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すぐに装備を整え、フランと共に北門から出る。
すでに衛兵が向かっているとの事だが、馬車を襲ったのは上級モンスター“サラマンダー”らしいとの事だ。
「フラン、情報が少ない。本当にサラマンダーなのか、一体なのか、それとも他のモンスターも居るのか」
「オッケー! 油断しないよ! 一応ポーションも多めに持ってきてあるから!」
街道を走っていく。衛兵達の物だろう。新しい馬の蹄の跡が残っている。
急がなくては。
「トレイルっ、どうしたの?」
「嫌な予感がするんだ。もしかしたら······」
「もしかしたら?」
俺は午前中にフルト達に会ったという事を走りながら伝えた。
「え!? フルト君とルッカちゃんが?!」
「ああ。定期便を使うって言ってた。だが、どの時間帯のとは聞いてない」
「まさか······」
「急ぐぞ」
「うん!」
俺らは走るスピードを上げた。
あらかじめフランが肉体強化魔法をかけてくれていたから、馬と同じくらいの速さで走る事が出来る。
さらには研ぎ澄まされた五感が、襲撃の音を捉えてくれるはずだ。
『ぐわあっ!?』
「!!」
「トレイル!」
悲鳴が真っ直ぐ前方から聞こえた。
そして、すぐにその場所が見えた。
遠くでひしめく馬や人の影。
そこに吹き荒れる真っ赤な炎。
「ぎゃああああっ!?」
悲鳴と共に地面を転がる火の塊。
それは火だるまにされた人間だ。
「アクア・ショット!」
フランがすぐさま水魔法を詠唱し、水の塊が幾つも放たれる。
それらは、暴れ狂う炎達に当たり、ジュッという音を立てて白い煙を巻き上げた。
「っ!」
霧のようになった水蒸気の向こうに、横倒しになった丸焦げの馬車の姿が見えた。
「フラン! お前は生存者の安全確保!」
「了解!」
俺はそのまま、まだ消えない炎の塊へと距離を詰めた。
肌に伝わる強い熱気。
『ゴロコココココッ······』
カエルのような独特の鳴き声を出して、その炎がゆらりと俺の方へ向いた。
「······」
前情報通り、そこに居たのはサラマンダーであった。
サラマンダー。『地のワイバーン』なんて揶揄される事もある。
巨大なトカゲのような姿をした奴だ。ワイバーンに例えられるが、その大きさは馬より一回り大きいかそのくらいだし、飛行能力はない。
だが、その特異体質によって、体表の鱗が逆立ち、それが蝋燭のように火を灯す。
それらがビッシリと何千何万と生えているので、その全身は燃え盛る炎のようになる。
ワイバーンと例えられるのは、この火炎能力によるところが大きい。火力を自在にコントロールする事が出来、ブレス程ではないが、広範囲に致命的な炎攻撃を繰り出せる。
『ゴロコココココ』
目が痛くなるような灼熱が唸りを上げる。
舌なめずりするような赤い火の向こうで、ギョロリとした目が動いた。
「こんな町の近くにこんな上級モンスターかよ」
『ゴロコココココ』
ブワッと大きく膨れ上がる炎。周囲の草が一瞬で飲み込まれる。
大きく飛び退いて、その炎の旋風を躱す。
「ふっ!」
サラマンダーの弱点属性は水だ。単純な話だ。
だが、水属性の魔法は、通常の魔法ならそこまで難しくないが、武器に纏わせるのは難しい。
「アイス・エッジ!」
剣には氷属性を纏わせる。これで少しは熱による痛みを軽減出来る。
同時に、空いている手をサラマンダーに向ける。
「アクア・ショット!」
──バシュッ──
フランには遠く及ばないが、我ながらなかなかの水の弾丸が発射される。
それは真っ直ぐ炎へと飛び、ジュワッという音と共に蒸気を爆発させた。
『ゴロロロロロッ』
サラマンダーの唸り声が響いた。
だが、今のくらいでは奴の強力な発火器官は無力化出来ない。
「アクア・ショット!」
──バシュッ、バシュッ──
距離をとりつつ、同じ水の塊を放つ。
サラマンダーの唸り声と、水が一瞬で蒸発する音が鳴り響き、徐々に炎が小さくなっていく。
「っ、今だ!」
やっと間合いに入れるくらいには炎が小さくなった。
「はあっ!」
氷属性によって極限まで冷やされた刀身からは薄い冷気の靄が立っている。
そこへ、さらに風の属性を合わせ、二属性の混合魔法を纏わせる。
「ブリザード・スラッシュ!」
身も凍る氷雪と、研ぎ澄まされた風の刃を織り交ぜた斬撃を飛ばす。
自分で震えるような冷気の旋風が、水蒸気の霧をたちまち凍らせてキラキラした氷にかえる。
ダイヤモンドダストのような空気を巻き込みながら、放った一撃が、赤い炎へと吸い込まれていく。
──ズシャアッ──
『ゴロロロロロッッ』
火の粉と共に、赤い血が辺りに飛び散る。
炎が大きく揺らいで、急速に縮む。
「っ!」
そのチャンスは見逃さない。
凍った草を踏み砕き、一気に肉薄する。
冷えきった霧の中、弱々しく燃える炎を背負ったサラマンダーの目と目が合った。
『ゴロコココココッ』
強靭な前足を振り上げるサラマンダー。火だるまにした獲物の焦げた肉を引き裂く残忍な爪を頬に掠めて躱し、代わりに剣を入れる。
──ザンッ──
『ゴロロロロッ』
苦し気な咆哮と、血が降ってくるのを受けながら、足下に落ちた前足を飛び越える。
高く持ち上がったサラマンダーの首元に氷雪の剣を柄の部分まで深く突き刺す。
──ズドッ──
『ゴッ······』
噴き出した血がたちまち凍りつき、それは赤い水晶の結晶のようになって固まった。
グラリと崩れ始めたサラマンダーから飛び退き、剣を構え直す。
──ズズン──
長い首はゆっくりと地面に横たわった。
そして、その背中に揺らいでいた最後の灯火は少しずつ小さくなっていき、おき火のようになってくすぶっていた。
もう炎が燃え盛る気配はしない。
「ふーっ······」
属性付与ではない通常攻撃魔法なんてずいぶん久しぶりに使った。それに、混合属性の大技も。
強張った肩を揉みほぐしながら、周囲を見回す。
ちらほらと動かなくなった人間の姿が見える。
「······」
ほとんどが丸焦げで、人相は判別できない。
「おーいっ、トレイルー!」
暗い気持ちになりかけていた俺を、フランの声が呼んだ。
「こっちー! フルト君とルッカちゃんも無事だよー!」
その朗報に、肩の力がやっと抜けた。
お疲れ様です。次話に続きます。




