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昼飯後はどう予定を立てるか迷う。
「どうすっかな······」
田舎に住んでた時は家の事とか、狩りとか、畑の事に時間を合わせて行動していた。
軍に居た時はきっちりとした規則と時間スケジュールに沿って動いた。まあ、それをちょくちょく破ってはいたが。
だが、今は自分で店をやってるんだ。それも、商品を扱うような店とは違う。
依頼が来なければ、特にやる事が無いのだ。
「みんなの様子でも見て回るか」
同僚が不自由なく仕事してるか。暮らしているか。
それを見回るのも俺の仕事だな。
まずは酒場を覗く事にした。ここが客の応接間になるのだから。
最初にここへ訪れた時は酷い有り様だったが、今ではすっかり綺麗になっている。
資金が潤沢になったので修理するための資材を買ったからというのも大きいが、みんなでコツコツとリフォームしていった結果だろう。
特に、フランの力による所が大きい。
ただ修理しただけじゃない。彼女が過ごしやすい空間にしようと努力してあれこれと模様替えしていったからだ。
今では、すっかり酒場としての姿を取り戻した。まあ、どれかと言うとお洒落なカフェとかレストランになった感が強いが。
テーブルには可愛らしいピンクのクロスが掛かってるし、椅子にも女子向けのカバーが掛けられている。
窓際に置いてある花瓶には溢れるように花が差されている。
「ふんふ~ん、ふ~ん~」
フランの鼻歌が奥の部屋から聞こえる。
「ナズちゃん、そっちの流しはどう?」
「はい、大丈夫です。水も流れてます」
どうやら台所の整理をしているようだ。
「あ、トレイルさん」
俺に気づいたナズがはしゃぐように流しを指差す。
「見てください、こんなに綺麗になったんです。これならお料理も出来ますよ」
窯も使えるようになっている。これでシチュー以外にも色々な料理を室内で出来るようになった。
「それにしても良いキッチンだな」
「ねーっ。こんなに良いキッチンなのに蜘蛛の巣にしてたのはもったいないよ」
フランが雑巾を絞って流しの戸棚の中を拭いていく。
「お鍋にフライパンを買ってー、オタマとかも買ってー。それでスパイスでしょー、他にも燻製とかドライフルーツとか、ジャムとかっ。ん~! 夢が膨らむなあ~」
そう言って胸を膨らませるフラン。それ以上膨らんだら俺の夢も膨らんじまうぜ。
「よし。俺も掃除手伝う」
「ほんと? なら、トレイルはあっちの棚を動かしてくれる?」
「おう」
しばらく、フラン達のリフォームの手伝いをし、あれこれと台所の構想を語り合った。
「ふうー。後はあの二人に任せておけばいいか」
掃除の手伝いが終わり、俺は酒場を出た。
この調子なら中で食事をするのも楽しくなりそうだ。
もしくは本当に酒場を再開してもいいかも。なんて風にすら思ったり。
今度は裏庭に向かう。たしか、フルトとルッカ立ち会いの下、ターナがクイーンアントの解体をすると言っていた。
裏庭へと回ってみると、既に解体作業は始まっており、ターナがクイーンの死骸の横でモゾモゾと動いていた。
「うーん。やっぱり、基本的な骨格は普通のアントと変わらないね」
「でも見て。腹部の甲殻が二重構造になってる。受精嚢を守るために進化したのかな?」
「いや、クイーンと通常のアントに生物学的な違いは無い。同じ種だ。という事は、環境によって会得した身体的構造ということになって──」
横ではフルトとルッカの二人が解体済みの素材をあれこれいじって難しそうな話を交わしていた。
「つまり、モンスターも他の生物同様に接種する食物や栄養素によって変化が──あ、トレイル」
「よ。すまんな勉強中に」
二人の元へと赴く。
「どうだ? クイーンアントの素材は何かに使えそうか?」
「そうだね。武器とかには出来そうにないけど、内臓器官にある分泌物とかを使えば誘引剤の類いが作れるんじゃないかって話してたんだ」
「そうか。ルッカは既に忌避剤は作ったもんな。その逆もしかりってことか」
「う、うん。でも、今のところモンスターを引き寄せる薬って使い道無さそうだけど······」
「それは分からんさ。もしかしたら色々と使いどころが出てくるかもしれん」
それはそうと、金になる素材が手に入るのかどうかが気になる。
せっせと解体作業を続けるターナに声を掛ける。
「ターナ、どうだ? 良いもんあったか?」
「それで、ここに······お、おっ、と、取れたずら!」
声を掛けたタイミングで、ターナが喜びの声を上げた。
「クイーンの第三の胃袋を取れたずら~! しかも、中身は結構詰まってるずら~!」
そう叫びながら、リンゴくらいの大きさの小袋みたいな物をウキウキで掲げた。
そして、そこでハッと振り向いて俺に気づいた。
「わっ、店長! いつの間に?」
「ふ。瞬間移動ってやつだ。まだ甘いなターナ」
「ず、ずら?!」
「はは、違うよターナ君。トレイルはさっきからそこに居たよ」
「な、そうだったかや。ごめんずら。オラ、気づいてなかっただよ」
そう申し訳なさそうに言うターナ。
「気にすんな。それより、その小袋みたいなのは? 何かの臓器か?」
「あっ、そうだったずら! 店長、これがロイヤルゼリーずら! それが詰まった胃袋だわ!」
「おおっ、マジか」
ロイヤルゼリーが胃袋に詰まってるとは知らなかった。
「よくやったぞターナ。これ、どれくらいで売れるんだろうな?」
ルッカに尋ねると、
「多分、貴族専門の商人が高値で買ってくれると思う。その量なら······1,000ゴールドいくかも」
「マジ?」
めちゃくちゃな儲けだ。討伐料金の3倍以上だ。
「でかしたぞターナ。早速後でこれを売りに行こう」
「ずら!」
「じゃあ引き続きフルトとルッカと相談しながら解体してやってくれ」
「分かっただよ」
そして、解体作業の続きを見学しながら、フルトとルッカと共にモンスターの生態などについての勉強をする午後となったのだった。
そんな感じで過ごした一日はあっという間に終わり、充実感と共にベッドへ入って今日は就寝となった。
「······あっ」
寝る直前になって、ヴィオラの家に訪ねに行くのを忘れた事に気づいた。
次会ったらめんどくさい事になりそうだ······。
お疲れ様です。次話に続きます。




