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すっかり焼け野原にされてしまった街道周辺。
定期便の馬車は馬ごと炭のようになってしまっている。
そこから少し離れた場所に大きな岩があり、フランの顔がその裏からひょっこりと出て、大きく手を振っていた。
「衛兵の人達も何人か無事だよー! もうヒールしといたー!」
「おーう、ナイスー!」
数人の犠牲は出てしまったようだが、助かった者も居て良かった。
上級モンスターに襲われて、数十人規模の隊商やキャラバンが全滅するなんて事は珍しくないからな。
フランに手招きされ、岩の裏に回ってみると、7、8人の人間が居り、疲れたように岩に寄り掛かっていた。
「う、うぅ、いつつつ······」
何人かは寝かされている。怪我が酷いようだ。
「私のヒールにも限界があるから。二人くらいは町でちゃんとした手当てして貰った方がいいよ」
「そうか。ポーションあるか?」
「うん。使おっか」
既に戦闘が済んだ事はフランも分かっている。
念のために持ってきておいたポーションを怪我人達の傷にかけていく。
「なあ、フラン。フルトとルッカは?」
「そっちに居るよ」
岩の隣には木が立っており、フランはそれを指差した。
そちらへ回ってみると、フルトとルッカの二人が木を背にして座り込んでいた。
「フルト、ルッカ」
「トレイル! 無事だったか!」
フルトが顔を上げて笑う。その頬に火傷の痕が残っていた。眼鏡にヒビが入っている。
「大丈夫か? やられたのか?」
「はは。面目ないよ。やはり僕は研究室でデスクに向かうのが向いてるみたいだ。上級モンスターには手も足も出なかったよ」
そう言って立ち上がろうとして顔をしかめるフルト。
「無理するな」
それを押し止めると、申し訳なさそうに項垂れた。
「すまない。また助けられたね」
「また? あー······。あった、か?」
そういや演習で似た事があったような。
まあ、覚えとらん。
「気にすんなよ。お前には借りたのか貰ったのか分からなくなった金がそれなりにあるんだからよ」
「はは、有耶無耶になったのをそう表現するのが君らしいよ」
フルトは大丈夫そうだ。軽い怪我はしてるみたいだが、フランがあらかじめヒールしといてくれたんだろう。
「ルッカは平気か?」
彼女もすぐ側に居り、特に大きな怪我はしてなさそうだったが······。
「ひっく、ぐすっ······」
だが、彼女は泣いていた。
目元を両手で押さえ、小さく嗚咽をあげている。
「大丈夫か?」
「うっ、ひっく······ト、トレイル君?」
肩に手を乗せると、ルッカが顔を上げた。眼鏡が無い。
「ご、ごめんね、た、助けて貰ったのに、私······」
「いいよ、気にすんな。もう大丈夫だぞ」
襲撃の恐怖からだろうか。まだ泣き止まない。
フルトの方に目配せすると、力なく首を横に振った。
「怪我はほんとんどしてないよ。僕も彼女も。フラン君が治してくれたから。ただ······」
「ただ?」
「······いや、命あってこその人生だから、仕方ないんだけどね。残念ながら、僕らの財産は······」
そう言ってフルトは首を後ろに捻った。
確か、さっき道に馬車が丸焦げの炭みたいになって転がっていた。
「そうか。全部燃えちゃったか」
「少しは持ってこれたんだけどね。でも、命からがら、ほうほうのていだよ」
二人の手元には何冊かの本や、ノートらしき物があった。表紙が焦げたり穴が空いたりしている。
命の次に選んだのが学術書とは、本当にこの二人は学者肌なんだな。
「不運だったな。まさかサラマンダーがこんな所に現れるなんて誰も予想出来ないもんな」
「ああ。仕方ないさ。でも、ある程度は予測出来なくもなかったんだが······」
「?」
何か意味ありげな事を呟くフルトに聞き返そうとしたところで
「トレイルー! 町から援軍が来たよー!」
というフランの声が飛び寄ってきた。
町の方面から、何頭かの馬の影が向かってくるのが見えた。
──ゴトゴトゴトッ······──
「元気出して、ね、ルッカちゃん」
「ご、ごめんねフラン。せっかく久しぶりに会えたのに、私っ······」
衛兵達が手配してくれた輸送用の馬車に乗って俺らは町への帰路についている。
俺らの馬車は、俺、フラン、フルト、ルッカの四人で、以前よくつるんでた面子になったのだが、明るくおしゃべりという空気ではない。
二人とも大きな怪我こそ無かったが、精神的ダメージが大きい。財産のほとんどがサラマンダーの襲撃によって焼失したのだ。
現金はそこそこ残っているらしいが、故郷に帰れるほどあるかどうからしい。
「家にもロクな財産は無いしね」
「ぐすっ······私も······お父さんとお母さんが苦労して取り揃えてくれた物がほとんど無くなっちゃったから······」
「そうか」
不運としか言い様がない。
ルッカを慰めていたフランが俺の方をチラリと見てきた。
「ねえ、トレイル」
「オーケー。言わなくても分かってる」
まあ、とりあえず。
「なあ、フルト、ルッカ。二人はこの後どうするんだ?」
俺がそう聞くと、二人とも俯いたが、フルトはすぐに諦めたように笑った。
「今日はとりあえず、パデスのどこかに泊まるよ。安い所もあるだろうし」
ルッカの方に目を向けると、落ち込んだように頷いた。
「今日はもう疲れちゃった······」
「そうか······。なあ、二人とも。もし良ければなんだが、俺の家に来ないか?」
「「え?」」
フルトもルッカもシンクロするようにこっちを見た。
「家?」
「トレイル。君の故郷はもっと南だったんじゃ······」
「あー。訳ありでな。まあ、話すと長くなるんだが。とにかく、実は俺は今この町に住んでるんだ。他にも同居人が居るんだが。ほら、そこに座ってるのもその一人だ」
ニコッと笑うフランに、二人は驚いて声を揃えた。
「「同棲?!」」
「ああ、実はそうなんだ。もう俺らは愛の巣であんな事やこんな事──いてててっ!?」
「一緒に住んでるけど、二人だけじゃないよー」
俺の足を踏みつけながらフランが弾けるように笑う。
「私達、お店始めたんだ!」
フルトとルッカの二人は頭に?を浮かべて、同じようにパチパチと目を瞬かせた。
お疲れ様です。次話に続きます。




