カラクレナイ#91 餓鬼がとことこ
いやー部屋入ったらターゲットが銃咥えて自殺しようとしてるんやで?流石の俺でも少しビビったんやけど、何故か俺はその銃を弾き落として爺さんに説教し始めたんや。「何やっとるんや!」とか「大事な命やろ!」やら、それはそれはすごい剣幕でなぁ。
本来ならターゲットが自殺しようとしとったら先にドタマぶち抜かなあかん。そらそうや、そうやないと自分の戦果としては言えんからな。後の始末も楽やし状況としてはかなりいい方や。
だけども俺は助けてしもうた。あんのクソジジイを。……で、一通り説教が終わった後、爺さんがふてぶてしく呟いたんや。
「……もう、ええか?」
しゃがれた声で、それはそれはうざったいと言うような声やった。こっちが心配してやってんのになんやこいつは……っ!ってえらい腹たったわ。爺さんは肩を掴んでいた俺の両手を無理やりひっぺ剥がし、タバコを取り出して吸い始めた。そっから2回ぐらい吸った後やったかの…爺さんが話しかけてきた。
「テメェは…俺を殺しにきた野郎か。ったく、余計なことしやがって……」
「っく……!あんた……っ!」
「なんで殺さんかった。」
重い言葉やった。仮にも相手は一つの時代を作った傑物の一人や。俺の心にはドスが刺さったような衝撃が走ったわ。そこで気づいたんや。……まぁ、それ以前から薄々気付いとったんやが…俺には信念っちゅう絶対不変のものがないって。
俺は今までの依頼で殺し損ねたことは一度もなかった。相手が命乞いしてこようともお構いなしに。ま、後からわかったことやが俺は人を殺す時に右往左往して迷っているような痕跡が残るそうや。それが餓鬼の由来にもなっとるらしいが……つまり、普段も悩みながらゆっくり殺しておったってことや。情けないなぁ。
けどあん時は…相手が自殺をしようとしていた、老いてしわくちゃになった見窄らしい爺さんが。俺の手で死ぬんやったらまだええ、見るだけで可哀想な爺さんが自分で銃を咥えてるんや。
それだけの小さな条件や。そんな小さな条件が加わっただけで人の意思っちゅうもんはころっと変わる。まぁ元から怪しかったが…相手に可哀想、不安だ、助けたいなんていう付加価値、「情」っていうもんが湧いてくる。
まぁそれを捻じ曲げられるほどの信念があったらええ。そんなもんに囚われず、人なんてバンバン殺せるやろう。せやけどな、昔の俺にはそんなもの無い。空っぽな…伽藍堂や。
「テメェは任務をこなせる、俺は満足して逝ける。どちらにとってもwin win、せやろ?」
「……」
爺さんは間髪入れずに追撃を入れてきた。あん時の俺の心情と言ったら……ぐっちゃぐちゃ、最悪やったなぁ。けどやっぱり目の前にいる爺さんを殺す気にはならなかった。ひよっちまった。腰に刺した拳銃は抜けず、袖に隠したナイフは出せない。それどころか一ミリも動くことができんかった。呆然としとった。
「……座らんかい。話聞いてやろう。」
そうして全部ぶちまけた。自分の弱さ、なぜ撃てなかったか、自分には信念がないってことを。悲しいなぁ?業界では名が通った俺は本当は臆病な嘘つき野郎やった。物語としてはここで起承転結の転にはいるんやろうが…せやけどこれはまだまだ起、序盤も序盤や。一通り俺の弱みを握らされた爺さんは、タバコを吹かして一言こう言った。
「そうかい。くだらねぇな。」
「……」
あいつは俺の悩みを一蹴した。信念なんてくだらん。芯がなくても殺しはできるってな。ちょっと待て、だったら今までしてきた教訓めいた話は何やったんやって感じやがまだ先がある。
「……信念なんて必要ねぇ。伽藍堂だって構わん。大事なのは自分がどっちに進んでるかや。今のてめぇは一寸先も闇の中、進むべき方向がわからず右往左往してる状態や。そこから何を燃料にしてどこに進むのか。それが大事なんや。」
「燃料にするということはそれを犠牲にするということ、お前には犠牲にできるほどの何かがあるか?」
伽藍堂の俺に何を求めてるんやこいつって思ったわ。けど少し理にかなっていた。簡単に言うなら原動力や。何を原動力に動くのか。と言う話やな。確かにそれで言うと俺はずっと迷子だったのかもしれん。何かを求めて辺りを彷徨う。餓鬼っちゅう通り名もそれを言ってるんやろ。
じゃあ、俺は何を燃やすのか。ふっ、クイズタイムや。なんやと思う?……倫理観?あぁ……お前には俺がそんな人間に見えてたんか……悲しいわぁ。ま、冗談は置いといて、俺が燃やしたんは、いや、今も燃やし続けてるのは…その「理想」、そう俺が思い描いた「信念を持った自分」。
何を言ってんのかわからないって顔しとるなぁ。単純な話や、当時の伽藍堂の俺に残された唯一の願いは信念が欲しいと言う願いだけやった。それだけやったからや。選択肢が無いんやったらそれを燃やして動くしかあらへん。
で、理想を燃やすと伽藍堂の俺には新た思いが生まれた。諦念や。理想は世界を信じることで生まれる希望、それを燃やしたら世界どころか自分自身も諦めてしもうた。何かを燃やすと煙が出るがその煙が諦念やったんや。追いかけるもんがなくなって疲れたのかもしれん。そんな諦念に毒され、何もない俺は信用ならない、そんな俺が生きる世界がどうなっても構わない。だったらどうせなら世界に爪痕を残したい。そんなカスの思考に陥った。流石に今の俺はそんな思考はしなくなったな、なんせ子分が増えてしもうたから。俺は俺を信用してへんがその他大勢が俺を信用してくれとるからな。
でまぁあん時の俺は端的に言うと自暴自棄ってやっちゃな。それで…爺さんの家を出るわけやが……
「爺さん…気づかしてくれてありがとな。」
「大したことはしとらん。」
「そうか…これは謝礼や。受け取っとけ。」
まぁ躊躇わずに引き金を引いてドタマにぶち込んだ。笑ってたわ。にこやかにな。どっちがって?そんなん決まっておるわ。俺の方や。
そのままの勢いでショウの組に突っ込んでった。そして…依頼は終わったって言った後、手始めにあいつの目の前にいた構成員の頭を吹き飛ばした。次に扉付近の奴、椅子に座ってた奴、お茶を飲んどる奴と順々に殺した。……自分で言ってもふざけたことしとるな。何やっとるんやこいつ。
「な、なに、して……っ」
「気が変わった。もうどうでもいいんや。はっ、お前は生かしといてやるわ。」
「出すと思ってるのか……っ?このビルから……っ!」
「……あ?」
ひと睨みやったな。まぁそっから組との抗争が始まって結果的に俺はゴミ捨て場に捨てられるんやが。……で、ナイトメアの姉貴に助けられてここにいるってわけや。
あの人は…あの時の俺を否定も肯定もせずにただ血腫に矛先を向けさせた。理想は与えられなかったが、あの人は傲慢にも伽藍堂の俺を満たすほどの意味を定義した。怖い人やで。お前の筋書きはどうのこうのってな。で、まぁ……
「これにて俺の昔話はおしまいおしまい。ちゃんちゃん。」
プロットは無視するものとして書くのが最近のマイブーム




