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来ていた客とは、昼間に森で出会ったエルフのシヴィエッタことシヴィだった。
「やー、正直宿代すらカツカツだったからさ。お言葉に甘えて来ちゃったよ」
と、やはり軽妙な言い方で笑うシヴィ。
「それに、ちょっと興味あってさ」
「興味?」
「うん」
そう言ってシヴィが俺に指差す。
「あんたにさ」
「えっ!?」
驚きの声を上げたのは俺ではなく、フランであった。
「シ、シヴィさん、トレイルに興味って······」
「ああ、心配しないで、別に──」
と、何か言いかけたシヴィであったが、言葉を押し留めニヤリと悪戯っぽく笑った。
「あー、実はさ。あたし、本当はイイ男を探す旅の途中でさー。いわゆるボーイハントってやつ?」
「ええっ?!」
「それでね、今日この人を見てトクンってきちゃったの。あたしと愛を紡ぐのは彼しか居ないって」
「う、うう、嘘っ?!」
俺がリアクションしたいのに、フランのとんでもすっとんきょうなリアクションが全てをかき消してつけ入る隙が無い。
「えっ、ト、トクン? トレイルに? トクンにトレイルしちゃったって、どういう事っ?!」
「落ち着け。俺の名前はトクンじゃない」
クスクスと笑うシヴィ。完全に遊んでる。
「なーんてね。冗談だよ。そうじゃなくて、モンスタースレイヤーなんて変わった仕事を思い付いたりする人間に興味が沸いただけだよ」
「な、なんだ~······そ、そういう事かあ······」
ほ~っ、とため息を漏らすフラン。
「びっくりしちゃったよ~。もう、シヴィさん冗談がキツいよー」
「あはは、ごめんごめん。なんか面白い反応しそうだったからさ」
カラカラっと笑ってから、ふっと俺の横に居るヴィオラとナズにも気づく。
「あ、そっちの子達も同僚かな? 初めまして、あたしはシヴィ。このお兄さんとは朝に運命的な出会いを果たしていてね」
「そうだ。俺らは運命的な愛の糸に導かれ、この後上の部屋で二人っきりしっぽり──」
「ト~レ~イ~ル~っ!」
「じょ、冗談だ」
幼馴染みからの殺気が凄まじいので止めておく。
「まあ、森でたまたま会ってな。冒険者のシヴィだ」
「あら、冒険者?」
「冒険者って、あの?」
その意外なワードにヴィオラとナズが軽く驚く。
「初めてお会いしましたわ。私、ヴァイオレットと申しますわ。ヴィオラと呼んで下さいまし」
「私はナズです。よろしくお願いいたします」
「ヴィオラにナズちゃんかあ。よろしくね」
二人を見たシヴィが謎の笑みを作って俺へと視線を向けてきた。
「魔人の子と竜族のお嬢様。それに、ドワーフとケトシーも居るんだっけ?」
「ああ、そうだ」
「へえー。あんた、やっぱりちょっと珍しいね」
と、妙な感想を述べてから立ち上がり、ヴィオラ達に手を差し出す。
「改めまして。あたし、シヴィエッタ・ピンサリッド。今日たまたまこっちの二人と森ん中で会ってね。今紹介してもらったように冒険者やってんだ。つまり、貧乏人でカツカツなの。だから一日タダで泊めて貰おうって魂胆。よろしくね二人とも」
「トレイルさんは頭の中が破廉恥な事でいっぱいですから気をつけてくださいませ」
「よろしくお願いします」
二人とも挨拶を済ませたシヴィ。
「それじゃあシヴィ、他にもあと三人同居人が居るんだ。紹介するぜ」
「よろしく~」
「フラン、ヴィオラとナズに何か飲み物淹れてやってくれ。今日は疲れたからな」
「おっけーっ」
「おほほ、お気遣いは無用。と、言いたいところですが、フランさんの淹れて下さる物なら喜んで頂きますわ~」
「私も手伝います」
その場はフランに任せ、俺はシヴィと共に裏庭に回ってみた。
思ったとおり、裏庭にはターナ達三人が居た。どうやらモンスターらの解体中らしい。フルトがあれこれ何か説明し、それをコクコクと頷いて聞くターナが解体し、ルッカが液体の入ったビンに素材を入れたり何かメモしたりしている。
「おーい、皆ー。お疲れさん」
「あ、店長!」
「お疲れ様、トレイル」
「お、お帰りなさい」
三人はすぐに俺の隣に居るシヴィへと視線を移した。
「あり? お客さんだかや?」
「ああ、シヴィって言うんだ。今朝森の中で出会ってな。実は俺は愛を語り合う運命の女性を探していて、一目見た瞬間トクンっときて連れて来たんだ」
「え、ええっ?! ト、トレイル君っ?!」
「ははは、君は真顔のまま冗談を言うからなあ」
びっくりするルッカと、冷静に笑うフルトの対比がなかなか面白い。
「シヴィは冒険者をしていてな。ギャンブルで金を使い過ぎて今日泊まる宿代すら磨っちまったらしくてな。とりあえず一晩泊めてやろうと思って」
「ちょいちょーい、ギャンブルはしてないって」
「私にはどこまで冗談か分かんない······」
「ずら~」
こうして、ここに居る全ての人間への紹介が無事に終わった。
夕飯の席にて。
「いやー、こんなまともな食事は久しぶりだよ。ごめんね、図々しく頂いてます」
「ううん、沢山食べてね」
今日も酒場に集まっての食事。フラン特製のミートパイはトマト味でイケる。
「それにしても酒場をそのまま拠点にしてるなんて贅沢だねえ」
「ああ、借りててな。皆でコツコツ修復していってここまで甦ったんだ」
「へえー」
感心したように天井や壁を見回すシヴィ。
「ねえ、ここは普段は何に使ってるの?」
「普段? たまにこうやって食事時に使ったり、客を通したり、作戦会議をしたりとか?」
「ていう事は、普段は使ってないんだ」
「まあ、そうだな」
少なくとも元々の酒場としては使ってないな。
「勿体ないねえ。ここなら今日からでも料理屋始められるのに」
「料理屋か」
フランも居るし出来なくはないかもな。
「いいな、それ。スレイヤー屋の副業で始めるか」
「え? 本気? トレイル」
「冗談だ。まだそんな余裕はない。それに、料理の事になったら俺は役に立てそうにないしな」
だが、ここは元々宿なんだ。
訪れた客を泊めたり料理を振る舞う事くらいは出来そうだ。
このままここが有名になれば遠方から依頼に来る者だって増えるかもしんないし。食事と寝床を提供出来る場所にするのはアリだな。
「······」
「どうしたの? トレイル」
「ああ、いや。なんでもない」
例えばだが······。
色んな地方の酒場と提携して、そこにスレイヤー屋の支部を設ける。なんて事も出来なくはないかもしれんな。
まあ、無理か。
少し現実味の無い妄想をしながら、賑やかな食事を楽しんだ。
お疲れ様です。次話に続きます。




