カラクレナイ#89 看病れちごー
……んっ…ここは……?
「ん……」
「おっ、目が覚めたか。よかったなぁ、生きてて。なんか体に変わったところは?」
重い瞼を開け上体を起こすとそこは王城のベッドの上だった。周りを見渡すと俺以外にも負傷者が多数運び込まれているようだった。ここは…医務室か。そうか、確か師匠におんぶされて…自然と眠ってしまったんだった。それでここに運ばれたと…いや吸血鬼に医務室なんているのかって話なんだが、怪我は師匠の戦い見てる間に全部治ったしな。……隣では燈魔さんが椅子に座ってドスでリンゴの皮をむいていた。起きた俺に気づいた燈魔さんは優しく微笑みこちらを気にかけてくる。
「いや…特には……なんかありがとうございます。」
「なんや、えらいよそよそしいなぁ。俺とお前の仲やろ?気ぃ使わんでも……」
「いや、本当に。どこも怪我してないんで。」
「……ならええわ。」
そういうと燈魔さんは薄く切ったリンゴを皿に乗せ俺の膝下に置き、もう一つのリンゴにかぶりつく。ものすごい勢いで食べ終わると舌なめずりをした後こちらを向いて話し出す。
「あ、聞いたで?お前が敵さんの大将やりに行くんやろ?なんや知らんけどお前しか倒せんらしいやないか。適応がどうたらこうたら……まぁええわ。頑張れよ。」
「はぁ……冗談じゃないですよ。ったく、師匠は何考えてんだか……」
というかそれ、もう伝わってるんだな。つまり全面戦争のことも、猶予が1年ってことも伝わっているんだろう。……一年か、改めて考えても短い。そんな一瞬で強くなれるんだろうか?せいぜいあのタコ野郎と戦うことになっても瞬殺されないぐらいには強くならなければならないが……
「で?あの後どんなことになったんや?俺らも急いで向かったんやが一足遅くてなぁ。姉貴もあまり深く話そうとはしないから気になるんや。」
「どんなって……ただ俺が誘拐されただけの話ですよ?」
「アホが、俺がゆうてんのは敵の詳細や!どんな奴と戦ったんや?で最初の血腫っちゅうやつはどんな奴やった?」
「あぁ…そういう……」
全く、戦い好きすぎだっての。普通どんなことになったって言われたら状況を答えるけど…まぁいいや。
一通り敵の見た目や攻撃方法、パワーやスピードを話す…ついでにあいつらの家族構成も。すると燈魔さんは満足そうに頷き情報を噛み締めるように話す。
「なるほどなぁ…音速を超えた速度。確かにお前にはまだまだきつそうやな。」
「なんすか?そういうのいいですって……」
出来る側がよぉ……音速ってなんやねん。音超えんなよ。
「ふっ、まぁ聞いたところその血腫どもはファミリーやっとるわけや。似つかわしくないなぁ。血腫に家族なんてもんは。」
「師匠も言ってましたけど…僕はなんだってやってたらいいと思いますけどね……どうせ殺すんだし。」
「ま、結果的にはな。」
燈魔さんはニヤッと笑い目を逸らした。そう、どうせ殺すのだ。相手が家族ごっこでもなんでもしていようが殺す。最初は小さなものだった。よそから来た俺にとっては魔界の問題である血腫なんてさほど重要とは思っていなかった。それこそ自分を殺そうとした恨みからちょっと貢献できたらいいと思っていた程度。大したものではない。
けど今回の襲撃で決心できた。あれはダメだ。この世に存在してはいけないものだ。最初の、最強の血腫。まぁ正直にいえば魔界が思ったよりもディストピアしてたからちょっとまずいのでは?と思ったからなんだが。
どうせここに骨を埋めるんだ。住み心地のいい土地に変えていくのは当然だろう。
燈魔さんが俺の膝下に置かれているリンゴをつまもうとして意識が戻る。彼はリンゴを食べながら続けて話し出す。
「おかしいよなぁ。あっちにいた頃は戦闘も碌にしてこなかった少年が、今や敵の大将を殺すって覚悟を決めるほどになるなんてなぁ?なんや、姉貴に随分なことを言われたようやないか。」
「なんだよ、そんな覚悟決まってる顔してたか?」
「別に、お前見てると思い出すんや。似てはないが…俺にもそんぐらい若い頃あったなぁ……って。」
「燈魔さんの昔?」
そういえばそうだった。この人、ナイトメアに血を吸われて救われた混血の吸血鬼だった。そんな燈魔さんの昔っていうからには人間時代の自分なんだろうが……燈魔さんの高校生時代?想像がつかなすぎるな。
「せや……まぁ隠しとるわけじゃないからええんやけど。聞きたいなら聞かせたるで。大した話やないがな。」
兄弟子でもある燈魔さんの昔話、そりゃ気になるだろ。こんなの一択だな。
「それは…ぜひ。」
なんとここで唐突に挟まる燈魔の過去……!




