一瞬の静寂、直後「奇跡だ!」「神の加護だ!」「やはり勇者様は神に守られていられる」

そう後方の教団兵たちが騒ぎ始めた。


ニルスは神のことや加護の事をあまり信じることができなかったが、もはや信じないわけにもいけなくなってきた。

過去にもこのような奇跡は何度か起こっている。しかも起こるときはいつもニルスの命が危機にさらされた時だけだ。


(だが、ならなぜ神は村の皆を救ってくれなかったんだ、俺を救うんだったら村の皆も...)


ニルスは手元の剣を見つめながら思いにふける

(いいや、違うなこの感情は間違っている、すべては魔王が元凶、神を恨むのはお門違いというものだ)


(待っていろ、魔王。おまえがどれだけ強かろうと、僕はこの剣の光、そして神の奇跡を使いこなし、必ずお前を殺してみせる。おまえを絶望の底に引きずり出し、あの日と同じ地獄を見せてやるまで、僕は「勇者」をやめない...)


この時のニルスは、まだ何も知らなかった。

この世界の残酷さ歪みも、そして神のことも


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